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船の科学館と羊蹄丸

 お台場にある「船の科学館」が、この九月に閉館となった。施設の老朽化などが理由のようで、また新たな形で展示は再開するそうだが、鉄道趣味人としては、ここで係留・公開されていた元青函連絡船・羊蹄丸(ようていまる)が観られなくなることが、気にかかる。お台場だからいつでも行けると思って、今まで行かないできた。
 それで、閉館の迫った九月中旬に出かけてみた。

 ゆりかもめの船の科学館駅を降りてすぐ、大きな船、と見える建物が見える。入口まで炎天下けっこう歩かされたが、中に入る。閉館を控え、入場料は大幅な割引となっているため、館内は相当混雑している。 

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 煙突のように見える展望台にはエレベーターで昇ることができる。
 そこから下界を眺めると、意外に緑が多い埋立地をゆりかもめが行き来する様が、映画のセットか何かのように見えている。南西側に立つと市街地から羽田空港の方まで見渡せた。

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 そして、東側には科学館の付属施設である二隻の保存船舶がある。手前が初代の南極観測船「宗谷」、奥が羊蹄丸である。
 「宗谷」は、軍艦を改造したということもあって、思ったより小ぶりでスマートな船である。青函連絡船と比べても、こんなに小さい。

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 さて、メインの建物を出て、二隻の方へ歩いていく。
 「宗谷」の中は、長身な方のわたしにとっては、船内で背筋を伸ばして歩ける所がほとんどない。戦前の日本人の体格に準じているのだろう。乗組員の居室は、船なのに列車寝台並みに狭く、厳しい勤務が偲ばれる。

 羊蹄丸の手前には、この船のスクリューが展示されている。つまり羊蹄丸は、水に浮かんではいるが、もはや自力では航行できない、ということである。閉館後の譲渡先が公募されていたが、この大きな船をどこかへ曳航することになるのだろう。

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 船内は展示館としてかなり内装に手が加えられていて、青函連絡船時代を思わせるような痕跡はほとんど見あたらない。客室や食堂は跡形もない。拍子抜けしたが、それでも船体がこうして保存されていること自体、貴重なことだ。
 最下階の床がシースルーにされていて、エンジンが覗けるようになっている。この機関室の中も見学できるツアーが、人数を限定して毎日募集されていたそうだ。
 操舵室は、現役時代にも見学したことがなく、ここは機器類が比較的原型を保っていたので、面白く見回ることができた。

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 アトラクション的な展示として、昭和戦後頃の青森駅周辺の情景を再現したエリアがある。客車や機関車は実車のようである。これらの車輌も貴重だと思うが、閉館後はどうするのであろうか。
 周囲には、駅の手荷物受付窓口や、駅前の市場なども実物大で造られていた。

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 船内の展示をひととおり観終えて、甲板に出てみる。
 わたしにとっては、ここが最も青函連絡船を思い出させる場所であった。青函連絡船は、昭和63年3月の青函トンネル開通と同時に本運航は廃止されたが、その後青函博覧会に合わせて三カ月ほどの間だけ復活運航された。
 わたしはその時期に、まさにこの羊蹄丸で青森から函館に渡った。その時も夏であり、四時間弱の航行時間の多くをわたしはこの甲板で過ごした。
 また、本運航の最終日にもわたしは十和田丸で函館から青森へ向かっている。その時は、多くの人の思いが交錯して、胸に迫るものの大きい航海となった。十和田丸の甲板からも、すれ違う摩周丸に手を振った。青森で下船口に立ち、搭乗客一人一人と握手を交わしていた船長の、引き締まった表情の上に震え落ちそうになっていた涙の滴は、忘れることができない。
 甲板を見回したとたん、そんないろいろなことがいちどきに眼底を去来した。

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 貨車が出入りしていた車両甲板入口は当然閉じられているが、これこそ鉄道連絡船だった証だろう。

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 譲渡の公募には、意外にも多くの問い合わせがあったという。できるだけ現状に近い展示がなされることを望みたかったが、残念ながら解体されることが決まったそうだ。

 なお、船の科学館本体の展示についてはほとんど書かなかったが、あれはあれで相当見応えのある内容だった。特に、多数の精巧な船の模型は、単体でも価値がありそうな物ばかりが、何十と並べられていた。
 お台場がその名で知られるようになるはるか以前から船の科学館は存在していたのであり、いわば埋立地の生き証人である。この科学館も、早期に何らかのかたちで再開してほしいものである。

(平成23年9月訪問)

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