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2006年6月29日 (木)

書籍紹介『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』

 そんなことってあるんだ! という実話を集めた本がこの『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』である。

 著者のポール・オースターがラジオ番組で募り、朗読して紹介した物語が収録されていく。これらは聴取者の体験した実話である。そんな「物語の博物館」の類を作ってみよう、というのがそもそもの狙いだったわけである。

 

 なるほど、いろんな意味で「感動」できる話が並んでいる。そして、人はこういう話を「物語」と捉えるんだな、という、物語スキーマを掬い取ることもできそうである。
 話の種類はいろいろである。要約していくつかご紹介。まずは単なる「ちょっといい話」の類。

 家の商売が失敗し、窮乏した生活をしていた頃のクリスマス、家族は誰もプレゼントなどを買う余裕がなかった。そのはずなのに、クリスマスの朝、ツリーの下にプレゼントが積まれていた。家族が先を争って自分宛のプレゼントを開けてみると、それらは全て、以前失くしたと思っていた、各々がとても大切にしていた物だった。家族たちは諦めていたものが戻ってきた喜びに震えた。これらは実は末の弟がこの日のために隠しておいた物だったのだ。(「ファミリー・クリスマス」)

確率を超えた偶然のいたずらというべき話。

 第一次大戦の最中、独軍のパイロットが仏軍に機を攻撃され、何とか国境を越えてスイス領内に入って、娘らが干し草づくりに励んでいる畑に不時着して九死に一生を得、畑の人々に救出された。このパイロットは後に学者となり、アメリカの大学の教授に就任した。停年も間近な頃になり、ゼミの学生たちとキャンプファイアをした時、教授は不時着の体験を話しはじめた。すると、途中まで聴いたところで学生の一人が、教授に代わって続きを話しはじめるではないか。その内容は細部に至るまで教授の記憶と同じであった。干し草を作っていた娘の一人が、その学生の母だったのである。(「五十年後」)

そして人智を凌駕した不思議な現象。

 サウスジャージーに住む男性が脳内出血で倒れた。瀕死の男性は病院で、意識レベルを計るための医者のお決まりの質問、「自分の年齢」「今年は何年か」「今の大統領」について、朦朧としながらも正確に答えた。しかし、最後の質問「ここはどこか」については「ハリスバーグ」と答えたのだ。彼はハリスバーグに、住んでいたことはもちろん、何のゆかりもない、見ず知らずの土地である。やがて彼は意識を失い、脳死の宣告を受けた。その後家族は臓器移植に同意した(米国では本人の意志がなくても、家族の同意があれば臓器提供できるらしい)。彼の臓器はそれぞれ待っている患者の元へ届けられた。後で家族が知らされたところでは、彼の心臓はハリスバーグに住む男性に移植された、という。(「ハリスバーグ」)

 他にも、素直に笑える話などもあるが、こういった話が長短180編ほど紹介されているのである。どこかで聞いたようなパターンも多いが、それはあくまでパターンであって、よくある信じがたい話を紹介するようなTV番組の再現VTRとかで見たことのある話そのまま、というのはない(今後この本を土台にして作られたVTRなどが見られるようになるのだろう)。

 惜しいのは、文章が冗長で読む意欲をそがれることである。元々がラジオ番組への素人の投稿であり、ほぼそのままの文章を収録しているらしい。しかもそれを訳しているから、日本語の文章としてはぎくしゃくしていて、こういう話なら、もっと短く半分程度の字数でまとめられるのでは、と思わされて少々苛々する。
 だから、何度も読み返そうという気にはあまりならないが、前述のような興味もあり、もしかしたら教材に使えるものもあるかもしれない。それで、本棚には置いておこうと思う。

(下の画像は楽天ブックスの同書ページにリンクします。購入もできます)

ナショナル・ストーリー・プロジェクト

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