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2006年2月 5日 (日)

最後の授業

 このごろ馴染みのブログやWeb日記などを見ていると、学生時代最後の授業を受けた、といった話題をいくつか見かける。ちょうど大学などの後期の授業が閉じるシーズンなので、そうなる人も多い。
 わたしは、学生時代最後の授業というのはよく覚えていない。というのも、オーバーマスターで院生を四年もやっていた。修士論文は二年目にちゃんと書き上げていたし、修了のための単位も揃えていた。が、研究活動をするために、大学院生という肩書があった方が好都合だったために修士論文をわざと提出せずに籍を置いたのだ。しかも、修了してからも附属学校の非常勤を続けながら何食わぬ顔で研究室に出入りして院の授業にも顔を出していたから、いつをもって最後の授業とするべきか、よく分からないし、確たる記憶もないのだ。

 それより、わたしのみならず国語教育の関係者が「最後の授業」と聞いて想起するのは、国語の名物教材であったドーデの小説だ。

 なんでも、ほぼ昭和の全期にわたって半世紀ほどもの間小学校の教科書に採られてきた教材文章なのである。
 ストーリーというほどのストーリーはなく、むしろストーリーの一断面である。
 舞台は現在のフランスの北東部にあるアルザス地方の一小学校。アルザス地方は仏独国境に位置するので、両国の間で取り合いされてきたらしい。「最後の授業」は、アルザスでフランス語の授業が禁じられることになった時のフランス語の最後の授業を描いたものである。先生の授業を子どもたちばかりか、地域の大人たちも詰めかけて熱心に聴講している。そしてこの小説の圧巻は、授業の終わりに先生が言うべき言葉を失ったあげく、黒板いっぱいに「フランス万歳」と(もちろんフランス語で)書いて教壇を下りる最後の場面であろう。

 わたしが使っていた小学校六年生の教科書の最後がこの教材だった。それなりに感動して読んだ覚えがある。
 しかし、この教材は現在の小学校教科書には載っていない。通常、教材が外される理由がこと改まって説明されることは稀であるから、確たる理由は分からない。やはり、植民地政策によって言語を奪う、ということが感動の素材として用いられているところに問題があるのかもしれない。朝鮮半島が日本の一部だった時代にも使われていた教材なのだが。

 冷静な眼で見れば、「最後の授業」がそれほど洗煉された小説とも思わないし、教科書から消えたことを特に惜しむ気持ちにもならない。
 ただ、定番の教材が顔を見せなくなるのは、国語教育関係者の間のギャグネタが減ってよろしくない。「フランス万歳」は、板書の話をするときに決まって登場するギャグだったのだ。

※ この記事のように、まるよしの楽しい国語教育の話を満載した本、ぜひお手に取ってお読みくださいね。

 『まるごと とれたて 日本語談義 -ラジオ番組『高専ライブ』で語ることばの話-』
 桐島周 2016 勝木書店 定価1500円(税込)
 
ISBN: 978-4-906485-09-3 
 (桐島周は、まるよしのペンネームです)

 勝木書店のホームページでご注文いただくのがご便利かと思います。
  http://www.katsuki-books.jp/ (書籍検索から)
 Amazon・楽天などでは購入できません。

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6.0教育・研究」カテゴリの記事

コメント

この作品は、国語(=母国語)愛を語る物語として、昭和2年(1927)に教材として採択されて以来、途切れた時期はあるものの、昭和61年(1986)まで、優に50年間も、国語の時間に、教えられて来ました。
それが教科書から消えたことには、理由がありました。
田中克彦の「ことばと国家」(岩波新書1981)がきっかけです。
私もちょつとまとめています。
こちらには、縦書きのブログで検索してきたのでしたが、縦書きはおやめになったのでしょうか?
http://sankouan.sub.jp/
に縦書きと「最後の授業」の無くなった経緯があります。

投稿: 杉篁庵庵主 | 2006年2月17日 (金) 17時41分

●杉篁庵庵主さん、初めまして。コメントありがとうございます。

 「最後の授業」と縦書きついて、いろいろご教示いただき、感謝申し上げます。
 確かに、ある教材が教科書に採られたりそこから削られたり、あるいは物議を醸したりしたした事態は、教育学や社会学の恰好の題材になりますね。わたしも、「無人警察」(筒井康隆)や「夕焼け」(吉野弘)など、授業の題材に使っています。「最後の授業」についても少し勉強してみようか、と思っています。

 縦書きには、特にこだわっているわけではないので、この前の記事はちょっと試しにやってみただけです。入力・表示ともにエレガントにできる縦書きは、なかなかないものです。いろいろな方法をご紹介いただき、参考になります。特に、貴サイトの縦書きの表紙の美しさには感服いたしました。

投稿: まるよし | 2006年2月17日 (金) 18時58分

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