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大井川鐵道のSL急行「かわね路」

 急行列車というと、かつては国鉄で、あるいは一部の私鉄で、急行料金が必要な優等列車として運転されてきた。が、現在はJRの急行は定期列車としては全廃され、優等列車はほぼ特急に統一されてしまった。あちこちの私鉄にある「急行」は、料金不要の単なる速達列車、JRでいう「快速」と同等のものでしかない。
 私鉄でも、過去には小田急や東武などで有料の急行列車が運転されていたが、それらも姿を消したり特急に統合されたりして、現在も有料急行を運転している会社はごく一部である。

 その稀少となった例の一つ、といっても、そのなかにあっては実績も人気も高い部類に属するのが、大井川鐵道(おおいがわてつどう)のSL急行であろう。急行といっても、特にスピードが速いわけではなく、専らSLと旧型客車という付加価値に対して急行料金を取るものである。

 わたしは既にSLの現役時代に親しんだ世代ではないので、むしろ旧型客車に乗れるところに値打ちを見いだすのだが、とにかく何年かに一回くらいは乗りたい。と思いながらなかなか来られないのだが。
 今回はやっと日程を空けることができた。

 列車はレトロだが、さすがの大井川鐵道も、今どきの時流に則って、Webで乗車券類の予約ができるようになっている。SL急行は全車指定席だ。
 わたしは、フリーきっぷとSL急行券を予約し、乗車前に起点である金谷(かなや)駅の窓口で引き換えた。SL運行の拠点は次の新金谷駅だが、JRからの乗換え客のため、金谷駅でも引換えできるようになっているのである。

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 フリーきっぷは、JRの「青春18きっぷ」のかつてあったデザインを意識したような仕様であった。わたしが予約したのは金谷~千頭(せんず)間が乗り放題となるもので、往復の運賃より得である。他にも、千頭から先の井川(いかわ)線にも乗れるものや、周辺の路線バスにも乗れるものなど、いくつかの種類のフリーきっぷがある。
 SL急行券は、写真部分に半券が付いているように見えるが、半券を切り取るミシン目などはなく、全体を持ち帰ることができた。

 金谷駅には売店もあるが、規模も品揃えもどうということはない。新金谷に本格的なのがあることは分かっているので、買物は見送る。
 SL急行も新金谷が始発である。以前乗ったときはSLもこの金谷始発だったが、片面ホーム一線しかない金谷駅は何かと手狭なので、乗入れをやめたようである。新金谷に転車台も整備された。
 その代わり、新金谷まで一駅だけの連絡列車が走る。

 その連絡列車が入線してきた。元南海の車輌である。SL以外にもこういう他社の旧い車輌を引き取って走らせているのだ。
 わたしも関西に住んでいた頃、一部の仕事先に通うのに、これと同タイプの車輌に乗ることがしばしばだったので、前座としてはじゅうぶんである。

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 新金谷に着くと、既にSL急行「かわね路(じ)13号」も据え付けられていたが、わたしは一旦改札を出て、駅の向かいにある「プラザロコ」という施設に向かう。ここには大規模な売店があり、駅弁も各種売っている。出札カウンターもあって、ここでも切符の引き換えができるほか、クルマなどで来た飛び込み客はここで切符を買う。SL関係の若干の展示もある。
 わたしは駅弁を購入して駅に戻った。

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 今日の10時38分初SL急行「かわね路13号」を牽くのは、C11190である。SLとしては小ぶりな方だが、それでも間近に見上げると、力強さを感じる。
 そのC11が従えている旧型客車が山吹色に塗られているのは、大井川鐵道が「きかんしゃトーマス」列車を運転しているからである。旧型客車といえば茶色のイメージが強いので違和感を抱く人もいるだろう。しかし、実物を見てみると、これもありかな、と思う。国鉄時代の旧型客車にも、青色や淡緑色のものがあったので、これもバリエーションのうちだし、明るい出で立ちは観光列車に似合っている。ただ、薄い色合いは汚れが目立ってしまうので、手入れに骨が折れるだろうが。

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 今日は7輌編成で、ホームいっぱいに停まっている。幼稚園の遠足が二組、その他のツアーも何組か乗り込んでいて、団体集約列車のような趣になっている。最後尾の1号車の前半分までを団体が埋め、個人客は後ろの十ボックスほどに固められているが、さほどの人数ではなく、相席はない。わたしもボックスを独占できた。
 平日はこんな姿になることが多いのかもしれない。「かわね路13号」は多客期の増発便のような位置づけだが、11月は紅葉シーズンのため、ほぼ毎日運転されている。年間を通じて運転される「かわね路1号」は、一時間ほど後に発車する。
 長い編成なので、後ろに電気機関車が補助に付いている。

 構内には展望車やお座敷車が留置されているが、これはたまにしか編成に入らない。この他、北海道の急行に使われていた客車も、隅の方に停められているのが見えた。これはまだ運用されていない。

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 旧型客車のボックスに坐るのも久しぶりで、こういう佇まいは国鉄時代の汽車旅を伝える貴重なものだ。

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 いよいよ「かわね路13号」が走りだした。最後尾なので、汽笛は遠い。
 SLというと鈍速というのもまたイメージだが、走ってみればそこそこスピードは出る。もっとも、悠然たる大井川に沿い始めると、速度感がよくわからなくなる。

 これも大井川鐵道名物というのか、車掌さんの剽軽なアナウンスが始まる。今日の車掌さんはおばさんである。唱歌や民謡を歌いまくる男性車掌もいたが、このおばさんはハーモニカ演奏が得意なようで、「ふるさと」などをマイクで聴かせてくれる。
 以前は別のおばさんが金谷から千頭までしゃべり続けていてうるさかったが、今日の車掌さんは、演奏が終わると、「あとはごゆっくりSLの音をお愉しみください」と言って黙ってしまったので、助かった。

 車内放送が終わると、土産物や記念品、飲み物などを積んだ車内販売のワゴンが来た。車輌の前半分は売れるはずもない幼稚園児たちなので、後ろ半分でかなり熱心にセールスする。
 続いて、カメラを持った女性が来た。各ボックスの客に機関士の帽子とナンバープレートのレプリカを手渡しては、ポーズをとらせ、写真を撮る。後で希望者は購入できるシステムなのだろう。

 これらの攻勢も一段落したようなので、駅弁を広げる。この国鉄式ボックスでテーブルにお茶、膝の上に駅弁という態勢も、懐かしいものだ。わたしが乗り鉄を始めた頃は、まだかろうじて旧型客車が現役だったから、こんな場面もしばしばだった。 
 掛け紙にもSLがあしらわれた駅弁は、「特選幕の内弁当」というもので、沿線の珍味を活かしたものである。

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 小さな私鉄だから、大井川の片岸を遡行するのかと思っていたが、意外に何度も大井川を渡る。相手があまりに激しく蛇行しているからでもあるが、千頭までの大井川は、そこそこ川幅がある。 いくつも鉄橋を架けるのは、地方私鉄にはしんどいことだったろう。
 しかし、観光鉄道としてみれば、左右どちらの窓からも大井川が堪能できることになり、乗客の不公平が少ないし、もちろん鉄橋では徐行して展望を愉しむようになっている。列車撮影に適したポイントも豊富だ。何が幸いするかわからないものだ。

 塩郷(しおごう)に臨時停車する。本来急行停車駅ではないが、一部の団体が下車するようだ。この駅の近くには、有名な吊り橋があるので、それを見学するのだろう。

 若い男性の乗務員が、さきほど撮影した写真を現像したものを持って来る。社紋の入った台紙に挟んだキャビネ判の写真を渡され、有無を言わせぬ感じで千円請求された。もちろん要らないなら要らないと言えばいいのだが、なんとなく、わざわざ装飾まで施して席まで運んでくれたものは断りにくい。
 観光地や遊園地でみられる同種の商いだと、出口に写真サンプルが並べられ、希望者だけが注文するようになっていることが多いのだが。洗煉されてきたな、と思った今回の大井川鐵道のサービスのなかで、唯一これにだけは押しつけがましさを感じた。
 次回からは撮影の時点で拒否しないといけないと思う。が、次回乗るときにはそんなことを忘れてしまっているのだ。

 千頭に近づくと、一時間余りの汽車旅に、さすがにだれてきた幼稚園児たちが、ぐずったり騒いだりしはじめ、先生の降車準備の指示にも、だらだらとした態度を見せている。先生は各個声をかけたりしているが、モグラたたきのような状態で、手を焼いている。
 と、通路におばさん車掌が現れ、ハーモニカで『となりのトトロ』のオープニングテーマ「さんぽ」のイントロを吹きはじめた。すると、途端に子どもたちの目の色が変わり、しゃんとしてきたではないか。イントロが終わると、「♪あっるっこー あっるっこー」の大斉唱となった。ワンコーラス吹き終え歌い終えたときに、ちょうど千頭駅のホームにかかり、
「またSLに乗りに来てねー」「はーい!」
 というやりとりで旅は終わり、「かわね路13号」は緩やかに停まった。
 あまりにも鮮やかに子どもたちを扱うおばさん車掌の手腕に見とれていたために、わたしが必ずやると決めていたはずの、「列車が停まりきる前にホームに跳び降りる」ことの実践を忘れていた。手動ドアの列車ならではできることで、それでこそ旧型客車に乗った気になるので、鉄道側からすれば苦々しいこととは分かっているものの、ぜひやりたかったのだが。 

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 千頭駅では、降車客を相手にお茶がふるまわれたりしている。

 帰りの列車まで少し時間があるので、千頭の町をぶらついてみる。
 接阻峡(せっそきょう)温泉など周辺の観光地に向かうバスが駅前からでるが、このバスにもSLのイラストが施されている。もちろん、大井川鐵道のバスだ。 
 駅に隣接して、道の駅「奥大井音戯(おとぎ)の郷(さと)」が設けられている。名のとおり「音」にこだわった施設で、通路を通るだけで音が鳴るしくみなどもあるし、さまざまな遊具もある。幼稚園の団体が吸い込まれていったのもこの施設だ。施設の前には大井川鐵道の旧い客車が保存展示され、これが休憩所を兼ねている。また、そこからは大井川鐵道の車庫が見わたせる。

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 千頭からさらに奥に分け入る井川線の列車は小型の車輌が使われる。井川行の列車が千頭駅を出発し、街中で何度も踏切で道路をせき止めながら進んでいく。

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 帰りはSLでなく通常の電車で帰ることにする。
 が、残念ながら12時45分発の金谷行は、ロングシートの7200系であった。東急から十和田観光電鉄を経て大井川にやって来た車輌で、歴史的には面白いものではあるが、これで一時間以上の各駅停車はちょっときつい。さっきの元南海電車のような車輌こそ千頭発着列車に充ててくれればいいのに、と恨めしく思う。

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 まあしかし、今朝は早起きだったし、昼食後でもあるので、帰途はうとうとしながら帰ることになる。駿河徳山で「かわね路1号」と交換する。あちらも席は八割方埋まっているのだが、13号に比べると個人客の割合が多いように見うけた。

(平成29年11月乗車)

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