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2013年2月11日

上り「トワイライトエクスプレス」 2~ 大遅延も雪を走り抜く

「太平洋フェリー新船「いしかり」の北航」から続く)

INDEX
 1.札幌駅~ 入線まで
 2.札幌駅発車
 3.五稜郭・就寝まで
 4.起床~ 直江津まで
 5.最後の力走 


1.札幌駅~ 入線まで

 苫小牧駅から急ぎ札幌に向かおうと思うが、雪のためJRもダイヤが乱れている。間もなく札幌方面行の普通電車が発車する、と構内放送があったので、急いでICカードをタッチして改札を入ろうとすると、バーが閉まってしまう。何度やり直しても同じである。
 しかたなく、券売機で切符を買うことにするが、そうしているうちに普通電車は出てしまった。次の札幌方面は、特急である。しかも三十分以上待たねばならない。少しでも早く出る列車に乗ろうと、港からタクシーを飛ばした意味がなくなった。連絡バスでも間に合った時間になるのである。
 特急券を買わねばならないので、「みどりの窓口」へ行くと、若い女性係員が坐っている。今度の「北斗」札幌まで指定席の特急券だけ1枚、と告げると、
「乗車券はお持ちですか」
 と係員が言うので肯くと、
「どのような乗車券ですか」
 と、何の愛想もなく言う。
「そこの券売機で買った普通乗車券ですが」
「見せてください」
 何かを疑われているようで不愉快だし、なんで乗継割引でもない特急券を買うのに乗車券の提示を求めるのか、と怪訝ながら、不自由な指でポケットから探り出す。と、
「特急券もご一緒でよろしいですか」
「は? だから特急券をください、と言ってるんですが?」
 さすがにちょっと声を大きくして言い返す。もう少し話の通じる係員を配置してほしいものである。が、まあもたつくのも時間つぶしにはなる。
 改札機を改めて見て気づいた。北海道はスイカは使えてもイコカは使えないのであった。さっきはイコカを一所懸命タッチしていた。スイカも持っていたので、そっちを使えばよかったのだ。

 札幌に着いたのが、十三時十五分頃である。これから乗ろうとする「トワイライトエクスプレス」の発車まで一時間もない。わたしは地下街などへ買い出しに歩いた。

 「いしかり」で苫小牧に着いて、そのままその日の「トワイライトエクスプレス」で帰るなど、正気の沙汰でなく、いったい何しに北海道まで行ったのだ、と呆れられることであろう。が、今回の旅は「いしかり」試乗が主目的であって、乗ると着いてしまっただけで北海道に用はない。
 帰りは当初飛行機にするつもりで、新千歳発便の「旅割」を早くから予約してあった。翌日の予定なども勘案してそうしたのだが、旅行日が近づいてくると、抑えつけた蟲がうごめいてきた。「乗り鉄」としては、せっかく北海道方面に魅力的で貴重な寝台列車が通じているのに、飛行機で戻るのが勿体ない気がしてしかたなくなったのである。
 しかし年末の連休明けだし寝台券などとうに売り切れではないか。運試しに、一週間ほど前に駅の窓口に出向き、この日の寝台特急の空席を調べてもらった。すると意外にも、「日本海」のA寝台と「トワイライトエクスプレス」のA個室に、それぞれ一席だけ空きがあった。マニアとしては、廃止が発表されて寝台券が取りにくくなっている「日本海」が空いていたことを驚喜するのがセオリーなのだろう。しかし、「日本海」には春に乗ったばかりだし、車内設備が何もない「日本海」とクルーズトレインとも呼ばれる「トワイライトエクスプレス」と、純粋にどっちに乗りたいか、と問われれば、やはり後者である。わたしはあまり迷わずに、「トワイライトエクスプレス」のA個室寝台券を購入した。
 とはいえ、冬季の寝台列車は、風雪の影響による運休もしばしばある。それで、航空券もキャンセルせずに残してあった。旅割だから、どうせいつキャンセルしても半額くらいしか戻ってこないし、連休は大雪の予報になっている。

 さて、発車直前に札幌駅に戻ってきてみると、電光掲示に「雪の影響により、大阪行トワイライトエクスプレスは、発車が大幅に遅れる見込みです」と表示されている。さっきから何もかもが裏目に出ている。苫小牧からの特急料金も無駄だったわけである。
 そんなことより、「トワイライトエクスプレス」は何時に出るのであるか。わたしは、改札の係員に訊ねてみた。すると、意外な答えであった。
「それが、大阪からの下りがまだ着いてないんですよ。もうすぐ着きまして、それから基地で整備するのに二時間ほどかかるので…」
「じゃ、早くても十六時くらいということですか」
「まあ、それくらいになりそうですが、発車時刻が決まったら、放送でご案内します」
 放送で告げるのでは、改札口付近にずっといなければならない、ということである。空港のように、登録しておけばメールで連絡してくれたりするようになればいいのだが。

 心もとないことになったが、このように始発駅から大幅に遅れた状態で運行するのも、雪の季節ならではの貴重な体験である。どういうことになるのか、記録する価値はあろう。
 そのため時刻や時間が文章中にやたら現れて、煩く感じられる読者も多いと思うが、鉄道に関する記録にはそういうものが重要なので、ご容赦いただきたい。乗車日は札幌発平成23年12月26日である。

 やることもないので、入場券を買ってホームに上がり、下りの到着を出迎えることにする。十四時二十分頃、入ってきた。

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 乗客たちは、さほど疲れたふうもなく、ホームに次々降りてくる。快適な列車だし、急ぐ人が乗るわけでもないのだから、遅れはさほど苦にならないのかもしれない。早速にも清掃のおばさんたちが乗り込んで、寝具の片づけにかかるのが見える。
 基地への回送を見送ってから、再びコンコースに降りた。しばらくうろついているうちに、放送が入り、上り「トワイライトエクスプレス」の発車が16時55分に決まった、ということである。
 二時間以上あるので、地下の食堂街で食事することにする。船を降りてからどうも慌ただしくて、まとまった昼食をとっていなかった。それに、乗車後のことも心配である。雪のためさらに大幅な遅れ、また立往生という最悪の事態もあり得る。非常用食料も買い込んでおいた方がよかろう。
 駅の地下街に行き、以前の記事「番外~ 携帯用カツカレー」でご紹介したカツカレー棒を購入することにする。嵩張らぬ食事としてはあれがいい。
 店を見ると、新しい商品として「そばめし棒」が出ていた。カツカレー棒と一本ずつ買う。後で食べてみたところ、やはりそばめし棒には違和感がある。理由は、以前の記事の「チーズドリア棒」と同様で、そばめしにはパン粉の衣が蛇足なのである。下の写真で上がそばめし棒、下がカツカレー棒である。

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 また、「カリカリチーズ揚げ」という、棒状のプロセスチーズを餃子の皮のようなもので巻いて揚げてあるものが、あちこちの店で売られていた。札幌あたりではポピュラーなものなのだろうか。これは酒の肴にもよさそうなので、やはり買い込む。

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 十六時三十分頃、改札に戻ってみると、ついに発車案内に「トワイライトエクスプレス」が現れた。十六時・十七時台の列車に混じって、定刻で表示されている。発車と同時に、乗客全員が特急券払戻し対象者にほぼ決定するわけで、このあたり、「新しい出発時刻」などと平然と案内する飛行機とは違い、律儀である。
 わたしにしても、この払戻しがあるなら、さきほどからのタクシー代や特急料金が相殺されお釣りがくる。妙な帳尻の合い方である。

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2.札幌駅発車

 入線を待ちかねて、指定されたA寝台一人用個室(ロイヤル)に入る。何度目かのロイヤルだが、かなり久しぶりだ。
 諸設備が充実している。ただしもちろん、列車の中としては、ということである。船やら、もちろんホテルやらとは比べるべくもないのだが、乗り鉄としては十分愉しい。
 食堂車「ダイナープレヤデス」につながる内線電話は、飲み物のルームサービスにも利用できる。以前は料理も頼めたと思うのだが、現在は飲み物のみとパンフレットに明記されている。ディスプレイは、エンドレスで流されている映画のDVDが観られる。テレビ放送が観られるといいのだが、残念ながらできない。
 シャワールーム兼洗面所兼トイレが、非常にコンパクトにまとめられている。壁から上の段を引き出すと洗面所になり、下の段は洋式便器である。前の立ちスペースは、シャワーを浴びる場所にもなる。トイレットペーパーがシャワーに曝されることになるので、シャワーを使うときにはトイレットペーパーを外して棚の上に置く方がいいだろう。いずれにしても、うまく設計したものといつも感心する。

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 私の隣の部屋は、A寝台二人用個室(スィート)で、これは編成中に二室しかない、この列車、と言うより、わが国の列車で最高峰と言ってもよさそうな個室である。二台のベッドの他にソファを備えたリビングもある。
 もちろんプラチナチケットで、わたしも乗ったことはないが、隣室を射止めたのは大学生風の若い男子二人連れで、明らかに鉄道マニアである。壁越しに大いに興奮しはしゃぐ声や、カメラのシャッター音が聞こえる。ちょっとうるさいが、気持ちはよく分かる。

 「ダイナープレヤデス」」のスタッフが、個室を回る。A個室にはウェルカムドリンクがあり、その希望を訊かれる。ソフトドリンクを含めていろいろ選択肢があるのだが、もう夕方だし、赤ワインを選ぶことにした。
 なお、朝食の予約は、B寝台の客も含めてこのときに入れることになるが、当然、早い者勝ちで希望の時間が埋まってしまうこともある。スタッフはA個室を優先するため、1号車から順に回る。B寝台に乗っているとき、希望の時間を確実に取りたければ、発車直後に4号車サロンカーにいるとよい。

 さて、ウェルカムドリンクが届いた。

 ワインはグラスではなく、ちゃんとしたハーフボトルにオープナーも付けてくれている。お茶はすべてのA寝台客に支給するようである。
 それと、備品にはティッシュボックスもあって、これは普通より小ぶりのため、職場でテーブルに置いておいたりするのに重宝で、いつも喜んで持ち帰る。 

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 そんなことをしているうち、いよいよ発車である。

 案内されていた発車時刻よりさらに遅れ、十七時二十一分頃にゆっくり動き出す。
 車掌さんも回ってきて、検札とともに、ルームキーのカードを渡してくれる。久しぶりなので、一応開け方をレクチャーしてもらっておく。部屋の説明も、希望すれば詳しくしてくれる。
 最初の停車駅である南千歳(みなみちとせ)のホームは、雪と氷に荒れている。石勝線方面からの乗換客を受ける駅だが、どれほどの乗車があったのだろうか。十七時五十九分頃発。
 新千歳空港を遠望して、ふと思い出した。もう列車も無事発車したことだし、とケータイを操作し、あの飛行機の予約をキャンセルする。飛行機も空港の除雪の影響で離陸が遅れたため、無手数料の全額払い戻しとなっていたのが、わたしには幸運である。
 さっき通ったばかりの苫小牧を十八時十九分頃、登別(のぼりべつ)を十八時四十八分頃に発車する。このあたりまで、走りは順調である。窓外はもう真っ暗で、時間帯からすれば上野行「北斗星(ほくとせい)」に乗っている気分がする。いつもの「トワイライトエクスプレス」だと、この区間で午後のティータイムが「ダイナープレヤデス」で実施されるところだが、今回は省略、既に予約ディナーの営業にかかっている。


3.五稜郭・就寝まで

 わたしも、十九時三分頃に東室蘭(ひがしむろらん)を発車したところで、自室内で店開きし、ワインも開けてゆっくり呑みはじめる。列車内の自分専用スペースで、流れ行く北国の景を見て揺られながら酔いが進んでいく。乗り鉄としてこれ以上の幸せがあるだろうか。
 元々酒に弱いわたしだが、四年間の禁酒が明けてからは、以前よりも酒を欲する度合いが強くなった。反動もあろうし、肝臓がしっかり休養していたこともあるだろう。それで、大したつまみも食べなかったのに、手酌を何度か繰り返し、気がついたらボトルは空であった。
 その間に、北海道側最後の停車駅である洞爺(とうや)を十九時三十九分頃に発車した。三時間六分遅れである。すっかり気分がよくなって、アルコールはもう十分な気がするので、わたしはお茶を開栓し、札幌で買ったサザエのおむすびを食べた。

 夕食らしきものはこれで済んだが、「ダイナープレヤデス」はパブタイムの営業に入っている。こういう運行状態のとき食堂車はどんな感じなのか、と思って、ちょっと覗いてみる。ドア越しに店内を見てみると、数人の一人客がちびちびやっているようである。
 そうしていると、ウェイトレスさんがドアを開け、どうぞ、と招じてくれる。せっかくなので、テーブルに着いた。が、あいにく、隣のテーブルの先客と、顏を見合わせるような坐り方になってしまう。坐ってからそう気づいたが、坐りなおすのも気が進まない。なぜこういうことになるかというと、ちょうど今、函館の一つ手前の駅、五稜郭(ごりょうかく)に停まったところなのである。ここから津軽海峡線に入るため、進行方向が逆になる。誰だって前向きに坐りたいものである。
 メニューが来たが、もう食べる方も呑む方も欲していないので、トマトジュースを注文した。好物だが、船の中では飲めなかった。ついでに、「トワイライトエクスプレス」関連グッズを購入しておこうと思い、そのカタログを見せてもらうことにした。

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 列車はまだ停まったままだが、先客はわたしと目を合わせないようにするのに疲れたのか、先に席を立った。それと入れ替わるように、あのスィートの二人が来店した。彼らは予約ディナーを食べたはずで、うわずった声で話しているので壁越しにそんなことまで知り得るのだが、さらにパブタイムで何か呑むらしい。こうなったら「トワイライトエクスプレス」の全てを味わいつくしてやろう、という意気込みなのだろう。
 カタログを見て、新顔のグッズで、実用的なものになりそうなのを買うことにする。ちゃんと列車オリジナルのレジ袋に入れてくれる。レシートにもエンブレムの柄が印刷されている。

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 購入したのは、まず「トワイライトエクスプレス」の機関車の形をしたホッチキスである。

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 そして、絆創膏。列車とロゴがさまざまにデザインされたものである。なかなか恰好いいが、あんまり怪我が治りそうな感じはしない。

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 列車は二十一時五十五分頃に五稜郭に着いてから、ずっと停まったままである。隣のホームに、札幌を定刻だと18時13分に出た特急「北斗(ほくと)20号」函館行が追いついてきた。あちらも少し遅れている。
 二十二時二十三分に、やっと動き出す。走りながら飲み食いしてこそ食堂車だと思うので、わたしはこれでようやく納得し、会計してもらい自室に戻る。

 外の灯もまばらになっていくし、酔いは回っているし、そろそろ寝支度をする。昼間はソファになっている部分を電動でベッドに変換するのである。背もたれが座面を越えて手前に倒れ、座面と連続した平面を形成するまで下がり、その上にシーツを広げれば、ベッドができあがる。

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 早速にも寝っころがりたいが、その前にカーテンを確実に閉めておかねばならない。朝、明るくなって駅に停まったとき、ホームや隣の線路の列車から、いぎたない姿を見られることになってはみっともないからである。備え付けの浴衣はわたしにはサイズが小さめであり、ちょっと寝返るだけで胸や太股が露出しそうでもある。
 青函トンネルもだんだん近づいているが、さすがに何十回も通ると飽きた。夜のトンネルというものは、そんなに何度も観察するほどのものではない。寝よう。
 電気を消して部屋が暗くなると、カーテンをめくって瞥見する外の雪が眩しいほどになる。明日の朝起きて、どこを走っているか、楽しみである。六時前くらいに起きるつもりだが、山形県の鶴岡(つるおか)を過ぎたあたりかな、と一人予想する。心地よい、というには少々激しい横揺れのなか、それでもわたしは眠りに就いた。

 「トワイライトエクスプレス」には、何度乗っても飽きない。暫く乗らないでいると、また乗りたくなる。やはり列車トータルのサービスが完成されているからだろう。
 上野~札幌間の「カシオペア」も、客車も新しくていいのだが、全車A寝台二人用個室という敷居の高さがある。「トワイライトエクスプレス」なら、開放式のB寝台もあって、気楽に乗れる。船のサービスを線路の上に置き換えるという発想で生まれた、文字どおりクルーズトレインであり、棧敷席から個室まで共存するのがまさに船だ。
 戦前の列車で言えば、「トワイライトエクスプレス」は各等特急「櫻」というところか。「カシオペア」が一二等特急「富士」に相当するが、もちろん、列車の設定目的もムードも、戦前とは似ても似つかない。こんな列車が走る時代に生きていることは、大仰だが運命的な巡り合わせ、という気がする。


4.起床~ 直江津まで

 
 目が醒めてカーテンを細く開けてみる。かすかに空が青みを帯びているから間違いなく朝だが、雪しか見えない。まさか北海道を出ていないわけではなかろうな、と思ってケータイの地図アプリを起動して現在位置を確認してみる。
 今しも通過した駅は、羽越線の小砂川(こさがわ)であった。さすがに本州ではあるが、まだ秋田県ではないか。予想よりもだいぶ手前であり、夜の間もどこかで足止めをくったらしい。定刻ならもう新潟県の長岡(ながおか)を過ぎていないといけない時刻だ。「トワイライトエクスプレス」の旅をより長く味わえる、ということではあるが、あんまり遅れると、運転打切りで強制的に新幹線や昼行特急に乗換えさせられるのではないか、と不安にもなる。「ほどよい」遅れ具合を望むなど、身勝手だと分かっているが。

 六時三十分にスピーカーからチャイムがこぼれ、おはよう放送である。四時間十三分遅れで走っている、とのことだ。こちらの心配をよそに、打切りだの何だのいう話は全く出ないし、続いて「ダイナープレヤデス」からは予定どおりの時間で朝食の案内がある。そのうち、六時四十二分頃、鶴岡を通過した。空は白くなってきたが、地面も相変わらず真っ白である。

 七時になると、「ダイナープレヤデス」からモーニングコーヒーが届いた。

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 これも、乗車直後にスタッフが来た時に、時間を指定して頼んでおいたもので、A個室のみのサービスである。本来は、一緒に朝刊も持ってきてくれるのだが、今日は積み込みが遅れているのか、添えられていない。ベッドから身を起こしたままの姿勢で動く景色とコーヒー、これもまた至福である。

 朝食は7時30分からの回の和定食を予約してあるが、二十五分くらいにはもう案内放送がかかる。
 隣の号車なので、すぐに席に着く。テーブルにはおかずがもうセットされていて、客が着席すると、ご飯と味噌汁が運ばれる。
 と、駅に停まった。昨日から、ひとが食堂車に行くと途端に停まってしまう。しかも停まったままさっぱり動かない。ここは、越後寒川(かんがわ)の駅で、名のとおりやっと新潟県に入ったのである。

 ご飯はちゃんとお櫃に入って出てきて、自分で茶碗によそうことになる。軽く二膳分ほど入っている。
 おかずは、それほどボリュームはないが、朝だからこんなものだろう。焼鮭やひろうすはほんのり温かい。

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 ひととおり箸をつけても、まだ列車は動かない。

 そんなに行き違いに時間がかかるのか、と思っていると、酒田(さかた)発新潟行特急「いなほ4号」が追い抜いて行った。

 二十分ほども停車したことになり、のっそり発車する。わたしも食事を終え、自室に戻る。八時四十分頃に放送、越後寒川が響いたのか、四時間三十六分遅れになっていた。直江津到着は十一時ごろの見込み、とのことだが、その先の時刻は分かり次第案内する、と言う。その先まで行くつもりであることが分かり、ちょっと安心する。
 瓢湖(ひょうこ)に近い水原(すいばら)を通過する。瓢湖はラムサール条約にも登録された、白鳥の飛来地として知られる人造湖である。この季節はまさに白鳥が多く滞在しているわけで、湖は駅から一キロほど離れているのだが、線路際の田んぼにもぽつぽつとその姿が見える。

 朝の最初の停車駅、新津(にいつ)に停車する。九時十八分に到着して、ここでも十三分の長きにわたって停車した。この先は複線なので、線路容量にも余裕があるはずだが、突発的なダイヤを挿入するのは困難とみえる。
 新津を出ると、また車掌さんの放送が入った。
「これより、皆様にカンパンとお茶をお配りいたします。カンパンと申しましても、固いパンではございません。缶に入った柔らかいパンでございます」
 元々列車に積んであるのか駅で積み込んだのか知らないが、こういう用意があったのか、と思う。この冬はけっこう列車が遅れた日が多いので、大いに消費されたことだろう。もちろん定員分あるのだろうが、配るのはやはりA寝台優先である。災害備蓄用のパンであった。
 
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 何もないよりはいいが、「トワイライトエクスプレス」にしてはわびしい食事である。途中駅の駅弁でも積み込めないのか、と思うが、JR西日本の列車としては、東日本エリアでそういう手配は難しいのかもしれない。今更ながら国鉄の分割が恨めしくなる。 西日本エリアの富山まで行けば、「ますのすし」くらい積み込めそうだが、富山に着くのは昼を過ぎそうなのである。
 新津で四時間五十六分に達した遅れだが、長岡では四時間四十分にやや短縮した。通常は長岡で十二分停まるダイヤのところ、すぐ発車したからである。
 その長岡発車後、京都・大阪方面に急ぎたい向きは富山で「サンダーバード」に乗継ぎができる旨、案内放送がある。急ぐ人に配慮するなら、上越・東海道新幹線を使った方がよさそうなのだが、長岡を過ぎてから放送を入れるのは、新幹線への振替えを避けたいという意図があるようにも思える。そちらには、JR東海という第三社が介在することになるので、なにかと厄介なのだろう。これも分割ゆえである。


5.最後の力走

 直江津を十一時十五分頃に発車して、ようやくJR西日本の路線に入った。車掌さんらも、ここからは自社線なので、何かあっても地上に対処してもらいやすく、気が楽であろう。
 急ぎの客は富山で「サンダーバード26号」の自由席を利用できることが告げられ、希望者は申し出るよう呼びかけられた。これに乗換えたとしても、大阪着は16時37分となり、「トワイライトエクスプレス」の定刻より三時間四十五分も遅れる。が、急ぐ人、というより、この列車に乗り飽きた人は、そろそろ乗換えたいことだろう。わたしなどは、こんな時間に寝台列車でこの区間を旅するのが珍しく、乗換えるのがかえって勿体ないと感じる。今度は昔の特急「白鳥」の気分だ。
 「ダイナープレヤデス」からは、ドリンクやグッズの販売やワゴンサービスを含め、全ての営業を十二時で終了する旨の放送がある。そこだけ定刻どおりなのは世知辛いが、契約がそうなっているのだろう。「北斗星」などは、大幅遅れで昼過ぎまでの運行となったときには特別に食堂車のランチ営業が行われ、そのためのメニューも用意してあるそうだが、それも大半が自社エリアを走るからできることのようだ。ろくに休憩時間もなく、揺れる車内でサービスに努めてくれたスタッフには、感謝せねばならない。
 それにしても、あの缶パン以外ろくに食べ物もないまま大阪まで行くのか、と心配になる。が、またアナウンスがあり、金沢で買物のため十五分ほど停車する、と言う。高速バスのサービスエリア停車のようなもので、いい配慮だ。食堂車や車内販売のない他の夜行列車や長距離特急にも、これを導入してほしいものである。
 こうした手配で、遅れへの対処が一段落したのであろう、車内放送には沿線・車窓案内を交える余裕がみえはじめた。

 富山には十二時三十九分頃着、四十一分頃発。通常なら朝食の時間帯に通る駅だが、今はそれぞれ缶パンを開けているのだろうか。
 「大阪」という行先だけを見て、間違って乗ろうとする客がいたのか、
「寝台料金が必要になります」
 と車内放送がある。

 料金が必要、というより、こういう列車は、夜の停車駅での下車と朝の停車駅での乗車は、はっきり断る方がよい、とかねがね考えている。高速バスのクローズドドアほど杓子定規にはできないにしても、列車の設定趣旨からあまりにも逸脱した区間の指定券は、発売をやめたり制限をかけたりしてもいいと思う。
 こんな主張は、わたしたち愛好家の自縄自縛になることも分かっているし、わたし自身学生時代には奇異な乗り方をしたこともあるから、臍を噛みつつ言っているのだが、実用的・実務的に鉄道を使うことが多くなるにつれ、そういう思いが強まった。
 近鉄特急だと、鶴橋(つるはし)や大阪上本町(うえほんまち)では、大阪難波(なんば)行特急には「当駅からはご乗車になれません」という毅然たる案内をしていたと思う。路線や運転系統が複雑なJRでは、よく停まる昼行特急などは判断が微妙になるのだが、考え方の基本はそうあるべきである。

 乗換え指定列車となる「サンダーバード26号」の発車は13時06分である。かなり時間があるし、この先の金沢で乗換えても同じ列車になるはずなのだが、ここでの乗換えを案内するのは、やはり買物休憩時間を提供するためだろうか。あるいは、始発駅から乗って席を確保してもらおう、という意図があるのか。いやしくも寝台列車の振替なのだから、空席があるかぎり指定席を用意してほしいし、A寝台の客はグリーン車に案内するべきだと思う。
 高岡(たかおか)に停まり倶利伽藍(くりから)峠を越えて、石川県に入って行く。

 金沢には十三時二十五分頃に着いた。買物停車は十五分程度ということであったが、わたしはもっと停まると踏んでいた。後から名古屋行特急が迫ってきているはずだからである。
 ともあれ、わたしは特に何も買おうとは思わないが、ホームを散策した。車掌さんや食堂車スタッフも、思い思いにホームを歩いている。
 ホームの表示を見ると、この列車は「回送」となっていて、正確な表示ではない。誤乗防止のためかとも思ったが、定刻のときはちゃんと列車名と行先を表示していたはずだ。定刻であっても乗られては困ることにかわりはないと思うが。金沢では既に乗車を抑止(つまり、もう新たにこの列車の寝台券を発行しない)する措置がとられていたのかもしれない。

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 予想どおり、13時46分発の名古屋行「しらさぎ10号」が発車した後でこの列車が発車した。例の「サンダーバード26号」も間もなく到着するのだが、これは金沢で八分も停車して車輌を増結することになるので、とりあえずこちらが先発するのだろう。
 発車して間もなく、ドアがノックされ、「ダイナープレヤデス」の女性スタッフが、遅くなりまして、と恐縮しながら朝刊を渡してくれる。新聞の積込み駅はここと決まっているのであろう。本来の勤務を終えた後のサービスと思われ、こちらこそ申し訳ない。
 美川(みかわ)で待避線に入って停まり、その「サンダーバード26号」に抜かれる。福井県に入った芦原(あわら)温泉でも待避線で停まったのだが、なぜか何にも追い越されることなく、すぐ発車した。定時だとここで「サンダーバード」を待避するはずなので、それに倣っているのだろうか。

 さて、わたしはちょっと落ち着かない気分で窓を、というか、対向の線路を、見つめはじめた。珍しい光景が見られるかもしれないからだ。春江(はるえ)を通過して暫くしたところで、期待どおりのものが現れた。 

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 長途の旅に挑まんとする下り札幌行「トワイライトエクスプレス」である。こんな所で上下が擦れ違うのは珍しい。あちらは今のところ定刻らしいが、この先羽越本線や北海道の雪は今夜も激しく深いはずで、やはり札幌着は少なからず遅れるであろう。安全な道中を祈りたい。

 福井には十四時五十五分頃に到着した。
 この先、敦賀(つるが)での機関車付替え停車を除けば、これといったイベントももうなく、大阪まで「サンダーバード」に脅かされつつ地道に走るのみであろう。所要時間が二十四時間を越えることはほぼ確実だ。そして、ここまで帰って来ても、窓外を支配するのはやはり白なのであった。


(平成23年12月乗車)

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