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2006年4月13日 (木)

英語だから言える

 この三月、二年間の担任を終えた。
 そのクラスの学生たちが、Thank you cardというのを英語の課題で書いたので、と言ってわたしに色画用紙を折ったカードの束を渡してくれた。わたしに対する二年間の感謝を英語で書いたメッセージが記されている。

 英語というのはある意味で便利なもので、学生のことゆえボキャブラリーも少なく、含蓄のある表現など思いもつかない。表現は自ずと直截的になる。しかし、そういうぎこちない表現の方が、何か胸に迫るものがあるから、不思議だ。
  ぱらぱらとめくると、日本語だと恥ずかしくて、照れくさくて言えないようなことも、ばんばん書いてある。あなたはすばらしい教師です。とか、私はあなたに出会えて幸せです。とか、英語でなければそんなこと改まって言わないだろう、という率直な言葉が並んでいる。なかなか心にずばっと食い込んでくるではないか。外国語に意外な効用があった。TOEICの点なんて、伸ばさない方が心が伝わるんじゃないのか(笑)。

 家に帰って、改めて一枚一枚読んでいった。
  涙が出てきた。おかしくて。
 綴りの間違いなどはもういちいち数えたてられないほどあるので、目を瞑るほかないだろう。冠詞や複数のSの脱落などもまあよかろう。
 しかし、意味上または構文上重要な単語が脱落していたり、動詞の活用がおかしかったり、構文が崩れていたりするのは、文が別の意味になってしまったりして、笑えるわけである。

 以下、直訳で例を示していこう。

親愛なるまるよし助教授、このサンキューカードを受け取れ。(後略)

please ぐらい付けろ。

私が先生に初めて会ったとき、先生は面白い教師だと思います。(後略)

 時制が合っていない。が、まあこんなようなのは序の口で、意味が分かるからまだよい。
 わたしの国語の授業に言及したものも多いが、構文が読み取れず、何が言いたいのかよく分からんのも多い。

(前略) 私は日本語の最後までとどまります。

親切にしてくれてありがとう。それで私は、日本語を学ぶこと、特別に装備された教室、そしてそれを学ぶことをこれからずっとほんとうに楽しみます。(後略)

 いやほんとこれらはよく分からなかった。何かお礼の気持ちを言おうとしてくれてるんだろうけどなあ。
 ちょっとした語法の間違いと語彙の限界で、妙な意味になるケースも。

今までありがとうございました。先生は興味深い教師です。先生から多くの知識を得ることができます。私は先生に喜んで教えます。私は先生のために決して忘れません

 forget の後に for を付けたので、目的語がなくなったな。わたしのことを忘れない、と言いたいんだね。ありがとう。

私は先生と一緒に日本語を勉強することをほんとうに楽しみました。私は先生に十分感謝することができません。全てのことがらについて、ありがとうございました。先生の全ての骨折りに、感謝します。ありがとう、それはさておき。

 分かるよ言いたいことは。私の感謝の気持ちはどんな言葉でも言い表せない、ってことなんだろうな。anyway って、文頭に来るんじゃないのかなあ。

「ありがとう」といいたいです。先生のおかげでたくさんのことがらを学びました。先生の話はとても興味深く、また私はいつも先生のもの、食べ物に期待。会えてよかったと思いました。そして「ありがとう」と言うための言葉を見つけることができません。

「ありがとう」って言えてるからそれでいいんじゃないか。

 構文がよく分からないのもある。

まるよし先生の授業は面白く、それで私はもう少しで日本語が好きになるところでした。おかしその他を常に食べてくださってありがとう。私はまるよし先生の部屋に行きます。

 惜しくもかすってる感じか。

(前略) 私の授業に先生が出席してくれてありがとう。

 いっぺん受けてみたいわ。あんたの授業を。

(前略) あなたの偉大な先生は、あなたが私たちにたくさんのスナック菓子を分けてくれたことを、あなたに感謝しています。

人間関係が把握できない。

(前略) この学校に入学した時、先生に会えてよかったです。私は先生の部屋を何度も何度も訪れ、何度も何度も爆笑しました。私はどっちかというと素敵な時間に行きました。私は、この手紙が私と一緒に先生の記憶をほったらかしにすることを望みます。

 最後の文の原文は、I wish this letter leave your memory with me. なのだが、直訳するとこうだよなあ。

先生の授業のおかげで日本語のように来ました。私は先生から多くのことをほんとうに学びました。卒業生である私は気象庁に向けて先生と一緒に。

 これは分からん。最後の文は、大きな英和をひっくり返さないと直訳ができなかった。I grad to met with you. という文だ。

(前略) 私は日本語がほんの少し分かります。私は日本語が好きになりました。先生の登場人物はとても顔立ちが美しいです(Your character is very good looking)。

 おまえはどこの国の人だ。わたしは何の仕事をする人だ。

(前略) 私は、先生が今後ずっと熱心に日本語を研究し、日本語を学ぶことを楽しむことを望みます。ありがとう、読者よ(あるいは、助教授よ、か?)

 これは英語の間違いじゃなくて、わたしのためを思って言ってくれてるんだろうが、指導教官に叱られてるみたいな気分だ。reader って、助教授って意味もあるんだね。

親愛なるまるよし助教授、ありがとうございます。先生が学校生活を楽しんでくれたおかげです。国語の授業はとても面白いものでした。私はもう一度キツネ狩りを望みます(I hope meet again)。

 meet hope の後に裸で来ている以上、動詞ではあり得ず、hope の目的語となる名詞なのだろう。名詞の意味を引いてみると、こうだった。
 最後に強烈なやつ全文を。

 二年間感謝します。先生の授業はとても興味深いものでした。それは私たちに大きな笑顔をもたらし、先生のおかげで、私は勉強に対する関心をもたせました。私は先生が今後は教えることができるようになることを欲します(I wish you can teach from now)。でも、それは無理です(But it can't)。それでどうか今後私たちに助力してください。会えてよかったです。ありがとう。

 interest は受け身で使うのよ。その後は、これからも先生に担任してほしいですが、そういうわけにはいきません と言いたかったわけだね。ありがとう。

  いや、誤解しないでほしいが、わたしは学生たちを笑いものにしようとしているのではない。彼らはこの短い文章を書くのに四苦八苦だったはずだ。それを思うといじらしいし、学生かわいさが募る。年度末、留年を避けるために必死で課題を片づける学生も少なくなかった。その忙しい時間を割いて、わたしのためにこんな文章を書いてくれたのだ。嬉しいことこのうえない。
 この二年、クラスのこの学生たちがどれだけわたしの支えになってくれたことか。

 わたしからも、学生たちにありがとう。君たちはすばらしい教え子です。君たちと出会えてわたしは幸せです。

※ このカテゴリーの記事のように、まるよしの楽しい日本語の話を満載した本、ぜひお手に取ってお読みくださいね。

 『まるごと とれたて 日本語談義 -ラジオ番組『高専ライブ』で語ることばの話-』
 桐島周 2016 勝木書店 定価1500円(税込)
 
ISBN: 978-4-906485-09-3 
 (桐島周は、まるよしのペンネームです)

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  http://www.katsuki-books.jp/ (書籍検索から)
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