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トロリーバスと電気バス~ 鉄道であることの要件は

 立山黒部(たてやまくろべ)アルペンルートの東端に位置する、黒部ダム~扇沢(おうぎさわ)間は、関西電力のトロリーバスが昭和39年から約半世紀にわたって運行されている。

 トロリーバスというのは、車体はバスと同様のものでゴムタイヤを履いていて、道路を走行する。電気でモーターを動かして走るのだが、その電気は、電車と同じく架線から取り込むことになる。そのためのトロリーポールという長い棒のような集電器が屋根に付いている。
 つまり、電車のように、走路に沿って連続した架線が張られていて、トロリーバスは原則として走路から外れて走ることはできない。

 そして、これが面白いところなのだが、トロリーバスは車体の見た目にかかわらず、自動車ではなく鉄道に分類されるのである。法規上の名称は「無軌条電車」である。つまり、レールのない電車という意味である。
 関西電力は、このほど平成31年春にこのトロリーバスの運行をとりやめ、鉄道事業から撤退する、と発表した。といっても、アルペンルートからこの区間が欠落するわけではない。

 関西電力のプレスリリース
 http://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2017/0828_2j.html

 トロリーバスに替えて、電気バスが運行されることになったのである。
 電気バスは、バッテリーを搭載しており、これに充電した電気でモーターを動かして走るので、架線はない。
 そして電気バスは、鉄道ではなく自動車と見なされるので、関西電力は鉄道事業を廃止することとなるのである。

 こうなると、鉄道とは何か、というのが気になる。

 なるほど、トロリーバスは、電車がレールを車輪で踏んで走るかわり、ゴムタイヤで道路を走るだけで、決まった走路しか走らないから、鉄道のようでもある。
 しかし、電車は線路から一メートルたりとも外れることができない。外れたらそれは脱線事故ということになる。一方で、トロリーバスは、トロリーポールさえ架線に接していれば、左右に多少ずれても走行に支障はない。電車が専らレールによって進む方向を決められ、運転士に方向を左右する余地はないのに対し、トロリーバスは、運転士のハンドル操作により、左右に動くことができるし、カーブや交叉点ではハンドルを切らないと曲がらないのは、通常のバスと同じだ。
 都市の街路にある路線だと、普通は道路の左端を走るのだが、駐停車しているクルマを、隣の車線に出て追い越すくらいのことは可能である。軌道上に障碍物があれば一歩も前に進めない路面電車とは異なる。
 それでも、トロリーポールが架線から離れるほどに外れることはできない。動力の電気が得られなくなるのだから当然だ。ただしそれは原則で、実は車庫内の移動とか、踏切を渡るとかいう、ごく短距離の移動は自力でできるよう、小容量のバッテリーを積んでいる。万一架線からポールが離れてしまった場合も、バッテリー走行で元に戻る。もちろんこんなことは通常の鉄道にはできない芸当だ。

 今回、電気バスに替わるわけだが、電気でモーターを回して走り、バッテリーを積んでいる点はトロリーバスと同じである。違うのは、集電が連続した架線ではなく、両端の駅にある充電設備で充電しておいて、反対側の駅まで走る、という点だけである。この充電設備は、バスの車体にかぶさるような形状をしており、屋根上に取り付けられたパンタグラフをそれに近づけることで充電する。
 つまり、バスの見た目も、トロリーポールからパンタグラフになりはするが、イメージはそんなに変わらない(全ての電気バスがこういう見た目というわけではない。あくまで関西電力が導入するバスのビジュアルである)。

 電力供給の設備が連続しているか不連続であるかで、鉄道か自動車かが分かれる、というのは、ちょっとにわかには納得しがたい。

 電気バスになっても、この路線は市街の一般道路を走るわけではない。現在と同じ専用の道路を行き来するだけなのだ。そこから外れて走ることはまずない。
 となると、これは東日本大震災の被災鉄道路線などで導入されているBRTと同様のものであることになる。BRTは、バスの運行をスムーズにするため、専用の道路上を走行するものだが、これはあくまで乗合自動車であって、鉄道の扱いはされない。
 BRTは、車輌自体は通常のバスだから、専用道路から一般道路に出て運行することもできる。ゆえに自動車なのか、と思うが、名古屋のガイドウェイバスは、法律上は鉄道である。バスに付けられた案内輪が走路両脇の壁を擦ることで、進む方向が決まる。が、やはり一般道路に出て通常のバスと同じように運行することもできる。それでも、案内輪で走行する区間は鉄道扱いされる。これもまた微妙な違いだ。

 線路を走る鉄道でも、通常の電車は連続した架線からパンタグラフなどで集電するが、最近はDENCHAのように、駅で充電して、走行中は電気の供給を受けないでバッテリーで走る、という方式の電車も出てきている。そうであっても、線路を走る以上は鉄道であるから、電力供給が連続か不連続かも、鉄道であるかどうかの決めてではないことになる。
 そもそも、電化されていない鉄道は、石炭かガソリンを燃料にして内燃機関で動力を生み出すわけだが、燃料の補給は線路に沿って連続はしておらず、駅や車輌基地などの拠点で断続的に行われているのだ。
 今回関西電力が導入する電気バスは、DENCHAの車輪がゴムタイヤになっただけのように思うのだが、それでも鉄道ではなくなるのだ。路面電車の車輪がゴムタイヤになっても鉄道なのに。

 考えるほどわからなくなってくる。

1.車輌の操舵装置ではなく軌条によって進む方向が定まる
2.軌条または架線によって走行ゾーンが物理的制約を受ける

 の少なくとも一方に該当すれば、鉄道ということになるのだろうか。BRTは「車輌の意志で?」自発的に専用道に入っているだけだから、除外されるのか。
 いずれにしても、鉄道のイメージである鉄のレールや鉄車輪が鉄道であることの決め手でない、というのは、なかなか一般には理解されにくかろう。

 確かなことは、このバスがわたしの乗りつぶし対象から外れる、ということである。
 そして、アルペンルートにはもう一カ所、立山側にもトンネル内を走行するトロリーバスが走っている(立山黒部貫光による運行)。こちらは、元々通常のバスが走っていた所を、環境や騒音の問題があって、平成8年にトロリーバスに転換した経緯がある。そういうことをしてくれたので、突如乗りつぶし対象の「鉄道」となり、わたしは高校の修学旅行で通り抜けたアルペンルートを、いま一度高価な運賃を支払って乗りなおさねばならなかった。
 それが今度は逆に、黒部ダム側のトロリーバスが突如「鉄道」ではなくなる事態なのだ。

 トロリーバスは、戦後の一時期、路面電車よりも敷設費用が安く小回りの利くシステムとして、大都市の交通に採用された。しかし、次第に通常のバスに取って代わられ、姿を消した。昭和四十年台後半以降、わが国のトロリーバスは、アルペンルートでしか見られなくなっていたのだ。
 そう思うと、孤塁を守り続けてくれた関西電力には感謝したくなるし、立山黒部貫光の方のトロリーバスが今後どうなるかも、気にかかるところだ。

 

(平成29年9月執筆)

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