近江塩津駅待合室

 滋賀県の北端に位置するJR近江塩津(おうみしおつ)駅は、湖西(こせい)線が北陸線に合流するジャンクションである。
 特急に乗っていると、ここには停まらないので、意識せずに通りすぎてしまうが、「青春18きっぷ」などで普通列車の旅をしていると、ここで乗換えることが多くなる。北陸線の敦賀(つるが)方面は県境を越えることになるから、地元客の流動は少なく、北陸線長浜(ながはま)方面と湖西線近江今津(いまづ)方面とを往来する客が多い。
 しかし、その長浜方面と近江今津方面とを直通する列車は、スイッチバックを要する駅の構造もあって、朝夕の数本のみである。その不便をいささかでも補うため、両方面の接続は概して優先されている。
 ただこれが旅行客となると、県境を越えて敦賀方面へ移動することになる。昼間のダイヤだと、近江今津方面と敦賀方面とは新快速が直通するので問題ないが、長浜方面と敦賀方面との行き来は、ここで乗換えなければならず、その接続も悪い。

 周囲に何もない町外れの駅で途方に暮れる乗換え客をもてなすため、以前からこの駅では、待合室で簡易的な食堂営業が行われている。委託された駅の窓口と、食堂の厨房とが一体化している。

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寝台特急下り「カシオペア」

 平成27年3月で、北海道へ向かう寝台特急「トワイライトエクスプレス」が運行を終了し、「北斗星」も定期運行を終了した。それに先駆けて、両列車はかなりの人気を呈して、日常とはかけ離れた状態になってしまい、そうなるとわたしはもう乗る気がしなくなるので、天の邪鬼に「カシオペア」で北海道へ行くことにした。
 「カシオペア」も、両列車の余波で賑わってはいるのだが、この時はまだ去就が明言されていなかったし、普通の状態であろう、と思ったのであった。

 「カシオペア」は、全車A個室でしかも二人部屋、という敷居の高さがある。戦前で言うと、一二等特急「富士」に相当する列車である。それで、これまで北海道へ向かうときは「トワイライトエクスプレス」か「北斗星」を好んで使ってきた。だから、「カシオペア」に乗ったのは、この列車がデビューした当初の一回きりである。
 今となっては列車を選んでいられないし、久しぶりの乗車が楽しみではある。

 「カシオペア」の上野駅入線は、十五時三十分頃である。まだ昼と言っていい時間帯で、夜までの時間が長いのは、気持ちのうえで余裕がもてる。

 ホームには乗車口ペイントされているが、5号車のペイント上に食堂車に運び込むものらしい荷物が陣取っているのは、どうかと思う。
 電光掲示にも列車名が表示され、ホームでは乗る人も乗らない人も等しくカメラを構え、前に後ろに歩き、あるいは走っている。
 ホームには「五つ星広場」という、寝台特急専用の待合いスペースが設けられている。以前はもっときちんと仕切られた空間に、テーブルが並んでいたと思うのだが、現在は単に椅子があるだけで、簡素化されている。3月からの寝台特急は一日一回あるかないかの発車になってしまうのだが、この広場はどうなるだろうか。

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 入線の案内放送が入り、上野駅ならでは、推進運転でお尻から列車が入ってくる。動力を有し機関士が乗務する機関車は、列車の最後尾に付いた状態である。
 普通、列車の最後尾には車掌室か何かが設けられているものだが、何にしろ豪華寝台列車なもので、最後尾はカシオペアスィートと呼ばれる最もゴージャスな部屋である。この部屋の展望のよい窓の所に、職員が立っているのが見える。
 この人は、推進運転の際に乗務する「推進機関士」と呼ばれる役目の人だ。列車を主に操縦しているのは、一番向こうの機関車にいる機関士なのだが、そこからでは信号の確認や、突発的な事態への対処に難があるため、バック運転の先頭となる最後尾にも機関士が乗務し、機関車と連絡を取り合っているのだ。緊急停止のためのブレーキ装置も、カシオペアスィート室内に取り付けられている。
 この部屋を予約した客からすると、自分が乗る前に職員が自分の部屋に入っているのが見えて面白くないだろうが、上野駅の構造上やむを得ない。
 危なっかしくは見えるが、推進運転ゆえの事故など起きたという話は聞いたことがない。この日も、無事列車がホームに据えつけられた。
 

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 機関車の側に行ってみる。やはりここは人気があって、たくさんの人がカメラを機関車に向けている。
 通常、「カシオペア」は貨物列車と共用の流線型をした新型機関車が牽くのだが、この日は検査などの都合か、旧式の機関車にヘッドマークが付いている。
 旧式と行っても、 このEF81-81号車は、実はお召列車用機関車で、それを示す銀帯が車体側面に巻かれているほか、随所がきれいに装飾されている。こういう機関車がこの列車を牽くのは珍しいし、いよいよ豪奢な列車になった感じがする。
 所定の機関車なら、客車と塗装も統一されている。その編成美には及ばないものの、一応客車の五色帯の三本めと色合いが合っているし、何より品のよい色だから、 これはこれでいい感じである。

 食堂車には長い列ができており、ドアから出てホームまで続いている。シャワー券やグッズを求める人達である。わたしもシャワー券を買えるようなら買おうと思っていたが、この分では無理だろう。

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 自分の部屋に入ってみることにする。わたしの部屋は、客車のデッキを入ってすぐの所にあるカシオペアツインの部屋である。「カシオペア」の客車は個室が上下二段に配置されるのが基本なのだが、車端部にだけ平屋の部屋があり、若干天井が高いのがありがたい。
 A寝台なのであたりまえだが、この前乗った「サンライズ出雲」のシングルツインと比べても、体を伸ばし歩き回れるスペースがあるので、圧迫感がない。「トワイライトエクスプレス」のロイヤルよりもゆとりがあるのだが、あちらはシャワー付なのに比して、カシオペアツインはトイレと洗面所だけである。
 シャワーを浴びたければ、シャワー券を買って共用のシャワー室を使わねばならないのだが、案の定、発車前に売切れになったと放送が入った。

 二人分のベッドは室内に鉤形に配置されることになる。今は昼間使用なので、窓際にソファが向かい合う。
 トイレ・洗面台は洗面所内の上下に取り付けられ、用途によって引き出して使うことになる。これを各個室に装備したのだから、限られた客車内の上水・下水の配管が複雑に入り組んでいるものと思われる。
 洗面台には髭剃り用のコンセントがあるが、室内に電源はここしかないので、持参の延長コード付三叉タップをここに指し、パソコンとスマホの電気を採る。幸い、洗面所扉のゴムパッキンは太く弾力があるので、コードを通しても扉を密閉できた。
 

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 そんなセッティングをしていると、係員が来て、ウェルカムドリンクとドリンクチケットを渡してくれる。これらの飲み物はサービス、というか寝台料金に含まれている。ドリンクチケットは明朝使えるもので、以前乗った時は時間を指定して部屋に届けてもらった気がするのだが、各部屋で時間がばらばらで効率が悪いからか、各自売店に出かけるか、ワゴンを呼び止めるかして貰う方式になっている。

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 洗面所側の壁にはディスプレイが設けられていて、BS放送なども受信できるし、列車の現在位置を表示させることもできる。停車駅の案内もある。
 わたしは、長距離、あるいはあまり土地勘のない地域の列車に乗ったとき、スマホの地図アプリで現在位置を表示させながら移動するのが好きなのだが、これがあれば、スマホの電力を消費する必要もなく、助かる。

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 こういう楽しい列車にそわそわ乗っていると、大宮も宇都宮もすぐに過ぎてしまう。そして、予約したディナーの時間も近づいてきた。
 「北斗星」のレストランは「グランシャリオ」、「トワイライトエクスプレス」のは「ダイナープレヤデス」と名が付いているが、「カシオペア」は何だったかな、と考えるが思い出せない。実際に食堂車に行ってみても、「ダイニングカー」とだけ書いてある。店名は付けていなかったことに、今更ながら気づいた。

 このディナーのチケットもなかなか取れないはずなのだが、ものは試しとわずか三日前に「みどりの窓口」で調べてもらったら、あっさり取れた。キャンセルが出たのかもしれない。
 店内は満席に近く、各テーブルとも、フランス料理または懐石料理のセッティングがなされている。「混雑時は相席になることもあります」との注釈もあったが、幸いそうはならなかった。
 

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 各席にメニューが立ててある。別料金で飲み物を頼むこともできる。

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 わたしはワインをいただくことにした。

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 和食と洋食と平行してコースが進むので、厨房は慌ただしいことであろう。料理が始まるまでに、少し時間がかかった。

 まずはオードブル「海の幸とグリーンアスパラムースのサラダ仕立て」が来る。生ものに生臭さなどもちろんなく、アスパラのえぐみも全くなく、ムースの舌触りはなめらかである。最初からうならせてくれる。

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 次は、魚料理「真鯛のポワレ 2種のソース」である。ソースを舐めるだけで材料が分かるほどの味覚はわたしにはないが、バジル系と胡麻系と見うける。バジルの方が特に美味しい。鯛は、皮が香ばしく固く焼き上げられ、身はほろりと崩れてくれる。
 この頃にはパンも来たので、しっかりとソースまで浚える。

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 メインの肉料理「牛フィレ肉のソテー ポルトソース」である。お手本的なメインディッシュであるが、もちろん肉は柔らかいし、付け合わせの野菜は絶妙の火の通り方だ。

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 デザートは、「スペシャルガトーの盛り合わせ」である。梨のシャーベットが特に美味しい。
 北海道を象った生キャラメルが乗ったチーズケーキも、上品な味だ。
 そう思って食べていると、ウェイターさんが来て、
「これをケーキに付けるのを忘れました。どうぞお持ち帰りください」
 と行って、小さなカードをくれた。本来はこれをケーキに挿すらしい。 

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 あとは、香りの高いコーヒーをゆっくり愉しむだけである。
 周囲の懐石料理の席を見ていると、お造りやら天ぷらやらの盛り合わせが運ばれたりしており、とても列車の中とは思えない。あちらも一度食べてみたいものである。

 食事を終えて、部屋に戻るが、ついでに列車内を見て歩こうと思う。
 通路から階段を上がったり下りたりして個室に入るようになっており、満室に近いはずだが、ところどころ空いている。
 窓側の狭い通路は、いかにも寝台車という感じだが、これをいつまで見ることができるのか。

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 先頭の展望ラウンジに行ってみる。
 「北斗星」や「トワイライトエクスプレス」に比べても、落ち着くインテリアになっている。やはり改造車と新造車の差が出ている。
 今は最前部なので、前に機関車が付いているが、逆に進むときは後方展望が広がることになる。
 ラウンジの入口には売店があり、飲物などを売っている。これは後から作った感じの売店で、ごちゃごちゃしている。ラウンジと並ぶような洒落たカウンターにでもするといいと思う。ここでビールを買い込んで、部屋に戻った。

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 夜も遅くなってきたので、部屋のベッドメイクをする。
 セットのし方は、「トワイライトエクスプレス」や「サンライズ」のシングルツインと似ている。テーブルを壁側に畳み、座面を前に引き出す。背凭れのカバーを外して倒すと、座面と連続した平面になる。
 

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 反対側のソファも同様に畳むと、人一人が寝られるベッドになる。肘掛け替わりになっていた四角のクッションを荷物棚に片づけ、そこにある枕とシーツをセットする。
 本来、角の部分は、横向きに寝る人の枕がくるのだが、わたしは一人使用なので、長めにベッドを使える。

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 これで照明を消して横になれば、朝までじっくり寝られる。わたしは、寝台列車に乗ると、自分でも驚くほど熟睡する。自宅の布団よりもよく寝るほどだ。毎日寝台列車に乗った方が健康になれるかもしれない。
 

 そういうことで、夜中に目覚めることもなく、次に気がついたら外は明るかった。六時過ぎである。
 やはり全室A寝台だけあって、各個室に朝刊を届けてくれる。ドアノブに掛かっているのを取り込む。この辺はホテルのようだ。
 そして、早朝からワゴンが回ってきたので、朝のコーヒーを貰った。全てが個室なので、ワゴンが来たのが分かりにくいが、ディスプレイの下に表示ランプがあって、この車輌にワゴンが入ってきたのが分かるようになっているのである。 
 

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 コーヒーを飲んで、身支度をしていると、7時半になる。ディスプレイに朝ドラが映る。いつも観ている番組を、列車内のこの部屋、このディスプレイで観るのは、おかしな気分だ。

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 朝食は予約制ではないので行列しないといけないし、メニューも前に乗った「北斗星」とだいたい同じのようなので、名残の時間をこの部屋でゆったりする方を選ぶ。列車の遅延に備えて非常食料を持ち込んでいるので、それを朝食に充てた。

 いよいよディスプレイに札幌到着の案内が出た。着いてしまえば短い旅である。

 

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 札幌駅のホームに下りると、皆が前方に向かう。北海道に入って付け替えられた機関車を撮るためである。しかし、機関車はホームの先端ぎりぎりに停まっていて、ヘッドマークを撮ることはできない。なんでこんな停め方をするのかと思う。

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 ホームが込んでいるのか、数分の停留で、客車は車庫に引き上げる。

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 列車が去ってしまえばもうここですることもないし、帰りの飛行機の時間まではまだまだあるので、この3月で引退する国鉄形電車に乗りに行く。
 通勤列車から急行まで汎用された貴重な車輌の見納めなので、岩見沢まで足を運ぶ。

 同様のタイプの車輌は北陸でも走っていたが、やはり引退である。懐かしい国鉄車輌の雰囲気を味わって、砂川まで行った。この列車の終点は一つ先の滝川なのだが、帰りの時間の関係で、ここで降りて引き返さねばならない。
 正面にさよなら記念のヘッドマークを付けた電車を見送る。

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 とんぼ返りして、南千歳までやってきた。
 帰りは飛行機に乗るのだから、次の新千歳空港まで行くべきなのだが、さっきヘッドマークを見られなかったのがちょっと心残りなので、ここで一旦降りたのである。折返し上野行の上り「カシオペア」を見ようと思う。

 南千歳駅は、新千歳空港の他、帯広・釧路・夕張方面への分岐駅でもあるため、改札を出入りするよりも乗換え客の方が多いようだ。改札内に広くて立派な待合室がある。
 その待合室の中に、発着する列車の編成をイラストで示した電光案内板があるのがユニークである。各列車のイラストは、形状や色が実際の車輌に似せてあるから、見ていて楽しい。
 最上段に表示されている長い列車が「カシオペア」、三段めの青いのが「北斗星」である。両列車が同時にここに表示されるのも、この3月限りである。
 

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 「カシオペア」の来る時刻になったので、ホームに下りる。
 ヘッドマークを掲げた無骨なディーゼル機関車が入って来た。札幌ほどではないが、見送りや見物の客がホームにたくさんいて、それなりに盛り上がっている。
 今度はラウンジを最後尾にした「カシオペア」が去っていくのを見て、満足した。

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(平成27年3月乗車)

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平成27年夏に食べた駅弁 三題 

 平成27年も、あちこちに出かけたが、例に洩れず駅弁のお世話になっている。

 印象に残った駅弁を三つ、ご紹介。

 まず、お盆の時期に東北へ行った時、福島で買った駅弁。

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 東北ではらこめしというと、仙台駅あたりの印象があるのだが、福島でも売っていた。内陸なのでどうなのか、と思ったが、なかなかいい味で、駅弁にありがちな塩味のききすぎもなかった。減塩が流行っているから、全体に塩が控え目になってきているのだろうか。

 9月に入って東京に出かけることがあったが、東京駅の巨大駅弁売場「祭」で見つけたのがこの怪しい? 弁当である。

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 『鉄道ダイヤ情報』誌タイアップ弁当、ということである。『鉄道ダイヤ情報』は、鉄道雑誌のなかでも、撮影のための情報(撮影地や臨時列車のダイヤなど)に重点を置いた雑誌である。四十年ほど前に改称する前は『蒸気機関車』という題名であった。
 それだけに、動輪を象ったパスタが入っていたりする。撮り鉄・乗り鉄からの洒落で、チキンカツや海苔があしらわれている。

 そして、その東京から寝台特急で四国に入り、帰りに岡山駅で買ったのがこれ。 

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 買ったのが岡山の新幹線ホームなので、なんとなく岡山開業から四十年なのか、と思ったが、全線開通、つまり博多開業からということだった。そんなに経ったのか、と小学生時代を懐かしく思い出した。
 東京から博多まで当時は七時間近くかかったので、それまでの新幹線のイメージだった「拠点間短時間輸送」のイメージが崩れ、食堂車も初めて連結されたりした。しかし、皮肉なことに、国鉄離れや航空機の大衆化、そしておりからのオイルショックの影響による不況などで、思ったより利用状況はぱっとしなかった。長距離輸送はもはや鉄道の時代でなくなりはじめたのである。
 在来線でも、東京や関西と九州各地を結んでいた長距離列車が軒並み廃止され、博多や小倉で乗継がねばならなくなった。昼間の山陽本線には、優等列車がなくなってしまった。時刻表を読みこなしはじめていたわたしは、新幹線によってこんなにダイヤがつまらなくなるのだ、ということに初めて気づいた。
 そんな、現代にもつながるような傾向が始まった四十年前でもあった。感慨を込めて味わう。

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大阪・神戸で買った駅弁

 一人でビジネスホテルあたりに泊まるような場合、弁当を買ってチェックインすることも多い。仕事や何かを抱えていて、外に食事にでる暇も惜しかったりするし、そうでなくても知らない土地で一人で落ち着ける店を探すのは面倒だ。
 買って行くのはコンビニ弁当でもいいけれど、やっぱりちょっと旅行気分を出したいようなときは、駅弁が便利だ。

 この連休、関西に滞在したときの夕食も、駅弁ばっかりになった。

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 これは新大阪駅の幕の内である。何が嬉しいといって、煮玉子が入っているのである。駅弁としては珍しいし、味もよかった。

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 トワイライトエクスプレス弁当。これは確か、新神戸で買ったと思う。
 子供向けのようで、中身はちらしずし。軽い食事にはちょうどいい感じだ。
 載ってる具が、大阪寿司のそれである蒸し海老や伊達巻が片方に、もう片方には北海道名産のカニやイクラや帆立貝となっている。陶製の器を持って帰りたいところだが、非常に食べにくい形状で、中身を浚えきれないので、断念。

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 熱くなる駅弁だと知らずに買って、失敗したかな、と思ったが、意外と美味しかった。さすが名門の淡路屋さんだな。
 ほんとは、冷めても美味しく食べられるように作るところに駅弁の妙がある、と思っているので、熱くなる駅弁は基本的には買わないのだが、たまにはいいかな、と思わされた。
 ただ、温まり方にムラがあるのが難点だろう。冷たい所が残る反面、熱い所は火傷しそうになる。全体にほんのりぬくくなるといいのだが。

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下り「トワイライトエクスプレス」夏も大遅延

INDEX
1.はじめに
2.順調な大阪出発
3.雨の湖西ランチタイム
4.至福の越後パブタイム
5.まだ東北の朝食
6.北海道へ


1.はじめに

 寝台券が取りやすいということもあって、「トワイライトエクスプレス」は上り(大阪行)に乗ることが続いていた。この夏は下り(札幌行)に乗ることを志し、なんとかB個室を確保した。
 ブログの記事にしているように、「トワイライトエクスプレス」にせよ「北斗星」にせよ、わたしが寝台列車に乗ると遅れることが多い。今回もその例に洩れなかったが、こういう乗ること自体が目的の列車は、多少遅れても、却って乗りがいがあっていいものである。

 上りの時と同様、遅延した場合の記録というのも意味があると思うので、今回の乗車も記事にしておくことにする。


2.順調な大阪出発

 下り「トワイライトエクスプレス」の大阪発は、11時50分である。午前中から走りはじめる夜行列車というのも、近年はこの列車くらいしかない。
 さらに、昼間はホームに余裕のある大阪駅のこと、かなり早くから入線するのも、いかにも長距離列車という感じの演出で、これを味わうためにも下りに乗る方がいいし、乗るなら始発の大阪から、と思う。

 食堂車や車内販売もあるとはいえ、定刻でも車内で二十時間以上過ごすのだし、大幅に遅れたり立ち往生した場合なども想定すると、非常用食料も含めて、いろいろな物を買い出しておくのがいいだろう。各地が断続的に大雨にみまわれてもいるし、長距離になるほど支障に出くわす率も高くなる。
 わたしは、十時過ぎには大阪駅近辺に着き、百貨店などを回って買い物をした。そして、十一時頃には10番ホームに上がった。
 昼間の9・10番ホームは、JR宝塚(たからづか)線の快速が終着するぐらいで、他に目ぼしい列車の発着はない。だから、ひっそりとして清掃係員などが行き来しているが、カメラや大きなバッグを持った人が数人いる。「トワイライトエクスプレス」の撮影や乗車を待つ人だろう。
 一般に、用心深く乗り物が出る時刻のかなり前に乗り場に来る人が、年配の女性を中心にけっこう多くいるものだが、さすがに一時間近くも早く来る人は少ない。入線時刻を把握している乗り鉄や撮り鉄ばかりである。

 発車案内に列車の名が出て、アナウンスが入った。いよいよ列車が入ってくる。11時11分頃である。多くの視線とカメラが機関車の方に向くが、観光シーズンのピークを過ぎた平日なので、人の密度は粗く、楽に撮ることができる。
 機関車は客車と塗装を合わせてはあるが、武骨な箱型で、他の貨物列車などを牽く機関車と同じスタイルである。このあたりは、上野発の列車とは異なる。客車も、改造・改装はされているが、国鉄時代のものを使っている。

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 それでも、列車固有のエンブレムや、最後尾の展望スィートなどを見ると、特別な列車という感じはする。

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 早速、予約してあった個室に入る。前回の上りの時のように、A個室(ロイヤル)だとよかったのだが、発売開始と同時に照会してもらうよう手配したにもかかわらず、それは取れなかった。それでB個室(シングルツイン)で旅することになった。進行方向左側の部屋である。
 写真では分かりにくいだろうが、部屋はけっこう狭い。写真下左が昼間(座席)の状態で、テーブルを挟んで一人分のソファが向かい合う。夜になれば、テーブルを側壁に折り畳んで、ソファの座面と背凭れをレバー操作で平面にし、そこにシーツを敷いてベッドにするのである。
 上段のベッドは作り付けになっていて、二人で部屋を使うときだけベッドとなる。わたしは一人なので、荷物置きにする。

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 とにかく荷物を部屋に入れて配置を考える。キャリーバッグを寝かせるスペースはないので、立てておいて、その上でスマホを充電しながらテザリングをONにしておく。ノートパソコンはテーブルの上に広げる。コンセントは扉側の壁面に付いているが、スマホとパソコンを同時に使うため、持参したトリプルタップを差し込む。

 ちょっと前だと、走っている列車の中でインターネットに接続するなど、機械音痴には煩わしさに過ぎる設定や機材を伴わないとできなかったし、そこまでしなくても、という思いから、はなからする気にもならなかった。しかし、今は本当に手軽になった。
 電話もネットもできないのを逆手にとって、この列車の個室内で集中して論文原稿を書きあげる、なんて離れ業もやったことがあるが、この節そういうこともできなくなった。わたし自身の気のもちよう如何でできるはずなのだが、意志も弱くなった。
 トンネルなどもあるし、この後も接続は不安定で、何度も繫ぎなおしはしたが、概ね快適にネットができたのである。そして、繫ぎなおすときに「ワイヤレスネットワーク」を表示してみると、スマホのテザリングらしい接続先が常にいくつも表示されたから、周囲の個室でも同様の人が多かったらしい。

 そんなセッティングをしていると、早くも車掌さんが検札に来て、個室カードキーをくれた。これは助かる。発車前に車内やホームをうろつきたいのだが、その際に個室を施錠できるのは安心だ。
 おかげでゆっくり列車全体を見てまわり、ついでに食堂車「ダイナープレヤデス」でシャワーカードを買っておく。札幌終着が9時52分なので、朝風呂は八時からの枠までで終わりだ。その最終枠を予約した。「北斗星」の時にはシャワーの時間と朝食の時間がかち合ってえらいめに遭ったが、この列車の朝食はシフト制だから、あのようなことはないはずだ。が、何にしても余裕をみておく方がよかろう。

 そんなことをいろいろやっていると、すぐに発車時刻が近づいてくる。わたしは個室に戻り、腰を下ろした。
 と、いつの間にか向かいの11番線ホームが、歩くような速さで後ろへ流れはじめているではないか。シャッターを切り終えた人たちがホームからわたしたちに手を振って見送ってくれている。いつ動きだしたのかも分からぬ、機関士さんの見事な引き出し技であった。
 客車を牽く機関車の運用は近年とみに減っているので、機関車運転の技術が継承されなくなるのでは、と危惧するが、今のところ名人芸が健在のようで、嬉しくなる。こういう発車は、電車やディーゼルカーでは味わえないものだ。


2.雨の湖西・北陸ランチタイム

 新大阪にも停車した後、東海道線を京都へ向かう。ところが、千里丘(せんりおか)あたりから速度が落ちはじめ、時速60キロくらいで安定する。が、先を急がぬ身に、これはなかなか心地よい速度であった。揺れも少なくていい。先行列車が遅れているので暫く徐行する旨、放送がある。
 高槻(たかつき)の手前で一旦停まり、すぐ動きだす。どうも京都付近の大雨の影響らしく、前途が心配になる。このあたりで前夜札幌を出発した上り「トワイライトエクスプレス」と離合したはずだが、遅れが出ているためかその案内放送もなく、左側の個室だから気づかないまま京都に近づいた。
 京都でも、ホームが空くのを待って数分停まった後に停車した。

 京都を出ると湖西(こせい)線に進む。この線は琵琶湖岸をゆく全線高架の路線だから、踏切がないのはいいが、比叡(ひえい)颪に曝されてしばしば運転抑止となる。荒れ模様の今日も危ない。
 ところで、わたしは自分の個室を出て、サロンカー「サロン・デュ・ノール」に席を移し、雨に煙る比叡連山を眺めている。まもなく十三時から「ダイナープレヤデス」のランチタイムが始まるからである。同じような人が多数待機している。
 所定の扱いにおいて、昔ながらの食堂車で昼食がとれる列車は、この下り「トワイライトエクスプレス」だけになってしまった。「北斗星」では昼食臨時営業にありつけたけれど、あくまであれは遅延時の特別対応である。だから、是が非でもランチタイムを体験しておきたい。
 開店直後は込み合うだろうから十五時頃にでも行けばいい、と思って、乗車前のホームで虫抑えの菓子パンを一個、腹に入れてある。のだが、実際十三時が近づき隣の食堂車から料理の香りが漏れ来るにつれ、逸る気持ちが体に働きかけ、空腹を強烈に覚えてきた。
 結局、開店後ほどなく「ダイナープレヤデス」の扉を開けた。比叡山側に二人掛け、びわ湖側に四人掛けのテーブルが並ぶが、二人掛けのテーブルはもう埋まっていて、わたしは四人掛けの方に案内され、込み合いましたら相席をお願いするかもしれません、と断りが入った。

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 メニューを眺めて、オムライスを注文した。あまり他の列車ではお目にかからない料理だし、いかにも昼食らしいのがいい。スープ・サラダを付け、飲み物の勧めに応じてコーヒーも追加した。
 料理を待つうち、近江舞子(おうみまいこ)で停まる。時刻表上は通過だが、ここで後続の特急「サンダーバード」を待避するために停車するのであり、ドアは開かない。
 後から入ってきたやはり男性の一人客が、わたしのテーブルの斜め向かいの席に案内されてきた。テーブルはけっこう広いので、相席といってもまともに顔を見合わせるわけではない。それにしても、その客からわたしに何らかの挨拶はあるだろうと思って、軽く視線をそちらに運んで待った。が、遺憾ながら件の男性は、無言のままわたしと目を合わせようとしないで席に着いた。

 わたしは、食堂車は言うに及ばず、列車の座席で先客がいるボックスに坐るときには、必ず挨拶をする。特に二人並んで坐る転換クロスシートの通路側に坐る場合など、赤の他人と通常では考えられないほど体を接近させるのだし、「失礼します」の一言は当然の礼儀だと思うからである。相手が音楽を聴いていたり眠っていたりする場合は、軽く会釈で済ませるが。
 こういう場合に、挨拶が返ってくるかどうか、あるいは、逆の立場で挨拶があるかどうか、これは地方によってその度合が異なる。
 この種の「ふれあい」は、都会ほど稀薄であるとか、でも関西人は人懐こいから自然にやるだろうとか、そういう印象を持たれるかもしれない。しかし、わたしの長年の乗り鉄経験からすると、違う。最も挨拶を交わす割合が大きいのは北海道(札幌付近を除く)、二番めが四国なのだが、それに次いで多いのは意外にも首都圏である。人の密度が高いと潤滑油も多く必要になるのだろうか。そしてこれも意外だが、関西はワーストから二番めの地方となる。思いのほか他人への冷たさを感じるのが関西なのだ。最悪の地方がどこであるかは、武士の情けをもって伏せることとする。
 ともあれ、そうした挨拶はした方がしないよりはお互いずっと気持ちいいと思うのだが、そう考えない人も多いようだ。この男性も関西人かもしれない。しかし、仮にもこういうクルーズトレインなどと称される列車に乗って、食堂車の相席で先客に何の挨拶もしない、というのは、少なくともわたしには理解できない行動様式である。

 軽い不快の念を抑えつつ待っていると、 放送が入った。さっきからいやに長く停まっているな、と思っていたのだが、ここでこの列車を追い抜くはずの「サンダーバード」に抑止がかかって遅れているという。そういえば、雨足がかなり強まって横なぐりになっている。
 そこへオムライスが来た。前回の上り乗車のときもそうだったが、食堂車は列車が走っているときに食べてこそ値打ちがある、と思っているのに、わたしが食堂車で食事しようとすると、列車が停まってしまう傾向がある。

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 オムライスは、大変上手に成形されており、さすがプロだと思うが、薄焼き玉子に全く焼きムラや焦げがないのは、何か食品サンプルのごとく無機的にも見える。もちろん、いただけば大変旨い。
 相席の男性は、ハンバーグステーキを単品で注文したので、料理はわたしより後に来たが、先に食べ終えて席を立った。
 少しほっとして食後のコーヒーを待っていると、新たな相客が案内されてきた。南アジア方面と見うける外国の女性である。どうも、夫婦で食事をしたいが並んで坐れるかどうか、を確かめに来たようだ。ウェイトレスさんにわたしの向かいの並びを勧められ、
「コンニチハ、イイデスカ?」
 と、わたしに笑顔で問いかける。わたしも、どうぞ、と快く頷く。女性は旦那さんを呼びに行った。その間にわたしはコーヒーを飲み終えてしまったが、彼女が帰ってくる前にわたしがいなくなっていたら、逃げて行ったようで気が悪いだろう、と思って待っておく。
 ほどなく、二人連れでやってくる。
「ゴメンナサイ」
「ドウモ」
 とわたしに笑いかけて席に着いた二人に、
「どうぞごゆっくり」
 と声をかけ、わたしは伝票を手にした。何とか本来のコミュニケーションにめぐり会えて満足した。いつか列車も動きだしていた。

 「サロン・デュ・ノール」は、すっかり空いていた。山側(進行右側)にゆったりしたソファ、日本海側の窓際には低い位置にベンチが並ぶ。
 

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 ここで暫し休憩してから、個室に戻る。列車は約十六分の遅れ、と放送が入る。
 この後も風雨の影響で一時停車したり、速度制限がかかったりして、遅延は増大していった。敦賀(つるが)には一時間近い遅れで十四時四十五分頃に着き、やはりすぐ発車となった。
 所定なら、鯖江(さばえ)でも停車して「サンダーバード」を待避するはずだが、ダイヤが乱れているからか、鯖江は通過となった。こういう場合、一応待避線に入って一旦停車する場合が多いのだが、この時は通常の通過列車と同様に、下り本線である1番線をあっさり通過した。福井には五十五分遅れて十五時三十五分頃着。
 金沢手前の手取川(てどりがわ)鉄橋において、風のため断続的な運転見合せが続いており、列車がつかえているため、小松(こまつ)でも長く停まる。金沢も慌ただしく発車し、高岡(たかおか)には一時間四十三分遅れの十七時五十七分に着いた。
 富山の神通川(じんづうがわ)もやはり、なかなか渡れない。高岡の次の越中大門(えっちゅうだいもん)でまた臨時停車、風が弱まる間合いを狙って川を渡る列車の順番待ちである。そろそろと動きだすが、小杉(こすぎ)~呉羽(くれは)間は強風による速度制限がかかっているため、徐行する。富山を発車したのは十八時四十一分、ここで二時間十分遅れとなった。
 北陸を抜けないうちに、「ダイナープレヤデス」では予約ディナーの営業が始まっている。わたしはそれは予約していないので、買い込んであった虫抑えを再び口にする。

 同様の調子で進んだため、直江津(なおえつ)では二時間四十三分遅れの二十時四十分着。面白いように、というと不謹慎ながら、遅れが膨らんでいく。当方は、乗り心地よく愉しい列車に長く乗れるのだから、遅れてくれてもいっこうにかまわないのだが、これほど遅れてくると、別の心配が出てくる。
 それは、途中の五稜郭(ごりょうかく)、函館(はこだて)の一つ手前の駅だが、そこで運転が打切りになるケースがあることだ。もちろんその場合、札幌方面へは、別の列車を手配してくれる。のだが、それはもう、この列車に乗ったまま札幌へ行けるに越したことはない。
 いくら心配しても、わたしにはどうしようもないことなのだが。


4.至福のパブタイム

 二十一時前に、再び「サロン・デュ・ノール」へ赴く。 サロンの片隅のカウンターには、手作りとみえるスタンプがある。陶製のスタンプは、この列車を牽く三種の機関車を象っていて、可愛らしい。記念スタンプの類は滅多に捺さないわたしだが、これには好感をおぼえたので、手帳に捺しておく。

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 こんなことをしながら時間を潰しているのは、間もなく「ダイナープレヤデス」でパブタイムが始まるからである。「サロン・デュ・ノール」は込み合っていて空いた席がない。持参の料理を広げて自主的な酒盛りをするグループもある。わたしは食堂車通路の角の部分で壁に凭れて揺れを堪えつつ待つことにする。

 準備が遅れているのか、二十一時になっても「ダイナープレヤデス」の扉には「Close」の札が掛かったままだった。その扉が開いて車掌さんが出てくる。わたしに、
「もうすぐ始まりますよ!」
 と快活な声をかけてくれ、すぐに札が裏返った。
 サロン側で待っていたなかではわたしが一番乗りで案内されたはずだが、既に席に着いている人もいる。A個室(ロイヤル・スィート)の客だろう。A個室はサロン・食堂を挟んで、Bクラスの車輌とは反対側に連結されていて、何かにつけ優先される。

 初期の「トワイライトエクスプレス」では、パブタイムはまさに寝酒を呑むためのもので、料理は簡単なおつまみしかなかった。しかし、要望に応えてメニューは改善が繰返され、現在はけっこう腹に溜まるものも出すようになり、予約ディナーをとらなかった客を救済している。

 まずは生ビール、そしておつまみに「但馬高原鶏のからあげ」を注文する。鶏のからあげなど、素人でも簡単にできる料理だが、やはりプロのは違う。肉の柔らかさ、火の通り具合、衣の歯応えなど、適度なところが見きわめられている。意外にボリュームもあるし、ビールもすいすいと進む。だからグラスワインを追加する。
 揺れる列車の中で、生ビールやらワインやら温かい料理やらをサーブされてテーブルに並べ、ゆったり味わう。これは乗り鉄の至福の一つだ。
 そして食事替わりのパスタを頼む。「きのことムール貝のスパゲッティ」である。比較的あっさりしていて、腹に落ち着く。

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 食べて呑んでいるうちに、列車は柏崎(かしわざき)を通過した。普通なら、パブタイムは本州側の停車駅を全て済ませてから始まるのだが、まだ乗車が続く。長岡(ながおか)ではついに遅れが三時間を突破、二十二時四分頃の発車となる。
 「サロン・デュ・ノール」で少し雑誌など読んだ後、ほろ酔いで自分の個室に戻り、そろそろ寝る準備をする。この遅れ方、そして遅れの増し具合だと、朝起きて本州なのか北海道なのかが微妙なところで、今度もやはり、目覚めるのが楽しみである。


5.まだ東北の朝食

 歳をとってきたせいか、前夜どんなに夜更かししても、六時前後には目が醒める。こういう列車に乗って、軽い昂奮状態にあるのだから、尚更早い。もうちょっと寝てもいいかな、と思って横になったまま目を瞑るが、揺れもあるし、神経が冴えてきて、とても眠れない。

 そっと窓のカーテンを開いてみると、ちょうど大鰐(おおわに)温泉を通過し、弘南(こうなん)鉄道のガードをくぐるところであった。時刻は五時四十分くらいか。下りに数回乗ったが、朝目覚めてもまだ本州だったのは初めてである。
 六時を過ぎると、個室内のいろんなものを再び昼間態勢にセットする。ただし、腰掛ける椅子は、昨夜と反対向きの方にする。まもなく到着する青森で進行方向が換わるからである。枕とシーツ、それに浴衣はまとめて上段に放り上げ、着席して髭を剃ったりする。
 朝食は、6時45分からの回を予約してある。だいたい五分くらいは早めに呼び出しの放送がかかるので、最低限の身支度はしておかないといけない。

 それにしても、ふつう夜行列車だと朝六時頃には「おはよう放送」が入るものだし、前回の上りでは、大幅遅れを受けて、少し早めに放送があったのだが、今朝のスピーカーは黙りこくったままだ。朝食の最初のシフトは6時からだが、皆遅れずに食堂車へ行ったのだろうか。
 平常ダイヤでは六時には北海道に入っているから、「おはよう放送」は交替したJR北海道の車掌さんの仕事だ。交替の青森にまだ着いていないから、ということか。西日本の車掌さんは、下車と引継の準備に忙しいのかもしれない。

 新青森でも交換のため長く停まった。ゆっくりと行き止まりの青森駅に入っていく。ここで機関車も付け替える。切り離された緑色の電気機関車が、窓の外を基地に向かう。こういう光景は、いつもなら闇の中で行われる一連の作業なので、まずは眼福ではある。
 反対側、1号車スィートの方に交替の機関車が連結されたはずである。進行方向が逆になり、津軽海峡線に歩みを進めた。
 ここでやっと「おはよう放送」が入り、遅れが三時間四十分ほどに嵩んでいることが分かる。さては五稜郭打切りか、と身構えたが、車掌さんは平然と札幌までの到着時刻の案内を始める。この先通勤通学時間帯にかかるので、列車の待ち合わせなどでさらに遅れるかもしれない、ついては定刻での到着時刻を案内する、ということだが、こんなに遅れていては、あまり参考にならない。この先の区間で、通勤ラッシュがそれほど激しいとも思えないが、青函(せいかん)トンネルの前後は単線で、タイトなダイヤになっているはずだから、この列車を割り込ませるのは至難であることも分かる。
 ともかく、五稜郭で打切るつもりなら、この時点でもう決まっているだろうから、このまま札幌まで行けるのだな、と安堵する。

 続いて、食堂車から6時45分シフトの呼出しがかかったので、早速出かける。
「ダイナープレヤデス」に入ってみると、すみませんが相席をお願いします、とウェイトレスさんに言われ、初老の紳士が坐るテーブルの斜め向かいの席を案内された。わたしは、ウェイトレスさんに、はい、と返事して、紳士に、
「失礼します」
 と声をかけ、軽く会釈して坐った。が、全く無視して窓を見ている。わたしの声が聞こえなかったはずはないし、この場面で「失礼します」という言葉が自分に向けられたものでしかあり得ないことも、馬鹿でなければ分かるはずである。朝から困ったことだ。

 それはともかく、朝食メニューはこの春から換わっていて、一種類しかない。列車の朝食としてはかなり斬新な、そしてお洒落なものになっている。朝食は和食でないと、という人は、弁当を持ち込むか何かしないといけないので、注意が必要だ。

 テーブルクロスが白っぽく柄のあるものに替わっているのに気づく。これはすがすがしい。
 まず、スターターの皿とカクテルが供された。
 スターターは、「豆のごま和えサラダ」「茄子・胡瓜・パプリカのマリネ イタリア風甘酢トマトソース」「海老とアボカドのカクテル」とのことである。どれもさっぱりした味で、喉に馴染む。フォカッチャ(パン)が一切れついていて、パンは希望すればお代わりもできる。
 カクテルはフルーツがたっぷり入ったもので、もちろんノンアルコールである。ビネガーで味付けされており、酸味と甘味とがうまくとけあっている。

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 次に出たのは、「『丹波のたまご』の半熟3分ボイルと花の塩」と「生姜とタイムのミニお粥」であった。ここだけ見ると、ちょっと和食風でもある。
 半熟玉子をこんなふうに出されて食べるのは、幼児の時以来なので、おっかなびっくりスプーンを差し込んでみたが、ほんのり温かくてなかなか美味しい。お粥も、出過ぎない薬味が食欲を刺戟する。

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 そしてメインディッシュの「ミート&サラダ&ホットベジタブル」である。
 盛りだくさんなので、いちいちの料理を説明するのは省略するが、カボチャとかポテトサラダとか、ありふれた料理・食材であっても、いちいち味が上品である。 盛り付けも凝っていて、皿の上を探検している気分だ。

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 最後に、デザートとなる「フルーツ&フロマージュブラン」である。メロンとパイナップルの切れに、チーズの冷たいスープがかかっている。これも口の中が一気に爽快になる、なかなかのものである。

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 わたしがこのデザートにとりかかった時に、相席の親爺が席を立った。いい歳して挨拶もできない輩は「親爺」でよろしい。おかげで当方はゆっくりできる。わたしより早く席に着いてはいたが、それにしてもわたし以上の早食い親爺である。
 こういう人に一人ならず二人も遭遇したとなると、わたしの感覚の方がおかしいのだろうか、と不安になる。そういえば、玉子にかける塩やコーヒーの砂糖は、双方の席に用意されていて、互いに譲り合ったりする必要がないようになっている。

 ただ、メニューを説明した表示はテーブルに一つしかないので、一人になったわたしは、気兼ねなくそれをスマホの写真に収める。スマホには無音でシャッターを切ることができるアプリを入れたため、その面でもこういう場所で周囲への遠慮が要らなくなった。

 この他にコーヒーも付く。他の営業時間帯や車内販売とはブレンドが異なるのだそうだ。
 大変お洒落で美味しい朝食をいただけたのだが、この間のドリンクが、最初のカクテルとこのコーヒーしかなかった。カクテルの味はよかったが、水気はそんなに多くない。やはり、ジュース類を選ばせてほしいし、せめてお冷やは出してほしい。不満の点はそこだけである。コーヒーを飲みながら、少し手の空いたウェイトレスさんに、お冷やを所望する。
 高級ホテルでも、朝食はバイキングが主流、さもなくばルームサービス、という状況になっているなか、テーブルでサーブしてもらう朝食自体が貴重だし、それに見合う料理の内容でもある。

 わたしも席を立ち、個室に戻る。列車は蟹田(かにた)を出て、JR北海道の路線に入っている。時刻は七時を回った。
 もうすぐ青函トンネルに入る。車掌さんによるトンネル案内の放送が入る。下り所定ダイヤでは未明に通過してしまうから、上り用の放送原稿を流用しているのだろう。
 わたしは、八時からのシャワーを予約してあるので、またまた「サロン・デュ・ノール」に移動した。こんなに遅れるのなら、もっと遅い時間に浴びてもよかったのだが、八時からが予約できる最後の時間帯なのだ。
 すっきりして個室に帰っても、まだ青函トンネル内を走っている。新幹線工事のため休止となった吉岡(よしおか)海底駅のホームが過ぎていく。ドラえもん広場などというものまで設けられて、避難設備や建設の跡の見学もできた駅だが、駅名票も撤去されて薄暗いばかりなのが侘びしさを募らせる。今後は非常時でもなければここに降りることは叶わない。津軽海峡線自体も、ドラえもんのイラストが大書された賑やかな車輌が行き来していた頃の溌剌さがこのところなくなっているのが、淋しい。
 対向の線路を見ると、既に新幹線用の広軌も敷かれてレールが三本になっている箇所がところどころある。レールがない所でも、それを取り付ける位置に金具が見える。


6.北海道へ

 いよいよ北海道に入った。木古内(きこない)の手前で、建設中の新幹線の路盤と分岐する。ここからはまた単線になり、行き違い待ちが多くなる。やって来るのはコンテナ貨物が多い。並行する道路もない青函間は、物流の大動脈なのだ。これと新幹線と、同じ線路上で輸送を両立させるのは、なかなかの課題である。
 雲に切れ目ができていて、朝日を浴びる函館山が見えてきた。まもなく機関車付け替えの五稜郭である。「北斗星」の時のような後続の特急への乗換え案内はない。

 JR北海道では、特急ディーゼルカーから火が出る事故が相次いでおり、その原因も定かでない。安全を最優先に考え、事故を起こしたのと同じタイプの車輌を運用から外している。結果、特急車輌は不足しており、各線の特急が間引き運転となっている。この後の五稜郭9時34分発特急「北斗5号」札幌行も運休なのである。
 五稜郭打切りや「北斗」への振替えがなされないのは、そういう事情も影響しているのかもしれない。この列車は札幌まで「北斗」に抜かれずに走ることになるようだ。

 また向きが換わって、わたしの個室は左窓になる。
 七飯(ななえ)からは路線が8の字状になるが、一旦合流する大沼(おおぬま)に九時二十分頃に着くと、また行き違い待ちとなる。何が来るかと見ていると、普通列車用のディーゼルカーがたった一輌で、らしからぬスピードで駆け抜けていった。この先の森(もり)に終着した下りの通学列車が、五稜郭の基地に戻って行くものらしい。拍子抜けしたが、一輌でも列車は列車で、やり過ごさないと前に進めないのが単線の宿命である。
 小沼(こぬま)と駒ヶ岳(こまがたけ)がさっきから見えている。この列車はここから内陸側の線を行き、左窓から大沼は見えない。上り列車だと海側の線を走るから、大沼と駒ヶ岳の組み合わせを愉しめるし、駒ヶ岳もいろんな角度から見られる。春の上り「トワイライトエクスプレス」に乗った時には、夕刻の情景に心うたれたのを思い出す。

 森にも長万部(おしゃまんべ)にも停まらずに、室蘭(むろらん)線に入る。十一時を過ぎたので、早昼に予備食料として買い込んでおいたパンを食べる。
 昼食時間帯を挟むことになるが、「北斗星」と違って「ダイナープレヤデス」の昼食営業などはしないようだ。その代わり、せめてもの配慮か、昼前に合わせてマドレーヌの販売があった。上りの大遅延の時のような缶パンの支給や買い物停車はない。停車しようにも、ホームに多数の売店があるような駅は限られているから、しかたないのかもしれない。

 やはり随所で交換待ちをしながら進むので、遅れはいよいよ積み増され、北海道最初の停車駅である洞爺(とうや)には、四時間十七分遅れの到着となる。機関車付替えや機関士交替のための停車はあったが、ドアが開くのは、新潟県の新津(にいつ)以来である。
 洞爺の先の稀府(まれっぷ)を通過したあたりで、十一時五十分になる。つまり、大阪出発からまるまる二十四時間が経過したのである。それでも、わたしについては、疲れたり飽きたりすることはない。
 東室蘭からは、かなり列車のスピードが上がった。直線や複線の区間が多くなったからであるが、後で時刻表を見ると、後ろから特急「スーパー北斗7号」札幌行が追い上げてきていたのが分かった。これから逃げきる必要もあったようだ。
 登別(のぼりべつ)、苫小牧(とまこまい)と少しずつ客を降ろしてはすぐ発車していく。南千歳(ちとせ)では、既に隣のホームに到着していた快速「エアポート133号」旭川(あさひかわ)行の発車を遅らせてこちらが先に出る。快速の後追いになっては、「スーパー北斗」に追いつかれてしまうからだろう。

 終着札幌に到着したのは、三時間五十八分遅れの十三時五十分頃であった。洞爺からは三十分近くも遅れを回復したことになる。所定ダイヤでは東室蘭~苫小牧間でかなり交換待ちがあるからでもあるが、ともかく最後の力走が効いている。

 五稜郭から頑張って列車を牽いてくれたのは、「北斗星」に合わせた塗装のディーゼル機関車二重連である。武骨な凸型だが、ヘッドマークも付けられてそれなりに優美さを湛えている。

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 折返し大阪行上り「トワイライトエクスプレス」の発車は定刻だと14時05分だが、間に合うはずもない。これから車輌基地に回送して清掃と整備を行うのである。後で聞いたところでは、この日の上りは十七時半頃の発車になったそうだ。

 結局大阪からの所要時間は二十六時間ちょうど、ということだ。わたしが「一般営業列車に乗換えも途中下車もしないで乗り続けた時間」としては最長記録となった。
 この記録は簡単には破られないだろうし、破られることがあればそれは深刻な災害か何かということになろうから、破りたいともあまり思わない。もちろん、所定ダイヤで二十六時間を超える運転時間の列車が今後登場するというなら、それは歓迎するが、その可能性も低いだろう。

(平成25年9月乗車)

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特急「雷鳥」最後の華

 関西との往復には特急「雷鳥」を使うことが多い(他にも選択肢はできたのだが、これはまた別記事で)。

 その「雷鳥」をテコ入れするためのキャンペーンが、この夏実施された。いろいろなイベントのなかでも、すばらしいと思ったのが「雷鳥御膳」である。

 この、7~9月に実施された「この夏は「雷鳥」号で出かけよう!」というキャンペーンは、三本立てである。
 まず、小学生以下の乗客には雷鳥号をあしらったピンバッジがもれなくプレゼントされる。しかも月ごとに車輌デザインが替えられ、子供心をくすぐるしくみになっている。
 次に、「雷鳥」停車駅のスタンプを集めて応募すると、このピンバッジを収納するケースが抽籤で当たる。
 ここまでは子供相手。最後の一つが特製弁当「雷鳥御膳」なのである。

 北陸本線で初めての特急は、昭和36年、大阪~青森・上野間に運転開始された「白鳥」であった。大阪~青森間の編成と大阪~上野間の編成各七輌であり、大阪~直江津間は双方を併結し、十四輌編成で走っていたのだ。しかも食堂車を二輌連結するという豪華列車である。
 青森編成は関西と東北・北海道連絡が主たる使命である。そして、上野編成は首都圏と信州・北陸の連絡、関西と北陸・信州の連絡と二つの使命を併せ持った、現在の北陸新幹線(計画)を図らずも先取りした列車だった。

 利用者の特急志向が昂じ、関西~北陸間の需要を「白鳥」だけで捌ききれなくなったため、これをサポートする特急が昭和39年に誕生した。これが「雷鳥」(大阪~富山間)だ。
 その後、「白鳥」の上野編成は「はくたか」(漢字で書くなら「白鷹」)として独立し、「白鳥」は大阪~青森間となる。
 余談ながら、この三つの特急の愛称の関係性は見事である。同じ関西~北陸特急であることを「鳥」の字を共通させて表し、出自が同じ北陸特急であることを「はく」の音と鳥の名をつけることで表している。国鉄も結構几帳面だったのだ。さらにその後、「はくたか」を別経路で増発した特急の愛称は「白山」、新幹線を介して首都圏~北陸連絡の一端を担う北陸線特急は「しらさぎ」(漢字なら「白鷺」)となった。

 「雷鳥」はダイヤ改正のたびにどんどん本数を増やしていった。大阪~金沢間を運転するもの、新潟まで足を伸ばすものなど、バリエーションも生まれたが、北陸本線の花形はあくまで長距離の「白鳥」であり、「白鳥」は「雷鳥」より停車駅も少なめであった。
 国鉄末期になると、「雷鳥」の増発に伴い急行が廃止されていったため、「雷鳥」はかつての急行停車駅もカバーする必要が出てきた。そうなっても、「白鳥」は気軽にそれらの駅には停まらなかった。福井県内で言えば、敦賀・福井・芦原温泉にしか停まらなかったのである。「雷鳥」はやっぱり二番手の特急だったのだ。

 JRの時代に入る。
 「雷鳥」は新幹線のように速達型と主要駅停車型とに分けることとなり、一部車輌の内装をグレードアップし「スーパー雷鳥」(大阪~富山など)とした。主に県庁所在地間の連絡に徹するため、途中の停車駅は、新大阪・京都・福井・金沢・高岡のみという、当時としては大胆なもので、「白鳥」よりも停車駅が少なくなった。「白鳥」は「雷鳥」ともども食堂車もなくなり、軽食ラウンジ付だった「スーパー雷鳥」に比べて精彩を欠いた。ただし、車輌は「雷鳥」よりはやや上等なものだった。
 「スーパー雷鳥」は、西は神戸へ、臨時列車としても、長野へ、あるいは和倉温泉へ、さらに富山地方鉄道に乗り入れて立山・宇奈月温泉へ、と版図を拡大した。
 「雷鳥」は「スーパー雷鳥」・「白鳥」に次ぐ三番手の特急に成り下がった。ただ、一部の「雷鳥」には「白鳥」「スーパー雷鳥」用のグレードアップ編成が間合いで使用されたのが、救いであった。

 さらなる転機が訪れる。
 関西~北陸間特急の後継となるべき新型車輌が作られた。これが、平成7年から「スーパー雷鳥」に投入された。そして平成9年には、愛称も現在の「サンダーバード」となった。この時、「白鳥」は「雷鳥」と同様の車輌に置き換えられたうえ、停車駅も「雷鳥」なみに増えた。武生や鯖江などにも停まるようになったのである。いよいよ貫祿が失われ、単なる「遠くまで行く雷鳥」になってしまった。
 平成13年には新型車輌の増備に伴い、「スーパー雷鳥」・「白鳥」や大阪~富山・新潟間など運転の「雷鳥」が廃止された。「サンダーバード」は大阪~富山・和倉温泉間、「雷鳥」は大阪~金沢間と運転区間もはっきり分けられた。「雷鳥」が運転される時間帯も、朝夕の混雑時が中心となり、閑散時は運転されなくなった。分かりやすくはなったが、「雷鳥」凋落は決定的となった(「雷鳥」のない時間帯は、「サンダーバード」が「雷鳥」の停車駅もカバーする)。

 こうして常に二番手・三番手の立場を強いられてきた「雷鳥」である。大阪駅などで発車の様子を見ていても、次の「サンダーバード」の自由席に長蛇の列ができるなか、「雷鳥」は空席を残して発車していく、という光景に時々出くわす。「雷鳥」が「サンダーバード」に抜かれることはなく、先発した列車が先着するのだが、皆が綺麗で速い列車を好む。
 JR西日本も、これではいけないと考え、特に夏の多客期には、「雷鳥」に客を誘致して、乗車率を平準化し、「サンダーバード」の混雑を緩和するため、このようなキャンペーンにうってでたのだろう。
 87131215 本来、「雷鳥」がかつての急行のような役割、「サンダーバード」の補完の役割になっていること、そして客室設備や速度に歴然たる差があることから考えても、「雷鳥」を急行に格下げするなり、「雷鳥」限定の割引切符を設定するなりして料金差をつけるのが正道だとは思うが。

 というわけで、「雷鳥御膳」にやっと話が戻る。「雷鳥」の車内でしか購入できない特製だ。
 この期間限定弁当は、金沢市内中心部に店を構える加賀料理の老舗料亭「大友楼」が献立を担当したもので、流石に駅弁の折という制約のなかで、華やかな彩りを見せてくれている。
 おかずのなかでも気に入ったのは、蟹の甲羅焼である。付いているお品書きを見ても、これがメインディッシュ扱いのようだが、甲羅の中に魚のすり身と卵を混ぜたものに人参などの野菜のみじん切りをも練り込んだものが詰められ、それを焼いてあるのである。和風カニグラタンという感じだが、それよりは歯応えがしっかりしていて、蟹の風味がほんのりとすり身とマッチし、美味しい。
 天ぷらは、甘エビ・烏賊・蓮根・薩摩芋と、どれも一口サイズで、べたつかない。冷めても美味しいよう、工夫が施されているのだろう。これらは抹茶塩でいただく。
 その他のおかずも上品である。駅弁の定番である焼鮭にしても、まさに駅弁にありがちなしつこい塩辛さがないし、骨も気にならない。鴨のパストラミは一切れではもの足りないほど。雲丹があまり好きでないわたしも、雲丹を絡ませた烏賊の絶妙な甘みと香りは堪能できた。
 さて、蟹が福井名産であることはすぐにお分かりであろうが、どの辺が加賀料理かというと、天ぷらの薩摩芋、これが代表的な加賀野菜の一つである「五郎島金時」という石川県沿岸部で獲れる品種なのである。
 これらはいいとして、ご飯が白ご飯の他、鱒の押し鮨も二切れ入っているのはどういうわけか。鱒寿司といえば、富山の名産ではないか。
 前述のように、現在の「雷鳥」は富山には行かないのである。北陸三県の顔を立てたのかもしれないが、これでは「雷鳥」の宣伝にはならない。若狭の鯖寿司にしてほしかったところだ。この点だけが残念である。
 まあしかし1200円でこのおかずの種類の多さと味なら、破格のお得値と言えるだろう。87131183 89131762

 掛け紙も、雷鳥号の色彩豊かなイラストが華を添えており、側面には「雷鳥」の説明やヘッドマークもあしらわれている。こういうのを集める趣味はないので捨てたが、写真には撮っておいた。
 掛け紙に折というと、かつては駅弁として当たり前であったが、最近はコンビニ弁当のようなパックのし方が増えてきて、こういう駅弁駅弁した駅弁は珍しくなった。これも懐かしくてよい。
 この弁当は、期間中のほとんどの「雷鳥」で販売されたが、一部、午前中の大阪発列車では販売されなかった。つまり、調整してすぐに金沢で積み込んだものだけをその日のうちに販売している、ということであり、料亭の矜恃がうかがわれるし、安心である。

 「大友楼」は、金沢駅110周年の時にも特製弁当を作っている。83311211 83311203
 JR金沢支社と仲がよさそうである。今後もいろいろな企画で舌を楽しませてくれることを期待しよう。

 「雷鳥」の車輌は、あと数年のうちに新型に全て置き換えられ、廃車されることが発表されている。国鉄製の特急型車輌が国鉄当時の塗装のままで活躍している特急列車としても、もはや少数派になってきている。淋しくはあるが、いつかはくることである。列車名も「サンダーバード」に統一されるのか、「雷鳥」の名のまま新型になるのかはまだ分からないが、最後までしっかり北陸を支えつづけてほしいものだ。

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「スーパービュー踊り子」の準食堂車

 わが国では、食堂車という存在はまことに稀少になってしまった。本来の意味での食堂車は北海道方面の寝台列車にしか残っていない。
 だから、列車に乗りながら飲み食いするのが大好きな乗り鉄としては慢性的な欲求不満があるのだが、それゆえに、「本来」でなくても食堂車に類するものがあると聞けば、利用してみたくなる。

 その一つが、東京と伊豆とを結ぶ特急「スーパービュー踊り子」のラウンジである。上り下りそれぞれに乗る機会があった(写真下は、品川駅に入線してきた下り「スーパービュー踊り子」)

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 下りでは1号車、上りでは2号車に乗る。いずれもダブルデッカーのグリーン車であり、号車を乗り分けたのは、それぞれ一人席が進行方向右側にくる席を選んだ結果である(写真下は2号車の一人席)。「スーパービュー踊り子」グリーン車は、JR東日本にしては珍しく、横三列のゆったりしたシートになっている。横四列ではグリーン料金を払う気がしないが、これなら値打ちだ。

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 乗り込むときは、ドアの所に客室乗務員が立ち、一人ずつ切符をチェックする。これがあるから車内での検札はない。またそのために、一部の扉(窓のある扉)しか開かない。終着駅での下車時や、間合いで通勤ライナーに使用するときなどは、すべての扉が開くようで、その旨案内がある(写真下の左は車内側から撮った窓のない扉の案内。中は終着駅で開いた窓のない扉。右は窓のある扉)
 

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 さて、グリーン車の階下は、2号車がグループ用のコンパートメント、そして1号車が問題のラウンジとなっている。
 席に着き、発車すると、すぐに客室乗務員がおしぼりを配りがてらウェルカムドリンクの注文をとりに来る。オレンジジュース、ホットコーヒー、お茶などから選べ、もちろん無料である。ほどなくそれが届く。
 ウェルカムドリンクをいただくのもそこそこに、階下のラウンジに行ってみる。一輌の半分くらいしかないし、1階なので見晴らしはきかないが、こういうスペースを設けてくれているだけでもありがたい。グリーン車のシートだから坐っていてもそれほど疲れないし、乗車時間もそれほど長くない。とはいえ、ちょっと気分を換えることができるのは、いい(写真下はいずれもラウンジ内の様子)

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 ソファには肘掛けを拡大したような感じのちょっとしたテーブルがあり、紙ナプキンなども置いてあるので、ここだけ見ると、いかにも食堂車という気がする。
 ビールのポスターもある。ここで注文すると、グラスに注いでくれるのだろう。カウンターは、車内販売やサービスの基地となっていて、客室乗務員が絶えず出入りするので、あまり落ち着かない。そのせいか、それほど長居する客はいないようだ。

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 メニューは、ほぼ車内販売と共通なのだが、わずかにラウンジ独自の食事メニューもある。その最たるものがビーフカレーである。食堂車らしさを味わえる、温かいものだ。もとよりレトルトを温めているのだろうが、贅沢は言えない。下りではこれを注文した。
 味はとびきり美味しくもなくさりとて不味くもなく、無難なものだったと思う。何よりも走る列車の中でこういうものが食べられるだけで楽しい。

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 上りでは、サンドイッチを頼んでみた。これもラウンジではちゃんと皿に盛りつけてくれる、と聞いていたからである。すると、サンドイッチにはカツサンドと普通のハムとチーズのサンドイッチがある、と言う。おやつのつもりなのでカツはちょっと重たく、後者を所望した。
 併せてアイスコーヒーを注文しようとすると、
「ホットでしたらウェルカムドリンク扱いで無料になりますが」
 と言う。ウェルカムドリンクはおかわり自由だったのである。せっかくなので、そうしてもらう。
 ほどなく運ばれたのは、期待に反して箱入りのままのサンドイッチであった。

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 箱のまま、とは言っても、コンビニなどのような透明プラスチックではなく、イラスト入りの紙箱なので、それなりに雰囲気はある。
 「普通の」サンドイッチ、とのことだったが、味は普通よりかなりよかった。ハムが四切れ、チーズが二切れ、それらの具とバター・マヨネーズ以外に何も入っておらず、またパンも質が高い。上品なサンドイッチだ。

 満足して席に戻ろうとすると、デッキにカウンターがあった。ここが客室乗務員の定位置のようだ。もっとも、二輌に二人という贅沢な配置にもかかわらず、客室乗務員は何かと忙しく、ここにいることはあまりなかったようである。

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 停車駅が近づくと、このデッキに客室乗務員がスタンバイする。降客を見送り、鄭重に礼を言うばかりか、ゴミまで引き取ってくれる。

 このラウンジは、あくまでグリーン車専用のものである。この列車ではグリーン車と普通車の間は通り抜けができず、扉では客室乗務員のチェックがあるから、グリーン客が完全に隔離されている。その意味でも一般的な食堂車とは遠く、むしろホテルのエグゼクティブラウンジに近い性質なのだが、対象人数を限っているからこそ、このサービスが維持できるのだろう。
 リゾート列車ならではのラウンジサービスを、いつまでも続けてほしいものだ。

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(平成23年9月・24年3月乗車・利用)

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東京駅構内の大駅弁店

 既にいろんな所で話題になり、報道もされているが、東京駅改札内に、日本最大の駅弁売場が誕生している。
 もっとも、それでは日本第二位、すなわちそれまで最大だった駅弁売場はどこか、と訊かれても、誰も答えられない。要するに、駅弁など小さなスタンドで売るのが当たり前であって、「大規模」にしよう、という発想そのものがなかったのである。

 こういう面白いのはほっとけないし、東京駅だからこそできることだ。覗かずにはいられない。昨年の夏、上京した折に立ち寄ってみた。

 ホームの下を横切る広い通路の一画に、この駅弁店「祭」があった。こういう店が開店すると、これができる前は何の店だったっけ、といつも考える。のだが、いつも思い出せない。
 多くの人が店内にいて、見て回るのも大儀だ。

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 何にしろ、ここには全国の駅弁が集まっているのである。デパートの駅弁大会のようだが、ここはこれが常態なのである。
 デパートだと、各地の駅弁業者が出張ってきて各ブースで駅弁を製造直売するのが普通だ。しかしここでは、その場で調整している弁当はごく一部で、ほとんどは現地から運び込まれたものである。弁当のような保存の利かない商品がこのように集められるのは、新幹線を初めとする高速列車網が全国にいきわたった恩恵である。あまり距離が遠いものは飛行機で運んでるのかもしれないが。

 まさに目移りばかりするが、わたしは、当面行きそうにない地方から選ぶことにし、夕食用と夜食用とを物色する。
 しかし、陳列は地方別ではなくジャンル別、つまり、海鮮ものなら海鮮もの、サンドイッチならサンドイッチばかり、ばらばらの地方から集めたのがまとめて置いてある。ちょっと見ただけではどこの駅弁か分からないものも多い。それだけに探索が愉しい。

 店を三度くらい周回した末、わたしは鳥取の「カレーメンチカツサンド」と高松の「讃岐でんぶく ふぐ弁当」を選んだ。どちらも聞いたことのない駅弁である。

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 ホテルに持って帰り、開けてみる。まず、「カレーメンチカツサンド」からである。
 まい泉のカツサンドに代表される、シンプルな味付けのカツサンドが流行りだが、カレーメンチカツとは、そのバリエーションとしてもユニークだ。
 これは、大方のカツサンド同様、いわゆる「空弁」として有名になったらしい。なんでカレーか、というと、鳥取県はカレーの消費量が日本一なのだという。それも知らなかった。

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 普通の豚カツとは違い、ミンチなのでさっくり噛み切れて食べやすい。マヨネーズでぎとぎとしていないのもいい。カレーのルーが挟まれているというわけではなく、カレー風味のソースが塗ってあるだけなので、刺戟が強すぎず、すっと喉を通る。
 そして忘れてはいけないのがパンの味である。具にいくら手をかけても、それに負けるパンでは、全体の仕上がりが台無しになるところだが、さすがにきめが細かい、香りのいいパンが使われている。

 次に、「讃岐でんぶく ふぐ弁当」の方である。
 讃岐といえばうどんという印象が強すぎるが、瀬戸内海に面した県だから、当然いい魚が揚がる。ふぐも隠れた名産なのだという。
 そのふぐが、形をこれでもかと様々に変えて、小さな輪っぱの中に散りばめられている。わたしはやはり、ご飯に載った唐揚げが気に入った。最も美味しい唐揚げはふぐ、ふぐの最も美味しい食べ方は唐揚げ、と思っているので、駅弁で気軽に口にできるのは嬉しい。

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 炊き込みご飯の量は多くなく、おかずは魚と野菜が大半なので、胃に重くもなく、若いうちだと物足らないと思っただろうが、今なら十分だ。

 たまたま買った二つの駅弁は大当たりだった。全商品を制覇することなど考えていないし、毎日東京駅を通って通勤する人でもなければそんなことは無理だろう。しかも、半月ぐらいごとに、商品は入れ換えるという。
 しかし、それはまた、いつ行っても未知の駅弁が待っているということでもある。出かけるのが億劫な人にも、舌の旅ができる店である。

(平成24年8月訪問)

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新装稚内駅と臨時特急上り「まんぷくサロベツ」

 「キュンと北海道フリーきっぷ」で北海道のそぞろ乗りを続けているが、この日は稚内へ出かけた。か細い宗谷本線が通うのみの稚内は、先日の釧路とは異なり、列車での日帰りは難しい。そこで、往路は飛行機を使うことにし、新千歳(しんちとせ)から稚内空港へ飛んで連絡バスで市内に入った。
 途中副港市場を覗いてみようか、とも思ったが、天候が怪しいので見合わせた。副港市場から駅までは、ちょっと歩く距離があるのである。

 直行でやってきた稚内駅に、わたしは目を見張った。新しい駅舎ができ、全面改装されたとは聞いていたが、これほど変幻しているとは、思いもよらなかった。

 くすんだ昔ながらの駅舎が佇んでいた旧稚内駅とは似ても似つかぬ、今風の軽快な駅ビルがわたしを迎えてくれた。

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 終着駅リニューアルの常として、それまでの駅よりも少し後退させて駅前広場を整備する、というやり方がとられている。駅前広場にはバスターミナルが新設され、従前の宗谷バスターミナルは取り壊された。
 とにかく駅付近は全く様相を新たにしているのだ。記憶にあった以前の駅周辺と、照合しようにも、何がどこにあったのかも分からない。雪の季節に来ることが多かったせいもあるかもしれない。

 駅のすぐ北側には従来から全日空ホテルがある。待ち時間に覗いてみる。
 ここには泊まったこともあるが、街の中心が南稚内付近であり、ビジネスホテルなどもそちらに集中するなか、ひとり稚内駅前に気を吐いているホテルである。利尻・礼文航路の波止場にも隣接している。
 が、それだけに観光の宿という面が大きく、短い夏を終えた今、ホテルのロビーはうら寂れた陰鬱な雰囲気であった。あまり長居する気にならず、さっさと駅に戻った。途中の通路には、舗装のコンクリートのなかに二本の細く黒い帯が一定の間隔を保ちながら続いている。まるで鉄道のレールのようだ、と思うまでもなく、駅前広場に出ると、本物のレールにつながるのだ。

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 これは、駅舎が後退して線路が短くなる前、実際に敷かれていた線路の跡らしい。その一部は道床もそのまま残され、「最北端の線路」という表示も添えられて、一種のオブジェになっている。

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 線路を模した二本線は、そのまま駅舎に吸い込まれている。

 駅舎に入ると、改札付近のコンコースの隣に、土産物屋や飲食店の入った店舗群がある。その一角に食堂があるが、食堂の一部が立ち食いそばのカウンターとなっている。これが最北端の駅そばということになる。

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 駅部分はホーム一面一線だけの最小限のつくりだ。南稚内駅には留置線があり、列車の整備ができるようになっている。稚内発着の列車はそこで折返し整備を行い、乗降を扱うためにこの稚内駅に回送されてくる寸法である。
 線路の行き止まり部分は、コンコースからガラス張りの壁を通じて見通せるようになっている。この壁に向かって列車が入ってくるのだから、迫力はなかなかのものだ。
 液晶表示の発車案内には、これからわたしが乗ろうとしている特急「まんぷくサロベツ」札幌行が表示されているが、文字化けしているのは残念だ。
 やがて、「まんぷくサロベツ」の車輌がコンコースに向けて突入して来、多くの人がカメラを構える。

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 この車輌は、やはりJR北海道のジョイフルトレインの一つで、「ノースレインボーエクスプレス」と呼ばれているものである。
 その名のとおり、車輌ごとに異なるパステルカラーが塗装されており、華やかな外観である。七輌つないでいれば「レインボー」の名にぴったりくるのだが、それは輸送力が過剰なのか、実際は五輌である。

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 「まんぷくサロベツ」は、観光シーズンに合わせて、定期特急の「サロベツ」を、車輌を変更し、独自の趣向を凝らした企画列車として運転するものである。「まんぷく」の名で知れるごとく、車内の供食に特に力を注いだ列車である。土曜日の下りと日曜日の上りが「まんぷくサロベツ」となるのが基本である。
 中間に位置するダブルデッカー車輌は、二階が客席、一階がラウンジと売店になっている。売店では、この列車限定のさまざまな「食」に関する商品が売られる。ラウンジの壁にメニューが貼ってある。 

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 わたしは、最初このダブルデッカーに席を占めたのだが、天井の低さに窮屈を感じ、隣の車輌に移った。この車輌もハイデッカーであるから、見晴らしはよい。そのうえ、この車内には、ダブルデッカーにはなかったモニターが設置され、前面展望が映写されているから、それを見ていると飽きない。

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 発車して暫くすると、ラウンジの売店から営業開始の放送がある。行ってみると、これまた行列ができている。
 わたしの番がくる直前に、豊富(とよとみ)が近づいた。てきぱきとした女性店員が、
「豊富でプリンを積み込みますので、暫くお待ちください」
 と行ってデッキに出て行った。
 店員が戻り、やっと順番が来て、いろいろ買い込む。さっきの稚内全日空ホテルで調製された「宗谷黒牛サンドイッチ」も売られている。分厚く香り高い食パンにほどよい歯応えのビーフカツが挟んであり、冷めても美味しい工夫がなされている。
 豊富温泉の「湯上がり温泉プリン」は、川島旅館で温泉から上がった客にサービスされているプリンで、地元産の牛乳とそれを使った生クリームだけでできていて、あっさりしたスィーツである。通常は同旅館に泊まった客しか食べられないものを、この列車で特別に供している。デザートとしていただいたが、とてもスムーズに喉を通り、美味しかった。

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 この他、途中経過地である名寄の名物、「もち米の里ふうれん館のソフト大福」も求めた。これもべたつかない甘さで、上品な菓子であった。

 売店では、この列車の乗車記念証も配布されていた。裏面は、かつて宗谷本線を走っていた急行「礼文」のイラストに、自分でラウンジにあるスタンプを捺してヘッドマークを入れる、という趣向であった。

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 観光列車然としていたのは名寄までで、ここからは用務客も多く乗ってきて、自由席も半分ほどが埋まった。定期列車のダイヤで運転されているので、普段使いの客も多いのである。
 旭川からは都市圏に入るので、かなり日常的なムードになるが、すぐ前を特急「オホーツク」も走っているので、さほど込まない。それでも女性係員は精力的に放送や車内販売に勤しみ、常連客も観光客も分け隔てなく、「まんぷく」を提供しようとしている。
 札幌には定刻に到着する。五時間を超える行程だが、食の楽しみがいささかでもその時間を短く感じさせてくれた。

(平成24年9月訪問・乗車)

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広電1150形(元神戸市電)と電車のレストラン

 広島に来たときは、事情が許す限り、平日朝広島駅前の電停に暫く立つことにしている。そういう時間帯しか動かないような古い電車が見られるかも知れないからだ。
 一番の目あては元神戸市電の570形と1150形であるが、各一輌しかないので、出会う確率は低い。何にしろ旧型なので予備車のようなもので、車庫で寝ていることの方が多いようだし、動いていたとしても、広島駅前に入らない系統で運用されているかもしれない。広電の運用は車種を固定はしていないので、どの系統に入るかの予測は難しい。あてどなく立ち尽くして待つしかないのだ。
 前回来た時は、570形に辛うじて乗れたが、1150形は見かけなかった。できれば今回、神戸市電の最後にして最高峰の車輌とも言われた1150形に乗りたいのだが。

 元西鉄の電車が来た。連接車に挟まれて折返している。 

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 でも神戸のは来ない。
 元大阪市電と元京都市電が並んだ。

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 でも神戸のは来ない。
 出発線に電車が輻輳して、入ってくる電車が見えにくくなってきた。その時。 

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 あれっ? 向こう側に見えかけてるのは…? 

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 おお! これが元神戸市電の1150形である! 5号線だが「宇品(うじな)二丁目」の行先を出しているので、途中止りで入庫するのだろう。まさに朝ラッシュ限定運用に入ったわけだ。
 早速5号線の乗場に急ぐ。途中まででもいいから、乗ろう。これを逃せば今度いつ会えることやら。

 さっきと反対側の顔を撮り、列の後ろに並ぶ。入口扉脇には神戸生まれであることを示す銘板がある。
 ロマンスカー以降確立された、いわゆるヨーロピアンスタイルである神戸市電の標準デザイン、滑らかな曲線が縁取り窓を大きくとった流麗な車体を誇るのだが、そのスタイルの現役車輌は、今やこの一輌だけである。もう一輌の570形はそのデザインが定着する前の車輌だから、ちょっと見た目が異なる。
 惜しいかなこの電車は、広島と姉妹都市提携を結ぶハノーバーのPR塗装になっている。これを神戸市電カラーにしてくれたら、色形ともに神戸市電のよき時代を伝えることができるのだが。570形は神戸市電カラーで走っているのだし。
 しかし、贅沢を言うべきではなかろう。この車輌を廃車せずに使ってくれているだけでも、広島電鉄に感謝しなければならない。

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 5号線の沿線には学校が多いので、朝は学生で混雑している。最初は坐れなかったが、だんだん空いてきた。
 最後部の座席に坐ると、運転台がよく見える。車内の佇まいなどもスマホに収める。神戸市電、という眼で見ると、カードリーダーなどが似つかわしくない。

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 名残惜しいが、宇品二丁目で追い出される。電車は少し進んだ所で折返す。こういう比較的狭い道で路上折返しをする姿は、いかにも路面電車という感じがする。それを1150形で見られるのだから、途中止りも塞翁が馬ではある。交通量がさほどでない区間だからできるのだろう。この5号線は区間便だが、昼間の3号線もここで折返している。
 まず、南行軌道を少し進んで停まる(写真下の左)。そして運転士さんが手前の運転台に移ってきて、渡り線で北行軌道に渡る(写真中)。回送となって宇品二丁目を通過、千田町(せんだちょう)の車庫に向かう(写真右)

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 1150形が見えなくなるまで見送った後、わたしは後続の電車で広島港まで行き、発着する船や電車を眺めて時間を潰した。そして昼前になると、また電車に乗って広電(ひろでん)本社前までやってきた。実は、1150形は前座で、ここに来るのが今日の主目的である。

 下の写真は、広電の本社ビル(左の建物)側から南東方向を見たところである。お分かりだろうか。向かいのスーパーに巻きつくようにして電車が停まっているのが。

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 反対側から本社ビルを望むと、下の左の写真のようになる。右は、この電車から奥にある車庫を遠望したところだ。

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 この黒っぽい電車は、広電が経営する「トランヴェール・エクスプレス」という電車を使ったレストランなのである。これが開店したと聞いたのが、今回広島に来た一つの理由である。
 建物の側にある「ビストロ・トランヴェール」という店が本体で、電車はその別棟という扱いのようだ。電車の入口に立つと、「ビストロ…」から係員が出てきて、席に案内してくれる。料理も「ビストロ…」で調理したのが運ばれてくるようだ。

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 この電車は、広電がドイツのドルトムント市の路面電車車輌を購入したもので、実際に営業運転していた。やはり外国製の電車は何かと扱いにくいのか、だんだん使われなくなり、ついに廃車となったが、その車体をこうして別の商売に活用しているのだ。
 だから、車内には、食堂の建物としての飾りつけや表示、広島電鉄としての掲示、ドイツ時代の掲示、といろいろ入り乱れている。内装は、かなり手を入れて、欧風に加え高級感を演出している。一番奥には、会議や宴会にも利用できる個室まである。

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 これだけ綺麗にしてもらったら、ぜひ走ってほしいと思うのだが、残念ながらレールは本線とつながっていないし、鉄道車輌としては既に籍がない。

 テーブルから外を見ると、現役の電車が次々走っていく。
 メニューを渡された。昼の献立は限られている。わたしは、パスタランチを選んだ。

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 パスタもパンも、適度な量でランチとしては十分である。味もよかったし、もちろん居心地も抜群だ。

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 いつか夜のパブ営業にも来てみたい。
 が、予約がなかなか取れないのだという。

(平成24年9月乗車・訪問)

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