« 各駅停車の指定席 | トップページ | 過渡期の学園都市線と特急「スーパーおおぞら」往復 »

2013年5月 2日

大幅遅れの寝台特急下り「北斗星」

 夏季休暇は沖縄に出かけることが多かったが、台風に翻弄されたのに懲りたこともあり、その他いろいろの事情もあって、今年は北へ転じることにした。
 しかし台風はなくても、旅程が狂う要素はどこに隠れているか分からないのであり、この日も上野(うえの)から「北斗星」に乗るまでに、けっこうすったもんだしたのだが、何とか発車時刻までにホームに出ることができた。

 9月に入っての平日だから、列車もそんなに込んでいないだろう、と多寡をくくっていたら、どうして、「トワイライトエクスプレス」も「カシオペア」も満員で、「北斗星」のB寝台個室(ソロ)のキャンセルが出て、二日前にやっと入手できたのであった。「北斗星」には前にも乗ったが、それしかなければしかたがない。この列車も満席に近いようだ。

 上野駅にお尻から入線するのは前回と同じである。
 乗り込んでみると、わたしの個室は下段で見晴らしもきかず、ベッドに坐ると進行方向の逆向きになってしまう。しかし部屋が取れただけ幸運と思わねばならない。 

Dsc_0004

 シャワー券を確保したいので、荷物を置いてすぐ食堂車に行く。暑い季節だから同じ思いの人が列をなし、発車前に夜の分は満員となった。わたしはもとより朝風呂のつもりだったから支障はなく、無事シャワー券を手にした。そうしている間に列車は動き出している。 
 寝台券が直前の購入だったので、ディナーの予約までは手が回らなかった。予約なしで利用できるパブタイムが始まるのは21時30分頃になる。それまでの無聊に堪え得ず、自室で持ち込みの缶ビールを開け、ちょっとしたつまみを口にした。

 待ちかねたパブタイムの案内放送がかかった。席を立って出かける。既にロビーカーで待っている人もおり、その人たちが優先して席に案内される。わたしの個室はあいにく食堂車を挟んでロビーカーの反対側であり、列に並ぶのは億劫だった。しかし、開店後に覗くと、幸い空いたテーブルがあったので、嬉しく坐る。
 メニューはそれほど豊富ではないが、酒類はもちろん、ソフトドリンクからスィーツ、おつまみに本格的な食事まで、ひと通りの形態のものはある。
 わたしは、ピザとワインをいただくことにした。

Img_20120905_215250

 レジで代金を支払いながら、ウェイターさんに、
「朝食営業は何時からですか」
 と訊くと、
「6時半からですが、10時オーダーストップですので、遅めにこられるといいですよ」
 と、目配せするように笑う。その意味は、その時は分からなかった。
 いい心地で連結器を跨ぎ、そのまま自室で横になる。適度の揺れが眠気を誘う。

 様子がおかしい気がして、目が醒めた。六時前くらいに起きるつもりだったが、窓から薄明るい光が差しているので、時刻はほどよいようだ。おかしいのは、さっきからかなり長い間、列車が停まったままのような気がすることである。
 わたしは、カーテンをそっと開けてみた。駅に停車している。駅名標を目で探すと、「三沢」とある。青い森鉄道の三沢(みさわ)駅である。定刻ならもう青函(せいかん)トンネルを抜ける頃だから、かなり遅延しているようである。
 少し早めのおはよう放送が入った。前を走る貨物列車が人身事故に遭い、現場検証の都合で三時間ほど運転を見合わせている、まもなく運転再開の見込み、とのことである。
 次いで、食堂車からは、朝食を予定どおり供する旨、放送が入る。

 六時二十五分頃に食堂車を通り抜けてロビーカーに行ってみると、けっこうな行列である。一輌の半分しかないロビー部分に列ができるので、心理的な混雑の度合いが大きい。ウェイトレスさんが現れ、
「浴衣姿、スリッパ履きでのご利用はお断りしております」
 と告げる。該当する人が慌てて着替えに帰るが、連れに場所取りを頼んで列を離れるから、順番が繰り上がることはない。
 六時半に開店したが、すぐにテーブルは客で埋まっていく。相席になったりグループがばらけたりするが、それでもわたしのすぐ前で満席となった。席に着けなかった客は、ウェイトレスさんに名前を告げ、ロビーカーで待機となる。
 朝食など、早い客は三十分もかからずに食べ終わるだろうから、すぐに呼ばれるな、と思っていたが、なかなか呼びに来ない。そうする間にも新たな客が現れて食堂車に入って行っては、悄然とロビーに戻ってくる。ロビーはどんどん込んでいく。
 七時を過ぎ七時半を過ぎ、八時が近づくと、だんだん焦りが出てくる。困ったことに、シャワールームの予約時間は、8時30分からの三十分間なのである。開店時に行けば、少し待つにしても、二時間もあれば食べ終えることができるだろう、と思ったのだ。それが危うくなってきたではないか。
 八時を過ぎて、ようやく名が呼ばれた。なんでこんなに時間がかかるのか、見定めてやろう、と意気込んで食堂車内に入ってみると、事情が分かった。開店時に入った客が全て食事を終えて退散するのを待ってから、テーブルセットを整えて第二陣を迎え入れたのである。とりあえず、指定された端の二人席に一人で着く。
 わたしの後も次々客が呼ばれてはテーブルを占めていく。それにも時間がかかる。しかも、まだ多数ロビーカーで順番を待っているのに、第二陣は相席をさせないのである。空席を残したまま、オーダーをとりはじめる。格式として相席を認めないのは分かるし、第一陣の相席は客の自発的なものだったので、黙認したのだろう。待たせた客への配慮としてゆったり食べてもらうという意味もあろう。それはありがたいが、まだ待っている人にちょっと申し訳ない。
 結局、和定食の主菜が出てきたのは、八時二十分になってからだった。確かに待っている間がもてないから、相席でないのはありがたい。メニューは前回と変わらない。

Img_20120906_082726

 八時半に食べ終えるのはどう考えても不可能である。シャワーカードは払い戻すか時間帯の変更をしてもらおうか、と考えたが、食べはじめてみると、どんどん箸が進む。最後のコーヒーまで順調に進んで、四十分には席を立つことができた。
 こうなると、なんとなく挑戦的意欲が湧いてきて、わたしは急ぎ足で自室にとってかえすと、風呂の用意をしてシャワールームに急行し、残り十五分ほどでカラスの行水を無事に終えてしまった。

 慌ただしくも長い朝の時間が過ぎた。その間に列車は北海道に入っている。
 函館が近づくと、車内放送は、札幌へお急ぎの方は函館で後の「スーパー北斗」にお乗り換えください、と繰り返す。しかし、ここまで遅れてしまって、四十分やそこら早く着いてもしかたがないので、乗り換えようとする客は少ない。函館には九時五十分頃に着いた。「スーパー北斗7号」は10時40分発なので待ち時間はかなりあるが、一晩乗り続けた客にとってはいい休憩かもしれない。
 函館本線に入ると、長い距離単線が続くので、交換待ちでますます遅れるのではないか、とも思ったが、元々列車本数も多くなく、森(もり)までは路線が二手に分かれていることもあり、割合順調に走っていく。

 東室蘭(ひがしむろらん)を十二時四十分頃に出た。
 そこで食堂車から放送が入る。営業終了のお知らせかと思ったら、臨時に昼食営業を行う、と言うではないか。これはこれは、と腰を上げる。上り「トワイライトエクスプレス」の時は、列車が遅延しても昼食を供することはなく、お昼には食堂車の全ての営業を終えてしまった。それと対照的である。逆に、所定では下り「トワイライトエクスプレス」でしか行われなくなった食堂車の昼食営業を体験できるのは、ありがたくも珍しい。それで、わたしも非常用食糧はバッグに一応用意してあるにもかかわらず、敢えて食堂車に行くことにしたのである。
 ただ、アナウンスの十二時四十分という時刻に加え、オーダーを受ける時間は十三時まで、短く区切られている。しかも、メニューはビーフカレーのみだと言う。これでは、出かけようとする人は限られるだろう。朝食の最後の客が終わったのは十一時頃になっていたはずだ。そこから昼食の態勢を整えるのに、これだけかかったということか。

 テーブルに着いてみると、思いの外きちんとしたメニュー、といっても一品だけだが、それが用意されている。昼食営業はちゃんと遅延時の対応として準備されているようだ。ビーフカレーなら、缶入りのルー湯煎しただけで出せるから、多めに積んであるのだろう。パブタイムなどで出るビーフカレーは別容器にルーを入れていたと思うが、この時は、皿に盛られたのが出てきた。  

Img_20120906_124434 Img_20120906_125045

 この他、ドリンク類は全て注文できる。わたしはアイスティーを追加した。
 臨時営業にしては充実した内容だと思ったが、やはり抜き打ち的告知ということもあり、利用したのは六組八名のみであった。食堂車としても、これ以上詰めかけられても困るのだろう。
 そうしているうち、列車は登別(のぼりべつ)に停まり、その先の竹浦(たけうら)で運転停車する。ここで「スーパー北斗7号」に抜かれた。同じ列車の中で三食も食べて、すっかり腹がふくれ、自室で横になってまどろむ。日本一長い直線区間に入っているので、乗り心地がよい。

 札幌が近づく。部屋の片づけと降り支度をせねばならない。

Img_20120906_130602

 札幌に到着したのは十四時三十八分であった。十九時間半にわたる「北斗星」の旅は、珍しくも愉しいものになった。列車が遅れたからと苛々しなくていいのが、休暇中の旅行のいいところである。こんなこともあろうかと、後の予定もあんまり詰め込んではいない。
 わたしは精算所へ行き、特急料金を払い戻してもらった。寝台券は前回乗った時と同じ体裁なので、手離すのは惜しくない。

(平成24年9月乗車)

|

« 各駅停車の指定席 | トップページ | 過渡期の学園都市線と特急「スーパーおおぞら」往復 »