グリーン車二題~ 臨時快速上り「SLばんえつ物語」・特急「いなほ8号」
この初秋、夏季休暇の東北旅行は、行きと帰りにちょっと性格の違うグリーン車を体験した。たまたま、新潟から出発して新潟に戻ってくるような行程になった。
往路に利用したのが、磐越西(ばんえつさい)線のSL列車、臨時快速「SLばんえつ物語」である。SL列車には珍しく、先日からグリーン車が連結されるようになった。これがまた、快速列車のグリーン車としては破格の横三列シートなので、坐り心地がよく、なかなかの人気だという。それに乗ってみようと思ったのである。
「ばんえつ物語」には、大分前に一度逆方向に乗ったことがあるが、新潟から乗るのも、そしてグリーン車も、初めてである。普通車の客車も含めてリニューアルがなされているので、前回とは全く違う列車と言ってもいい。
新潟駅のホームには、発車の三十分以上前から据え付けられ、機関車のまわりには人だかりができている。
客車を観察してみる。普通車も、四人掛けボックスながら背もたれが分厚く居住性も高められている。「オコジョルーム」と呼ばれる、子供の遊具などが備えられた車輌が先頭車である。また、途中には窓の大きな展望車輌もあり、これはフリースペースである。
この他に売店もあったりする。もうお分かりのように、「ばんえつ物語」は、昔のSL列車を再現・保存するために運行しているのではない。リゾートトレインの演出の一つとしてSL牽引がなされているのである。こういうのも一つのあり方だ。
客車の外観も、改造車とは思えない小ぎれいなものである。SLに似合わない、という人もいようが、わたしは気に入った。特にSL牽引でなくても愉しい客車だ。
さて、指定された7号車グリーン車だが、「スーパービュー踊り子」のように、グリーン車の入口に常に車掌が立っていて、グリーン券を持っている客しか車内に入(い)れない。これも、なかなか優越感をくすぐる。
わたしは一人掛けを取っている。気兼ねがなくて、いい席である。最後尾はグリーン客専用の展望室になっている。窓が足許まであって、270度の展望がきく。
この客車は、改造車とはいえ、車体部分を全く新造したもので、元の車輌から引き継いだのは台車などの床下部分だけだそうだ。
わたしは、5号車の売店で駅弁を買った。新津(にいつ)の駅弁で、この列車に因んでいる。渋い内容だが、もっと子供向けのとりあわせにした弁当も、用意されている。
発車してから車窓を見ていて驚くのは、この列車に手を振る人の多いことである。カメラを構える「撮り鉄」だけではない。軒先でおばあさんが、庭先で子供が、クルマから家族連れが、みんな手を振ってくれる。
もう十五年も走っている列車なのだから、地元の人には珍しくもないはずだが、これだけ沿線に愛されているのは嬉しい。
途中の津川(つがわ)で、給水のため暫く停車する。ちゃんとこういう設備が用意されているのは、恒常的な運行が意図されているということで、頼もしい。
給水作業にも、皆がカメラを向ける。
日出谷(ひでや)にも停まる。現在はなくなったが、鄙びた駅に似合わず駅弁「とりめし」が売られていたことでも知られる駅である。
車内には、アテンダントが現れ、ジャンケンをして勝ち残ったら景品がもらえるイベントをしたりする。適当に付き合っておく。
また、SLに付けられているヘッドマークは、公募により半年毎に変わるそうだ。この期のヘッドマークをデザインしたという小学生の男の子が、車掌帽を被ってグリーン券にスタンプを捺して回る。この子が毎週土日に乗務するとも思えないので、いい日に当たったのかもしれない。
グリーン車の展望室にも行ってみる。
あまりに見通しがよいので、こっちが見せものになっている気がしないでもない。椅子などはやっぱりお洒落な形である。
室内には、木製のSL模型とか、その他いろんな関連グッズが展示されている。
足許に連結器が見えている。こんな視角も珍しいので、思わずスマホに収めた。
そして、中空を行くかのように思える、わたしが勝手に名付けた「999坂」をゆっくり下って会津平野に出ていく。最後尾にいても、流れてくる煙がよく見える。
時刻どおりに終点の会津若松(あいづわかまつ)に着いた。到着後もやはり注目を浴びている。
ホームでわたしたちを迎えてくれたのは、ゆるキャラ「あかべぇ」である。子供らとの記念撮影に応じているばかりか、トイレに入ろうとしてドアが狭くて入れない、というボケ含みのパフォーマンスまで見せている。
改札口で、グリーン券を記念に持ち帰りたい、と言うと、「ご乗車記念」のスタンプを捺してくれたが、そのスタンプも、「あかべぇ」がデザインされていた。
ここからは快速「あいづライナー」の指定席で郡山に抜けた。リニューアル改造された国鉄特急形車輌である。「ばんえつ物語」ともども、旧い車輌をうまくお化粧直しして活用している。
帰りは、秋田から新潟まで、特急「いなほ」に乗った。
これもまた、最近になって改造によって新しいグリーン車が登場した。元は常磐(じようばん)線の「フレッシュひたち」に使われていた車輌が日本海側に転属してきたのである。「フレッシュひたち」は、速達型の「スーパーひたち」を補完する列車だったので、グリーン車は造られていなかったが、「いなほ」はグリーン車の需要があるので、改造が行われた。
9月中旬、秋田から「いなほ8号」に乗ることにした。
各車輌のドア横には、沿線各地のキャラがプリントされていて、客を迎える。
グリーン車内は、座席のピッチがかなり大きい。
それもそのはずで、大胆にも普通車の二列分を一列としているのである。しかも、横三列シートである。JR東日本にしては、と言うと失礼かもしれないが、大盤振る舞いである。この種の改造車だと、座席だけ取り替えて、席と窓割りが合っていない、ということがよくある。それを思い切って倍のピッチにし、二連窓を独占できるようにしたのは、英断である。
それだけの幅があるから、座席の間には仕切りが設けられていて、ちょっとしたコンパートメントのようになっている。リクライニングするのに後ろの席に気を遣う必要はないし、座席後ろに十分荷物をおくスペースがあるのもよい。このあたりは、東北新幹線のグランクラスを応用したのだろうか。
車輌の端には、小規模ながら展望サロンが設けられていて、長時間の乗車でも気分が換えられるようになっている。
普通車も、色合いなどに高級感はないが、まずは洒落た感じにまとめられている。
わたしが取った一人席は進行左側、つまり山側なので、あまり眺望はきかないが、海を眺めたければサロンに行けばよい。幸い、今日のグリーン客は二名だけである。
日本海の見どころとしては、まず象潟(きさかた)付近である。
車内販売のワゴンが来た。全国的に在来線特急の車内販売が縮小傾向にあるなか、車輌をリニューアルしてもワゴンサービスを維持してくれたのは嬉しいことだ。謝意を込めて、サンドイッチとコーヒーを購入した。
酒田(さかた)に着くと、側線に旧型客車が停まっていた。このあたりで旧型客車を使った臨時列車があるとは聞いていないし、検査か何かのために移送されてきたのだろうか。
今度は、山形・新潟県境付近の日本海が、すばらしい眺めをみせてくれる。
鼠ヶ関(ねずがせき)付近から新潟県側桑川(くわがわ)あたりの「笹川流(ささがわなが)れ」と呼ばれるあたりである。岩がちの海岸を隔てて、海の向うに粟島(あわしま)が見える。場所柄、佐渡ヶ島(さどがしま)と勘違いされるので、「にせ佐渡」などとも言われている。
粟島が後ろへ去るころ、ほんのうっすらと、本物の佐渡の島影が海に浮かんでくると、村上に着く。眠くなってきた。一時間ほどで新潟に着くはずである。
(平成26年9月乗車)
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