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年に一月の限定路線~ 京阪三条線

 もう十年以上前に、京都市内で近江鉄道バスの停留所を見かけることがあり、不思議に思っていた。近江鉄道が京都市内で路線バスを運行しているとは、聞いたことがなかったからだ。
 停留所の表示を見たり、いろんな所で調べたりして分かってきたのだが、これは近江鉄道が京都発の定期観光バスを運行しており、その送り込みを路線バスとして営業しているらしい、ということだ。この定期観光バスは、紅葉シーズンしか運行されないので、この路線、「京阪三条(さんじょう)線」というのだが、これも毎年十一月だけの運行である。早朝に一便だけ、京阪三条行片方向のみの運転ということもあり、なかなかこちらの予定と合わず、乗る機会がなかった。
 昨年の十一月中旬の土曜に、やっと日がとれたのだが、この京阪三条線の始発は近江鉄道の八日市(ようかいち)駅である。その近くにバスの車庫があるのだろう。それで、十一月の初めに近江鉄道の公式彩図で時刻と運転日とを確かめ、八日市市街に宿をとって、万全の準備を整えたのだが、直前になってもう一度彩図を確認すると、異変が起きていた。

 「停留所名から探す」から八日市駅発の時刻を検索しても、京阪三条線が出てこないのである。元々期間超限定の危なっかしい運行だったので、ついに廃止されたのか。一年違いで間に合わなかったか、と落胆しかけた。それならそれで、十一月に入るまでにそういう告知をしてくれないと困るではないか。よほど急転直下の廃止だったのか。しかし、そのような告知も彩図には載っていない。なくなったのなら、わたしの滋賀行も意味がなくなるので、中止しようかと思った。ところが。
 同線が廃止されたのなら、他に京都市内に乗り入れる路線はないのだから、当然京都市内の各停留所もなくなったはずだ。しかるに、「停留所名から探す」には京都市内の蹴上(けあげ)停留所ほかが依然として掲載されているではないか。念のため、蹴上の時刻表を見ると、7時39分と8時39分の二便があり、それぞれに運転日が書いてある。
 そこでその時刻をクリックしたが、その便の始発から終着まで全停留所の時刻が出るのが普通のところ、「この停留所時刻表から通過時刻表へリンクは工事中です。恐れ入りますが「路線の時刻を全て探す」ページより直接お探し下さい」とのメッセージが出て、見ることができない。これでは、どこが始発地か分からないから、「路線の時刻を全て探す」ページへ行こうにも、どのエリアから探せばいいのかが分からない。
 しかたないので、全てのエリアの路線一覧表をしらみつぶしに見ていく。すると、「大津地域」の表の中ほどに、「京阪三条線」をようやく見つけた。これを見ると、どうやら今年度から始発地が立命館大学に替わったようである。
 その「平日」ダイヤをクリックすると、立命館大学から京阪三条まで、十三の停留所の時刻が掲載された表が出た。立命館大学発は7時10分と8時10分だと分かったが、この表には運転日に関する記述が一切ない。これではこの表だけ見た人は、毎日運転と誤解するだろう。
 しかも、この表の「立命館大学」という停留所名をクリックすると、「行き先選択」として同バス停から出る全ての系統の一覧が出るのだが、「京阪三条線」の「平日」をクリックすると、上記二便の時刻が記された表が出て、備考欄に運転日がやっと書かれている。しかし、「行き先選択」に戻って「土曜」「休日」をクリックするといずれも「選択された曜日の時刻表はありません。他の曜日をお選びください。」との註記が出た。運転日には土曜や休日も含まれているのである。これもまた誤った情報と言わねばならない。
 運賃も調べようとしたが、京阪三条線の運賃は彩図のどこにも載っていなかった。

 こういう、なんともひどい扱いを受けている京阪三条線だが、乗りたい気持ちに変わりはないから、行くことにした。会社はよほどこの系統に乗ってほしくないらしいのだが、そうなると逆に乗ってやろうという天の邪鬼な気になる。
 わたしは、八日市の宿をキャンセルし、野洲(やす)のホテルを予約しなおした。立命館大学に近い草津(くさつ)・南草津両駅付近に、適当な宿が見つからなかったからである。

 南草津駅から、南草津立命線のバスに乗って、京阪三条線の発車に間に合うように立命館大学に来た。一緒に乗ってきた人の多くはキャンパス内に散ったが、わたしの他にもう一人、バス乗り場付近でうろうろそわそわしている男性がいる。同じ目的らしい。
 たくさんある乗り場のどこで待てばいいのか分からず、掲げられている総合時刻表を見ても、京阪三条線の時刻がどこにも書いていない。

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 しかたないので、百メートル以上にわたって分散している全ての乗り場のポールを見てあるいた。が、やはりどこにも京阪三条線に関する記載がない。バスターミナルには営業所もあるが、まだ開いていないので、訊けない。もしかすると、発車直前にしかるべき案内があったりするかもしれないので、営業所の前あたりで待つ。
 発車の五分ほど前に、観光仕様のハイデッカー車がターミナルに入ってきた。あれが京阪三条線のようである。しかし、わたしや男性の前を通過して、先の方に進んでいくではないか。バスガイドがこちらを窺っているから、わたしたちが乗ろうとしていることは分かったと思うのだが、何のアナウンスもしようとしない。先の乗り場に停まるのか、一旦待機所にでも入るのか、よく分からないから、小走りにバスを追いかける。
 バスは、よりによって最も先端に位置する乗り場に停まった。いつの間にか、そこに二人の若い男性の先客が出てきて待機しているのを遠望しながら、バスの所に走る。

 バスガイドに京阪三条行であることを確かめて、乗り込む。折返し定期観光バスになるのだから、路線バスらしさはなく、フロントガラス右側に、実に読み取りにくい紙で行先が掲げてあるのみである。

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 彩図で分からなかった京阪三条までの運賃は、1080円であり、バスガイドが車内で徴収する、ということだった。
 ここで、わたしの前を駆け足した件の男性が、バスガイドに異議を申し立てた。彩図できちんと公表もしていない運賃を払えない、と言うのだ。バスガイドも、公式な運賃表のようなものを持っていなかった。
 バスガイドは営業所に電話をかけ、担当者を電話口に出すと、男性に電話を渡し、直接話をするように促した。男性は、今年の運行開始までに彩図を整備してもらわないと困る、と苦情を言っている。いくら乗る人が少ないからといって、正規の路線バスとして運行している系統の情報をいい加減に扱うべきではない、という主旨の話をしている。
 正論であり同感でもあるが、わたしは自ら抗議するまでの気にはならない。インターネットが普及する前からバスのそぞろ乗りをしている世代だから、バスなんてこんなものだ、という意識が残っているし、こうしていろいろ推理しながら乗ることに、懐かしささえ覚えているのである。さらに、用もないのに乗っている引け目もある。

 バスは、男性の電話が終わるのを待ったので、五分ほど遅れて立命館大学を発車した。乗客は結局四人である。全員京阪三条まで乗ることを確認されたのだが、路線バスである以上、途中停留所からの乗客がいれば乗せねばならないから、あくまで所定の経路どおりに走る。
 ほどなく草津田上(たなかみ)インターから新名神に入り、すぐ名神に合流する。何となく、一般道路だけを運行するのかと思っていたので、ちょっと意表を衝かれる。これなら立派な「高速バス」である。

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 三車線の広い道路だが、休日朝ゆえか、京都に近づくに連れ、流れが鈍くなる。京都東インターを下りたところで、渋滞になった。じりじりとしか進まず、遅れが増大していく。抜け道に逃げたりUターンするクルマもあるが、路線バスはじっと待つしかない。道路の電光表示には「御陵(みささぎ)まで渋滞」と出ている。
 やっとのろのろと流れだしたところで、最初の停留所である四(し)ノ宮(みや)を通過する。京阪京津(けいしん)線の四宮(しのみや)駅の近くである。対向の停留所はコンビニの前にあり、主に京阪バスが発着する所だが、ちゃんと近江鉄道のポールも立っている。京阪三条線は片方向しか運行しないのだから、反対側のポールは不要に思えるが、これは折返しの定期観光バスに市内各停留所からも乗車できるようになっているのである。
 その次の停留所ポールは「山科駅口(やましなえきぐち)」と読めるが、同じ位置の京阪バスは「外環(そとかん)三条」となっているし、さらに近江鉄道の彩図ではここは「国道山科」となっている。このあたりも、この路線に対する投げやりな感じが窺われるが、実際に乗降などほとんどないのだろう。 

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 JRのガードをくぐって、坂道を昇りはじめ、御陵、日(ひ)ノ岡(おか)と通過する。かつて京津線が路面を走っていた道路であり、当時は同名の電停があった。現在は下を地下鉄東西線が走っている。それにしても、これほどの勾配を電車が上下していたのか、と思うほどの坂が
続く。

 インクラインの線路跡を右に見ると蹴上を通過、ここから京都の中心市街地に入る。最後の途中停留所、東山(ひがしやま)三条を過ぎると、すぐに終点である。

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 三条京阪のバスターミナルに入って、南向きのブースに停車した。
 京都市バス他各社のバスは、ここを「三条京阪(前)」と称しているが、近江鉄道のみはなぜか「京阪三条」である。
 以前は折返しの定期観光バスもここで客を乗せていたと聞いているのだが、現在は降車専用となっている。

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 わたしたちを降ろしたバスは、遅れていることもあり、ただちにドアを閉め、ターミナルから出て行った。そして、ターミナルに隣接する京阪バスの定期観光乗り場に入っていくのが見える。定期観光バスが京阪バスとの共同運行になった関係で、乗り場が変わったらしい。

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 呆気なく終わった謎のバス路線探訪だったが、それなりに充実感はあった。
 帰宅して、改めて近江鉄道バスの彩図を何度か確認したが、十一月下旬になっても内容は変わらないままだった。

(平成26年11月乗車)

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