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長崎にいる元仙台市電(貸切運行)

 昨年暮れ、知り合いの鉄の方から、記念の日に長崎で電車を借り切って運行する、という報せが届いた。
 長崎の市内電車を運営するのは、長崎電気軌道という私鉄である。この会社は、全国あちこちの都市から中古車輌を導入して走らせており、広島電鉄と並んで、路面電車博物館の異名をとってきた。このごろは、新型車輌も補充されて、他都市の車輌は予備車となっているようだが。
 しかも、個人利用の貸切運行も公式彩図で積極的に宣伝している。件の人も、今回それを利用したようだ。普通運賃に電車の定員を乗じた、さほどの高額でない運賃で運行してもらえるのである。

 さて、何を記念した運行かというと、 件の人は乗り鉄と並行して自転車で各地を旅する趣味も有しているのだが、今回の旅行で全ての都道府県を自転車で走ったことになるのだという。これを機に、思い切って電車を借切ることにしたのだそうだ。
 この人は、以前仙台で生活していたこともあり、それならば、と長崎電気軌道に在籍する元仙台市電の車輌を指名した。こういう車種の希望にも、極力応じてくれるのだ。

 知らされていた時刻の少し前に、蛍茶屋(ほたるぢゃや)の電停に赴く。電停は道路中央にあるホームを二本の線路が挟む形になっている。各方面への系統が次々に着いては折返していく(写真下は蛍茶屋電停。左の電車は5系統石橋行、右は4系統正覚寺下行)

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 電停の奥は車庫につながっているが、今回の車輌の所属はここではなく、浦上(うらかみ)の車庫である。だからどちらから来るのかは分からない。
 発車時刻の四分ほど前になって、問題の車輌が、車庫から出てくるのではなく、新中川町(しんなかがわまち)の方から上って来るのが見えた。
 

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 車庫側から見て右側の線路の奥まで入って来て停車する。深緑にオレンジのラインが入っている塗装は、仙台で走っていた時と同じものである。
 方向幕は、到着した「回送」のまま変わらない。「貸切」というコマはないのだろうか。一応両サイドの「顔」を撮っておくが、とりたてて違いはないようである。本来広告などが入る枠に、電車の出自が主張されている。
 
 

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 降りてきた運転手さんと挨拶を交わす。
 が、客の方は本人とわたししかいない。二人だけで借切るのかと思ったら、同好の友人があと二人来るのだという。二人はそれぞれ大阪と福岡の人なのだそうで、暮れの長崎にそれだけ集まるとは、わたし自身を含めて奇特なことだ。それにしてももうすぐ発車なのだが。

 そう思っていると、発車間際になって到着したその二人が合流した。
 本人は、電車の後ろドアを開けてもらい、乗ってきた自転車を車内に積み込んだ。無論、長崎電気軌道に「輪行」の制度などなく、一般営業電車ではこんなことは認められないが、事前に許可を得て、自転車ごと運んでもらうことにしたのだそうだ。
 路面電車の車内に自転車が立てかけられているのは、何ともシュールな光景なので、カメラに収めた。電車も、こんな「客」を載せるのは初めて、ととまどっているかもしれない。
 

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 わたしたちの撮影もひとわたり済んで、発車時刻となった。モーターが低い唸り声をたてて動きだした。ここから、市内電車西北端の終点である赤迫(あかさこ)までの運行となる。
 車内には、随所に仙台市電としての生い立ちを説明する掲示がある。この車輌は、東日本大震災の後には、「がんばれ!! 東北号」の愛称を付けられ、特別運行していたこともあるのだ。
 

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 古めかしい造りの電車ではあるが、運賃箱などは最新型で、ICカードにも対応している。
 「鉄」しか乗っていない貸切電車なので、気兼ねなく写真を映せるのがいい(写真下は後部運転台)
 

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 さて、件の本人は、わたしたちに自家製の切符を配った。わざわざ手作りしたそうで、往年の国鉄が発行していた乗車券の様式をできるだけ模倣している。
 こういう旧いタイプの乗車券はもう使われていないし、不正使用の虞れもほとんどないとは思うが、あまりに精巧なので、念のため、写真には赤線を入れておこう。「発行」の所には、この人の氏名が入っていた。
 この切符に、これまたわざわざ注文して作ってもらったという改札鋏を取り出し、鋏を入れてくれた。有人改札にあっても日付入りスタンプが主流となった現代、久しぶりに鋏を受けた気がする。

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 そんなことをしているうちに、電車は進んでいる。路面電車だし信号もあるので、さほどの速度は出ないが、乗降がないから単調な乗り心地のまま進行していく感じだ。
 新しい駅ビルができて、すっかりきれいになった長崎駅付近(写真下の左)、おしゃれな商業施設の前(写真中)、改装途上の浦上駅の前(写真右)など、仙台での現役時代には想像もし得なかったであろう風景の中を行く。仙台市電の全廃は、昭和51年のことであった。
 

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 浜口町(はまぐちまち)の電停付近からは、道路を離れて暫く専用軌道を行く。見えている大きな建物は、長崎西洋館という、店舗や文化施設が入った建物である(写真下の左)。電車はこの建物をくり抜くように進む。このあたりは原爆の爆心地に近い。
 さらに、この車輌のねぐらである浦上車庫の前を通る。車庫内は車内からも見わたすことができ、元都電の車輌なども見える(写真右)
 
 

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 だんだん上り勾配がかかりはじめる。道路としてはそれほどの坂ではないのだが、鉄道としてはなかなかの難路になる。何にしろ長崎だから、どっちの方向に進んでも、すぐに山裾に行き当たる。蛍茶屋もけっこうな勾配の上にあった。
 この車輌は旧いために登攀力や加速性能が劣るのであろうか、後ろから一般営業電車の赤色が迫ってきた(写真下)。貸切電車は途中乗降がないのだから、むしろ前の電車にすぐ追いついてしまうのではないか、と思っていたが、意外に鈍速である。
 そういえば、途中の電停でも、信号の関係からか、一時停止が多かったようだ。
 
 
 

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 ついに赤迫に到着した。ここはY字形の線路で、折返しの線路は一本だけだが、ホームは縦に三輌分の長さがある。この電車は、一般営業電車の邪魔にならないよう、一番奥の車止めぎりぎりまで入った。降りるのは四人と自転車だけなので、さほど邪魔でもないが。
 早速ホームに降りて、再び写真を撮る。運転手さんにも再び挨拶する。
 
 

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 三分ほどの停留で、電車は浦上の車庫に帰っていく。ホームに並んで立っている三人が今回の相客で、右端にいるのが今日の主役、全都道府県走破の人である。
 

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 桜通(さくらどおり)線(名古屋市営地下鉄)延伸の時にも述べたように、鉄道趣味の集まりの終わりは呆気ない。それぞれの行動様式にあっさり戻るだけである。本人は自転車で坂を下って行き、他の二人は電車に乗って浦上方面に向かうらしい。
 わたしは、この近くで食事しようと思う。

 訪れたのは千歳町(ちとせまち)電停に近い「カルカッタ」という店で、長崎名物トルコライスをいただいた。けっこうなボリューム、そしていいお味であった。そして店を営む老夫婦の接客が、素朴ですばらしい。

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 この店で料理を待つ間、わたしはスマホで撮った電車の写真とか、さっきいただいた切符とかを改めて眺めたりしていたのだが、迂闊なことに、切符をテーブルに置いたまま店を出てしまった。
 追いかけてきてくれた奥さんは、恐らくわたしを仙台から来た観光客だと思ったことだろう。大切な記念の品を失くさずに済んだ。ますます感謝する。

 長崎駅に戻ったわたしは、JRの特急「かもめ」で長崎を後にすることにした。駅の待合室は、カフェを兼ねており、駅に入ってくる列車を真正面から眺めることができるようになっている。
 どうも車止めから電車を撮ることが多い日になった。

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 「かもめ」にはDXグリーンが設置されているので、その席にしてみた。以前「リレーつばめ」で利用したときと特に変わることはなかったが、東北新幹線にグランクラスが登場した今、色褪せて感じられることは否めない。付加的サービスの充実を望みたい。
 それでも、博多(はかた)までの二時間をすこぶる快適に過ごすことができたのは確かである。

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(平成25年12月乗車)

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