« 春の臨時寝台特急上り「トワイライトエクスプレス」 | トップページ | バス・列車 日本一の席乗継~ 「はかた」→「リレーつばめ」 »

2013年2月11日

臨時急行上り「能登」

 急行「能登(のと)」と寝台特急「北陸(ほくりく)」とが廃止になった時は、ずいぶんマスコミが煽ったこともあって、その廃止はよく知られている。
 鉄道マニアと地元客を除けば、もう「能登」の姿は全く見られない、と思っている人も多いだろう。しかし、実はそうではないのである。

 「北陸」は全く運転されなくなったが、「能登」の方はその後も週末を中心に運転される臨時列車として運転を継続している。
 臨時列車というのは、建前上はその時々に輸送上の必要に応じてまさに臨機応変に設定され運転される列車、ということになっているので、一応は定期「能登」は「廃止」され、その後必要になる都度臨時急行を設定してそれを「能登」と名づけている、ということになる。しかし実際にはかなりの頻度で、毎回同じダイヤで運転されている。「臨時」と呼ぶのに相応しくないが、こういう臨時列車はけっこう多い。

 わたしは、「能登」廃止当時はまだだめだったのだが、その直後に宿泊を伴う旅行のドクターストップが解除となった。寝台特急「トワイライトエクスプレス」で夜行列車復帰を果たした後、いよいよ座席夜行にも挑戦してみよう、というわけで、所用で東京に行くのに「能登」を利用してみることにしたのである。
 現在のところ週二回は必ず運転されているが、臨時列車だから、いつ運転されなくなるかもしれない。過去にも、定番となっていたはずの臨時列車が、ある時時刻表を見ると載っていなかったり、 年々運転日が減っていき、いつの間にかなくなったり、ということはよくあった。定期列車の廃止なら報道もされるが、臨時列車は特に断りもなく運転を止めることが多いのである。

105281791

 「能登」もいつどうなるか分からない。今のうちに乗っておくのもいいだろう。

 
 金沢駅の6番ホームには夜もおそいというのに、多数の客が屯している。大きな荷物を持ち、旅装を整えている客は、「能登」を待っているのだろうが、そうではなく勤め帰り、呑み会帰りと見える人も少なくない。発車案内によると、「能登」発車の僅か十分後に、七尾(ななお)線の終電車が発車するのであった。地方駅にしては慌ただしいホームの使い方である。
105282262  わたしは、体力的な不安もあって、今回はグリーン席をとっている。経済性が身上の座席夜行でグリーンに乗るのは倒錯しているのだが、これも経験だ。

 やがて直江津(なおえつ)方から「能登」が入線してきた。定期列車時代の「能登」は、懐かしいボンネットタイプの国鉄色特急型電車が使われていた。現在臨時「能登」に充当されているのは、色は同じだがやや新しい型でボンネットでないタイプである。車輌の所属も、JR西日本から東日本に移管されている。
 接客上の変化は、全車指定席になったことである。夜行列車を中心に、指定席化の傾向にあり、わたしもそれは賛成だが、通路までいっぱいになって荷物に腰を下ろすとか、デッキに新聞紙を敷いて寝るとか、そういうひと昔前にどこでも見られた多客期の夜行列車の光景は、消えていきつつある。

105282283

 方向幕を見ると、臨時列車とはいってもちゃんと「急行/能登 上野(うえの)」というコマが用意されていて、「全車指定席」という註記まで加わっている。JR東日本にとっては新たに担当する列車だから、わざわざコマを追加したのだろう。長期にわたって運転を続けよう、という意気込みが伝わってきて嬉しいが、よくその字体を見ると、いわゆる国鉄フォントではなく、通常のゴシック体だ。新鮮ではあるが、ちょっと味気ない。
 グリーン席は最後尾1号車の後ろ寄り十六席だけを仕切って設けられている。改造によって設けたものなので、窓と席配置とは合っていないが、夜行だからそれほど気にならない。わたしの席は、グリーンの一番前だから、仕切りの壁と向かい合うことになる。ただ、後付けのこの壁は、側壁との間に隙間があり、しかもわたしの席の窓は、仕切りの向こう側の普通席ブロックとの間にまたがっている。だから、あたりが暗いこともあって、直接は見えない普通席の様子が、窓に映ってよく分かる。不思議な視界である。
 グリーン席に乗ったのは、わたしを含めて三名だけである。グリーン料金だけで、安ホテルになら泊まれそうな額なのだから、当然そうなる。普通席も、三割ほどしか埋まっていないようであるが、臨時列車というのはそれほど込まないのが通例だから、まずは上出来だろう。105282270
 仕切りの扉には不可解な案内がある。
「この車両は、グリーン車指定席です。「青春18きっぷ」ではご利用になれません。」
 とある。急行なのだから、「青春18きっぷ」を使えないのは当然で、なんでわざわざこんなことを書くのか、と思ったが、恐らくこの車輌は、新宿~新潟間の臨時夜行快速「ムーンライトえちご」と共通運用されているのだろう。車内のポスターも、「ムーンライトえちご」利用を前提としたようなものが多い。

 「能登」には数回乗ったことがある。
 最長片道切符の旅の途上に利用したのが初めてだったと思うが、この時はまだ機関車牽引の客車列車で、寝台車も連結されていたが、わたしは自由席車に乗った。
 その後前述のボンネット電車化され、寝台車はなくなったが、一時上野~福井間に運転区間が延長されており、この時期によく利用した。福井から乗ると、座席確保も容易だったので重宝した。
 しかし再び上野~金沢間に短縮されると、わたしは乗らなくなった。わざわざ金沢まで行って夜行に乗るのなら、東海道線の大垣(おおがき)に出て夜行快速「ムーンライトながら」などに乗る方が便利だったからである。現在はその「ムーンライトながら」も臨時列車に格下げされてしまったが。

 久しぶりの「能登」は、七尾線を待つ行列をかすめて、ゆっくり金沢のホームを離れる。地方とはいえ、金沢ほどの都市になると、高架から見下ろす市街は夜更けでも賑やかに明るい。
 十分ほどで津幡(つばた)に着く。津幡は七尾線の分岐点で、能登方面からの乗換駅で、列車名からすればここが乗降のメインになってもおかしくない駅である。だからというわけでもなかろうが、前の普通席には団体らしいたくさんの年輩客が乗ってきて、半分以上が埋まった。意外に乗るもんだな、と思う。
 倶利伽藍(くりから)峠を越えて石動(いするぎ)に停まる。乗降はほとんどない。自由席があった定期列車時代なら、金沢からこのあたりへの帰宅客も乗ったのだろうが、わざわざ指定席をとってまでは乗らない。
 高岡(たかおか)では、また大勢乗ってきて、普通席はほぼ満席になった。編成全部を見ないと乗車率は分からないが、けっこう人気だな、と思う。廃止報道で逆に「能登」の存在が浸透したのかとも思うが、夜行バスが気を吐く時代ながら、列車の方が落ち着く、という人も一定の割合でいるのだろう。寝台特急の「北陸」がなくなったことだし、寝台車も連結すると喜ばれるのではないか、というか、わたしも喜ぶ。
 普通席の盛況に比して、グリーン席は全く客が増えない。が、空いていることもグリーン車の値打ちであるから、これでいいのだろう。わたしはリクライニングを倒し、眠ることにした。薬の効果もあって、座席ではあるがよく眠れた。長い間忘れていた座席夜行の感触を愉しみながら。

 目が醒めると、あたりはまだ暗い。逆向きに走っている。寝ている間に長岡(ながおか)で方向転換したのである。
 やがて停車したので駅名を見ると、高崎(たかさき)であった。驚いたことに、グリーン席にも一人乗ってきた。まだ新幹線は走っていない時間だし、早朝の東京へ行きたい客がこのあたりから「能登」に乗るのは、以前もあったことである。今日は列車が込んでいるようなので、普通席が空いておらず、やむなくグリーン券を買ったのかもしれない。まだ眠いので、わたしはもう一度目を閉じた。
 次に起きると、窓を古めかしい車輌群が過ぎていく。大宮(おおみや)の鉄道博物館の横を通過したのである。乗り疲れるようなら大宮で降りて京浜東北線に乗り換えようと思っていたが、座席の坐り心地はいいし、立ち上がる気にならないので、このまま上野まで行くことにする。

105290664

 曙光とともに都会のけだるさが沸き立ってゆき、夜が明けた。こういう上り夜行の車窓がわたしは好きだ。
 上野駅の16番線に到着する。このホームは中間改札もある長距離列車用のホームである。頭端式ホームの根っこ近くに降り、列車の先頭部へ行くと、もうヘッドマークが回っていて、ちょうど「ムーンライトえちご」のマークが出ているところであった。

(2010年5月乗車)

|

« 春の臨時寝台特急上り「トワイライトエクスプレス」 | トップページ | バス・列車 日本一の席乗継~ 「はかた」→「リレーつばめ」 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。