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近鉄「青の交響曲」とアーバンライナーnext

 近鉄の特急「青の交響曲(しんふおにー)」に乗ってみた。
 近鉄は私鉄随一の特急列車網を誇り、都市や観光地を結んでいるのだが、このように、わざわざ古い車輌を改造してまで「乗ること」自体を目的にするような列車を走らせるとは、珍しい。「青の交響曲」という命名も意表を衝いているし、近鉄らしからぬ、といっては失礼だが、お洒落な内外装の車輌である。
 これが走るのは南大阪・吉野(よしの)線だが、地理的にも近く条件の似ている南海高野(こうや)線にも、改造車による「天空」が走っているから、そのあたりの影響もあるのだろうか。

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 予約した列車は昼の吉野発である。今日は日曜だが、日帰り観光の需要とは逆方向なので空いていそうだ。
 前夜は京都に宿泊したため、京都~橿原(かしはら)線を通って吉野に入ることにした。実は、この時がわたしにとっては「スルッとKANSAI」磁気カードの最後の使用となった。

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 この「スルッとKANSAI」は、ご存じの方も多かろうが、関西私鉄・バスに共通で使用できるカードで、約二十年にわたって親しまれてきたが、ICカードへの移行も進んだため、平成30年をもって運用を終了することが発表された。
 わたしもICカードを使うことが多くなっていたものの、京都市バスなど、比較的最近までICカード未対応の乗り物もあったため、磁気カードも常にカードケースに入れていた。しかし、それらもほぼ全てICカード対応となり、すっかり使う機会が少なくなった。一年以上使っていなかった最後の5000円カード(これも京都市交通局の発行だ)を、運用終了を聞いてから、消化のためにまた使っている。それも今回で使いきることになる。
 残額は730円にまでなっており、京都から吉野までの運賃には足らないので、券売機で現金を足して、きっぷと引き換えた。これが最後かと思うと、ちょっと感慨はある。

 帰りが特急になるので、趣を換えるために往路は一般車輌による急行を乗り継いで吉野まで行ったが、さすがにロングシートに乗りっぱなしの二時間あまりは、ちょっとつらく感じた。
 軌間が異なる関係で、橿原神宮前で乗継ぎになるのだが、急行同士の接続も良好なので、気分と腰の休憩にならない。こういうときは、近鉄のシステマティックなダイヤが恨めしい。

 吉野に着き、駅前に出てみる。千本桜で知られる山上には今日は登らない。というより、山上に登るロープウェイが現在長期運休中である。
 案内所には「ケーブルのりば」の矢印があるが、イラストはロープウェイである。この吉野限定だが、ロープウェイを「ケーブル」と呼んでいる。このへんのこだわらなさが関西だな、という気もするが、その思いは、運休を告げる掲示を見てさらに強くなった。
 客に運休を詫びているのだが、どこか居丈高で開き直った文面である。誤字も目につき、いろいろとツッコみたくなる掲示であった。

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 そういえば、ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏の小説「遠い山なみの光」にも、長崎の稲佐山(いなさやま)に「ケーブルカー」で登った、という記述があるが、実際にはロープウェイである。虚構だから気にしなくていいのだろうが、そのあたりは一般の用語法が曖昧だ。

 なお、ロープウェイが運休でも吉野山上に行けないわけではなく、代行バスが運転されている。駅前にマイクロバスが待機していた。

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 茶店でそばを食べてから近鉄の駅に戻る。既に「青の交響曲」が入線しており、ホーム向かい側に入っている急行は、リバイバルカラーのオレンジ色を纏った車輌である。この並びも面白いが、ホームが屋根に覆われているので、あまり鮮やかには見えていない。
 改札口には残席案内が表示されている。予想どおりわたしの乗る便は余裕がある。夕方の便は既に満席だから、列車選択は正解だった。

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 早速乗り込んでみる。
 三輌編成だが、真ん中の2号車はラウンジ車なので、座席は1・3号車の二輌となる。この種の列車ではもう標準といってもいい横三列で、一人席と二人席の「デラックスシート」である。Webで予約できるのはこの「デラックスシート」だけだが、他に向かい合わせで固定されテーブルもある「ツイン席」「サロン席」もある。
 わたしは「デラックスシート」の一人席を予約した。一人で乗ったから当然だが、この一人席が進行右側にくる、というのも、吉野発の列車を選んだ大きな理由だ。いろんなものを観察するには、右側が好都合なのだ。
 壁にはコンセントもある。これもまた最近の上級車輌の標準装備となっている。 

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 荷物を席に置いて、車内外を観察する。
 やはり2号車に興味がある。大きなエンブレムが描かれ、扉や窓の配置がすっかり変更された側面は、往年の食堂車を思い出させる。
 扉から車内に入ると、実に広々したデッキである。デッキから連結面側は、「ライブラリー」と呼ばれる、雑誌類が並んだ本棚とベンチが置かれたスペースがある。坐って読めるように配慮されているのはすばらしい。

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 ラウンジに入っていく。片側に寄せられた通路で厨房を迂回して入っていく、まさに食堂車の図ではないか。
 ラウンジの席は、食堂車とは異なり、枕木方向に向かい合って坐る二人席と四人席が並ぶ。坐り心地もいい。

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 メニューが各席に置いてあるが、セルフサービスである。端にあるカウンターで注文する。吉野線はカーブが多いので、運ぶのも難儀だが、持ちやすいトレイに入れて渡してくれる。
 昼ご飯は吉野で食べたので、デザート代わりのほうじ茶アイスとコーヒーを頼んだ。ほうじ茶スィーツはこのところブームだが、香ばしさと甘さの融合は、カフェオレのように玄妙である。

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 吉野神宮や飛鳥(あすか)でも乗り込んで来る観光客らしい人がいたが、高田市(たかだし)あたりで乗った人は、たまたま来た特急がこれだった、ということかもしれない。それでも、埋まった席は半分強というところだ。

 一時間ちょっとの乗車時間は、ちょっともの足らない気もするが、のんびりしてる間に終点の大阪阿部野橋(あべのばし)に着いた。近鉄のターミナル駅で青い車体は異彩を放ち、注目の的になっている。 

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 古い車輌も装い次第でお洒落で快適な列車になる、というのは、JR九州あたりが実証して全国に広まったことかと思うが、各鉄道会社が知恵を出して、さらに面白い列車が出てくることを期待したい。


 日を改めて、名阪甲特急で大阪難波(なんば)から近鉄名古屋まで移動した。「青の交響曲」が異色列車であったのに対し、これは近鉄の正統たる看板列車である。
 幸い、新型、といってももう十年あまりにはなるのだが、「アーバンライナーnext」の運用列車に当たった。

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 せっかく全区間乗りとおすのだから、とデラックスシートを奮発したが、やはり幹線の最速列車となると、良くも悪くも特徴に乏しく、まさに正統派である。
 横三列シートも、登場した時はインパクトに満ちていたが、現在は珍しくなくなった。各座席にコンセントもないのは、少々見劣りがしてしまう。まあこれはしかたない。十数年前に、コンセントを付けることが乗客サービスになる時代が来るなど、予想できたはずもない。

 ただ、愉しく感じたのは、客室前面に備えつけられた液晶モニターである。
 フルカラーで文字や図も読みやすく、いろいろな情報が切り替わりながら表示される。そして、特に知らせることのないときは、前面展望が映し出されるのである。

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 せっかく先頭車はパノラマ風フロントガラスになっているのに、運転席のすぐ後ろが扉とデッキであるため、客席から直接前面が見えない。多くのパノラマ車のように、デッキは後部にもっていき、運転席と客席の間はガラスで仕切って、前面眺望が利くようにすればいいのに、勿体ないことであり、その喝を補うためのモニターなのだろう。こういう構造になっているのは、おそらくかつての運転士交替の都合ではないか、と推測する。

 二時間以上かかる名阪特急を、一人の運転士がずっと運転するのは長すぎるから、どこかで交替する必要があるが、ノンストップ列車は走行中にせざるを得なかったのである。そこで、比較的スピードが落ちる伊勢中川(いせなかがわ)の高架急カーブ通過中に素早く交替していた。一瞬ハンドルから手が離れるわけで、鉄道のシステム上これは別段危険でもなんでもないのだが、あんまり乗客に見せたくなかったのではないか。
 現在は、全ての特急が津に停車するようになったので、運転士交替も津停車中に行うようになった。ので、余計に勿体なさが募る。もちろん、次善の策としてのモニターは評価できるのだが。 

 そして、供食設備や車内販売がない(土曜休日は車内販売あり)ことも残念ではあるが、世の趨勢としてやむを得ないのかもしれない。
 文句はありながらも、名古屋まで退屈はしなかった。

(平成29年9月乗車)



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