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臨時寝台特急「サンライズ出雲91号」

 平成26~27年の年末年始に「サンライズ出雲91・92号」が運転される、と聞いて色めきたった鉄道ファンは、わたしを含めて多かったことだろう。
 「トワイライトエクスプレス」の運行終了、「北斗星」の定期運転終了が相次いで発表され、寝台特急の衰勢は誰の目にも明らかになっている状況で、なんと徒花のごとく寝台特急の臨時増発便が運転される、というのだから、驚くのも当然である。
「トワイライトエクスプレス」と「カシオペア」は毎日運転ではないから、「臨時列車」として扱われているのだが、実際は定期的に、つまり隔日だったり曜日指定だったり、コンスタントに運行されてきたわけで、準定期列車と言っていいだろう。寝台列車の純粋な臨時増発便としては、実に久しぶりの運転である。

 「サンライズ」シリーズの寝台特急は、定期列車として「サンライズ出雲」(東京~出雲市(いずもし))と「サンライズ瀬戸(せと)」(東京~高松)とが同じ7輌編成で、東京~岡山間で両者が連結されて一往復ずつ毎日走っている。つまり、14輌編成の列車同士が真夜中に東海道線上で擦れ違うことになる。だから、運行には7輌の編成が四本必要になるわけだが、 検査や故障などを考慮し、五本配置されている。余剰の一本を使って、多客期の増発便を運転することは可能である。
 にしても、こんな列車はこれまで運転されたことがなかった。 

 かつては、寝台列車も旺盛な利用があり、年末年始やお盆、大型連休といった多客期に各方面に臨時寝台特急が運転された。「北斗星」系統も、かつては臨時便が多く増発されていたし、「サンライズ」の余剰編成を活用した臨時寝台特急「サンライズゆめ」(東京~広島など)が運転された時期もあったが、いずれもここ数年は運転されていない。さらに、山陰方面への臨時寝台特急が運転されたことはかつてない。
 なのに、なぜ山陰系統の臨時寝台特急が今になって新たに運転されるのだろうか。一つには、縁結びの出雲大社詣でが若い女性を中心に近年流行していて、「サンライズ出雲」もその足としてその存在がクローズアップされていることがあるだろう。運転日は帰省ラッシュのただなかであり、観光旅行とは縁が薄いが、列車の知名度が上がってきていることは確かである。
 そういうわけで、興味深い列車なのだが、せっかく帰省客のために増発されるのに、わたしのような用の無い客が寝台券を確保したりしては、本来の客が迷惑するだろう。乗っても肩身が狭いのではないか。
 そう思って運転日をよく見ると、下りの91号は12月29日と1月4日、上りの92号は1月3日と12月28日(いずれも始発駅基準)である。それぞれ前者の運転日は帰省とUターンのピークの日になるが、後者は逆方向である。帰省客を迎えに行ったり、Uターン客を送って車輌基地へ帰るついで、という時期になっている。逆方向に乗るなら、それほど罪も深くなさそうだ。

 それで、わたしは1月4日の下り91号にできれば乗りたいと思った。12月28日の上り92号でもいいのだが、他の用事の関係で乗るのは無理だし、早朝に東京に着くので、あんまりゆったりできないのが難だ。
 しかし、寝台券の発売日は所用でみどりの窓口に行けず、その後もなかなか出かけられずに日が過ぎていった。もう寝台券は売切れかもしれない。そう思っていると、知り合いの乗り鉄さんから、この日の91号の寝台券が余っているが、とお誘いがあった。確実に取りたくて、複数の窓口に申し込んだ結果であろう。
 本来、切符を自分で買うところから旅が始まっている、と考えているわたしなので、普段は購入を他人任せにすることはないのだが、今度いつ運転されるかされないかも分からない列車なので、この時ばかりは寝台券を譲っていただくことにした。
 乗車券は自分で買ったが、前後の行程も考慮したので、ずいぶん回りくどい経路の乗車券になった。こんな経路の乗車券が券売機で買えるようになったのは、ありがたい。
 

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 さて、これらを携えて、1月4日の夜、東京駅にやってきた。いつもは見られない電光表示がホーム下通路に表示されていて、気分が高揚する。定期の「サンライズ出雲・瀬戸」は既に発車した後であった。発車前なら、二本の「サンライズ」がここに表示されていたという。それも見たかったものだ。

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 いろいろ用事をしていて、ホームに上がったのは発車十分前くらいになっていたので、もう列車が入っている。ホームの電光表示を写している人も多い。
 ここで、切符を取ってくれた人とも会え、挨拶を交わす。この人から指摘されて、号車と行先の組み合わせがレアだ、ということに気づき、これもカメラに収める。普段の定期下り「サンライズ出雲」は、後ろ側に連結されているので、8~14号車となる。1~7号車の出雲市行は珍しいのである。

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 列車はほぼ満席のようで、少なくとも三分の一程度が鉄道ファンと見うけた。

 「サンライズ」車内は、「トワイライトエクスプレス」などの成功を受け、個室主体で構成されている。昔ながらの解放式B寝台はない。「ノビノビ座席」と呼ばれる桟敷のような指定席がある他は、全て個室だ。
 わたしの部屋は、一人用の中ではちょっと大きめの「シングルツイン」である。不可解なネーミングだが、こういう部屋種も、「トワイライトエクスプレス」から継承されたもので、基本的に一人部屋だが、二段ベッドが備わっている。ベッドの上段はいわばエキストラベッドであり、その気になれば二人でも利用できる、ということなのだ。ただし、この列車のシングルツインは、「トワイライトエクスプレス」よりちょっと狭くなっている。二人利用だと、寝るだけなら支障ないが、かなり窮屈そうだ。
 わたしは一人利用なので、上段と階段は、荷物置きにする。上段とドアとの間は、辛うじて立てる程度の幅しかない。

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 下段の枕許にはいろいろなスイッチがある。階段の奥にコンセントがあるのは便利である。

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 22時40分に東京を発車したが、わたしの部屋は進行方向左側なので、駅も擦れ違う列車もよく見えず、退屈だ。わたしはサロンに出かけた。そこで同行の人たちとしばらく鉄道談義をする。切符をとってくれた人は、駅を通過するたびに、窓からホームの電光表示を瞥見しようとする。この列車が走るために、前後の普通列車の時刻が変更されているはずだが、それは時刻表にも載っていないので、実態を実見しようとしているのである。

 23時04分、横浜に着く。
「横浜の次は、大阪に停まります」
 という放送が新鮮である。東海道線の途中ではその二駅にしか停まらないのである。
 大阪着は早朝になるから、東京から大阪への夜行列車としても利用できるわけで、こういう列車が運転されるのも久しぶりのことだ。定期の下り「サンライズ出雲・瀬戸」は、浜松(はままつ)までの主要駅に停まる反面、大阪には停まらない。以前は東京から大阪行の寝台急行「銀河」が走っていて、これにもいずれ「サンライズ」の車輌が投入されるのではないか、と噂された時期もあるが、結局廃止されてしまった。定期の上り「サンライズ出雲・瀬戸」なら大阪に停まるのだが。
 しかしわたしは、さきほど東京まで出て来る時、時間に余裕のない乗継ぎだったこともあり、列車が遅れたりしないかひやひやものであった。普通なら、東海道線を下る列車に乗り遅れても、新幹線で追いつくことができるのだが、この列車に限っては乗り遅れたら一巻の終わりなのである。

 日付が変わる頃に、自分の部屋に引き上げ、すぐに就寝した。車内に古さは感じないし、軌道のしっかりした東海道線だから、寝心地はよく、熟睡できた。

 やっぱり気がはやるのか、早朝六時前には目が醒めた。列車は定時運行のようである。6時01分に大阪に着く。東京から大阪まで七時間二十分かかっている。定期上り「サンライズ出雲・瀬戸」が六時間三十四分、昭和三十年台の電車特急でも六時間五十分だから、少々遅いが、過密ダイヤのなかに臨時列車をねじ込んだ結果だろう。東海道線は深夜も貨物列車が多数走っている。
 関西在住が長かったが、さすがにこんな時間の大阪駅は、あんまり見たことがない。大阪でどれくらい降りるか、見さだめたかったが、ホームは右側だったので、よく分からない。見えるのは環状線のホームで、初発の関空快速が入ってきたところだ。こんなに人の少ない環状線ホームもなかなか見られない。

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 大阪を発車すると、郷里の神戸方面に進む。大阪に停まるのだから、三(さん)ノ宮(みや)にも停まればよさそうなのだが、なぜか停まらず、神戸市内は素通りなのが面白くない。
 三ノ宮駅通過中、フラワーロードを南に一瞬見通したり、神戸駅そばに広がるハーバーランドの夜景を見たりする。そして、明石(あかし)海峡大橋の西側では高い位置の列車線を走るので、橋の全貌が見える。この頃になると、東の空が白んでくる。見慣れた故郷の光景も、寝台列車の車窓から早暁に見ると、心引き締まる気分である。 

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 七時前になると、おはよう放送がかかる。7時00分、姫路(ひめじ)着。県庁所在地の神戸をさしおいて姫路に停まるのも面白くないが、定期下り「サンライズ出雲・瀬戸」の朝最初の停車駅が姫路であり、無視できないとみえる。

 姫路を出て県境の峠を越え、岡山県に入った和気(わけ)で、長く時間調整の停車をする。朝のラッシュに入るので、ダイヤを挿入するのが厳しくなるのである。その間に、姫路をこの列車の三分後に出た普通電車が追いついてきて、先に出ていく。岡山にはあちらがこの列車より十分も早く着くはずだ。
 特急が普通電車に抜かれるダイヤも、苦肉の策なのだろう。今日は月曜日、それも初出の日だから、通勤電車のダイヤを乱すわけにはいかない。12月28日発の「サンライズ出雲91号」は微妙に時刻とダイヤが違っており、この普通電車待ちはなかったから、今日一回きりの現象である。
 ホームを見ていると、多くの通勤客が、この列車に怪訝な視線をやりながら、普通電車に乗り込んでいく。

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 岡山に8時43分に着く。こういう大駅でこそ長く停まってくれれば、駅弁など仕入れることができるのだが、二分停車である。だから、わたしはいろいろと食べる物を予め用意して乗らねばならなかった。終点まで乗り通そうとすると、朝食ばかりか昼食まで必要になるのだ。
 もっとも、姫路で一旦この列車を降り、さきほどの普通列車に乗って岡山に先行、朝食など買い込んで再びこの列車に戻る、という芸当も、物理的には可能だったことになる。厳密にはこれは規則違反だし、寝台特急の旅の途中で通勤列車に揺られるのも無粋だから、実行した人がいるかどうかは分からない。
 

 倉敷(くらしき)に停車する。水島(みずしま)臨海鉄道のディーゼルカーがのっそり発車していくのが見える。お互い9時00分発の同時発車だが、こっちは加速のいい電車なので、軽々追い抜いて先に立つが、じきに別れて伯備(はくび)線に入っていく。 

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 備中高梁(びっちゅうたかはし)に近づくと、左手に雲を被った山が見える。このあたりの山は、朝方はこうなることが多い。反対側、つまり東側の臥牛山(がぎゅうざん)山頂にある備中松山(まつやま)城は、最近の「天空の城」ブームにのって、売り出しているようである。その観光客に対応するため、定期「サンライズ出雲」は、平成27年3月の改正から備中高梁に停車するようになる。七時十分頃の到着になりそうだから、朝の観光にちょうどいいのである。
 現在のところは、この「サンライズ出雲91号」も通過のはずなのだが、なぜかホームに一分ほど停車した。まさか3月からの予行演習をしたわけではないだろうが、おかげで駅やその前後をよく観察できる。
 

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 伯備線は山あいばかりを縫う線である。備中高梁を過ぎると、急カーブの連続となる。ここを走る昼行特急「やくも」には、振子式車輌が投入され、カーブで車体を傾け、速度を落とさずに走れるようにしている。が、この「サンライズ」は振子式ではないから、速度をぐっと落とさざるを得ない。すぐに「やくも」に追いつかれるので、停車駅ではないが、井倉(いくら)で一旦停まり、後発の「やくも5号」に抜かれる。ドアは開かない。
 個室の窓から前を見ていると、左カーブで前方の車輌が左側にしなだれる様子がしばしば窺える。わたしが乗っているのは後ろの方の車輌だ。長い編成の列車だと、よくこういうのが見えるのだが、僅か7輌編成の列車でこうなるのは、よほどの急曲線ということだ。
 その様子を写真に撮ろうと思うのだが、写してみると、どうもぐいっと左に折れる生で見た感じが表現できていない。視覚情報を、電車に興味をもつわたしの目と脳がアレンジしているのだろう。

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 鳥取県に入り、生山(しょうやま)、根雨(ねう)と通過し、大山(だいせん)や蒜山(ひるぜん)を右手に観るはずだが、これもわたしの部屋からは見えない。どうも伯備線内は右窓の方が景観がよいようだ。
 最後の左カーブを曲がりきると、山陰線に合流し、11時45分、米子(よなご)に着く。ここはこの「サンライズ」車輌の基地がある所だ。もう昼に近いことだし、ここで終点にしてもいいくらいだと思うが、「出雲」の名に恥じないように出雲市まで行くのだろうか。ここで、生山始発で先を走っていた普通列車西出雲行を追い越す。
 どじょうすくいで知られる安来(やすぎ)にも停車し、次は松江である。12時20分着。

 単線区間の多い山陰線に入ると、また苦心のダイヤ挿入となるようで、松江では三十一分も停車する。昼食の弁当も買えるし、駅ビル内でちょっとした買物もできる。特急の停車中に改札を出るのも、規則上は問題なのだが、実際は駅員さんに断れば認めてくれることが多いだろう。もっとも、もう終点も近いし、ここで買物をする意味もないかもしれない。わたしも、ホームを散策するに留める。鉄道ファンにとっては、ここが名残の撮影タイムということになる。
 この「サンライズ出雲91号」は下り列車なのだが、上り側のホームに入った。四線しかない松江駅なので、臨時列車が入ると、ホームのやり繰りがたちまち苦しくなるらしい。
 12時30分には早速、さっき米子で抜いたばかりの普通列車が追いついて来た。この普通列車はここで定期特急列車の待ち合わせをすることになる。だから下りホームがいっぱいなのである。
 

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 12時36分には、特急「やくも7号」出雲市行が下りホームに来て、すぐ出て行く。「やくも7号」は岡山始発だが、この列車の一時間二十分も後に岡山を出たのである。これに先を越されて、「やくも」二本に抜かれたことになる。しかも、この「やくも7号」は岡山で東京を早朝に出た「のぞみ」から接続している。つまり、この時間に松江や出雲市に着きたければ、夜行に乗らなくてもいいのである。この列車が出雲市まで行く意味がいよいよ稀薄になってきた。
 この上りホーム向かい側に入って来て「やくも7号」と交換したのは、12時38分発上り特急「スーパーおき2号」米子行である。さらに、12時48分発下り特急「スーパーまつかぜ5号」益田(ますだ)行が下りホームから出ていく。目の前の上りホームには、早くも次の特急に乗る列ができている。
 目まぐるしい発着の後、12時51分に、ようやく「サンライズ出雲91号」が発車する。

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 次の乃木(のぎ)で停まり、上り特急「やくも18号」岡山行と行き違う。この「やくも18号」がさっきのホームの列を引き受けるのである。このあたりも、右側に宍道湖(しんじこ)の景観が広がっているはずなのだが、この部屋からは見えない。
 来待(きまち)でも交換のため停車、宍道ではドアが開く。宍道が最後の客扱い停車駅である。

 定刻13時25分、ようやく出雲市に着いた。所定のダイヤで十三時過ぎまで走り続ける寝台列車というのも、近年はあまりなかった。わたしは、多くの時間をベッドで横になって過ごしたこともあり、あまり疲れは感じない。

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 切符を買ってくれた同行の人は、13時33分発の「やくも」でとんぼ返りするのだという。一晩を同じ列車で過ごしたというのに、懇ろに別れをいう暇もなく、改札口で手を振った。

 列車から下りた客は、多くが出雲大社や日御碕(ひのみさき)へ向かうらしい。それが自然な観光ルートなのだろう。客でいっぱいになったバスが、駅前から出て行った。出雲大社へは、一畑(いちばた)電車でも行くことができるが、途中乗換えが必要である。

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 わたしは、出雲大社へは何度も行ったので、今回は市内で出雲そばを賞味した後高速バスで広島へ出ようと思っている。
 駅前広場を横切ってから駅を振り返ると、出雲大社を模した駅舎が逆光で聳えていた。その方が神々しく、それらしく見える。

(平成27年1月乗車)

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