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2006年8月22日 (火)

ヲ格とニ格がまぁ~るく融合

 動詞がとるいわゆる 賓格補語 について、最近気になるのが、ニ格 ヲ格 の混乱というか境界線の曖昧さである。最近というのは、わたしが特に関心をひかれだしたのが最近なのであって、現象自体は昔からあることである。例えば、からかうという動詞は、現在は 太郎からかう のように ヲ格補語 をとるのが普通であるが、明治時代頃は 太郎からかう と言ったらしい。
 賓格補語 における ヲ格 ニ格 にはどのような意味の違いがあるのだろう。

(1) 列車が駅通過する
(2) 列車が駅停車する

 端的に言うと、この違いである。通過する は駅の側を通っていくだけで、駅の本質とは関わらない。それに対して、停車する はそこで客の乗降を扱い、駅の本質的機能に関わる。つまり、対象との物理的な位置関係の変化にとどまる時に ヲ格、対象の内面に食い込み何らかの内面的な変化をもたらすときに ニ格 をとることになる。
 太郎からかうのほうが、本気で太郎をいじっている感じがする。太郎からかう では、太郎が物扱いされているようで、不健全ではないか。最近のいじめなどは ヲ格 の方が似合っているのかもしれない。しかし、そんなのかなり微妙なニュアンスの違いであって、意味を伝えるのには、どっちでもいいようなものではある。
 行為の対象を表す格だから、交替が比較的容易に起きるのは無理からぬ。
 現在、二格 ヲ格 どちらでも正当に使えそうな動詞が 怒る あたりだろうか。

(3) 太郎は次郎の無礼を怒った。
(4) 太郎は次郎の無礼に怒った。

 次郎の無礼 怒る 賓格 であることは確かであるが、若干ニュアンスが異なる。わたしは(4)の方が若干怒りの度合いが大きいように思うが、どうだろうか。(3)は一歩退いて「次郎の無礼」を対象化しているような感じだ。

 ここが今一番揺れをみせている動詞が 訪れる ではないかと思う。ニュースを聞いていてもあれ、と引っかかることが多いのだ。

(5) 修学旅行で石垣島訪れていた高校生が波に攫われて行方不明になっています。
(6) 橋本元総理の自宅には、多数の政治家が訪れ…
 (いずれもTVニュースから聴取・強調引用者・以下同じ) 

 (5)は明らかにおかしいのだが、最近はよく聞く。訪れる 賓格補語 ヲ格 をとるのが標準であろう。従って、石垣島訪れていた… が正しい。
 (6)も同様ながら、で主題化されているために格関係がぼやけているので、そのまま聞き流してしまいそうだ。が、よく考えるとおかしい。橋本元総理の自宅には、多数の政治家が集まっており… とでも続くのであれば、正しいのであるが、意味は同じようなものだから、違和感を感じさせないのだろうか。
 試しに、(5)も(4)と同じように ニ格 賓格補語 を主題化して文頭に出してやると、

(7) 石垣島は、たくさんの高校生が修学旅行で訪れており… 

となる。(5)に比べると許容度が高くなったのではなかろうか。
 訪れるは、早朝に訪れる・墓参に訪れる のように、時や目的を表す修飾語としての ニ格 は自然にとれるため、賓格補語 にも ニ格 をとることに抵抗が少ない、という面もあるのだろう。
 類義語の 訪ねる でも同じことのようだ。

(8) 「彩香、来ていませんか」
    そう言って鈴香が私の自宅訪ねてきたのは9日夜のことです。

 (『週刊新潮』2006年7月27日号 米山勝弘「豪憲は「秋田県警」に殺された!」P36)

 大変な思いをされている方の文章の揚足をとって申し訳ないが、これも大変に微妙なところだ。鈴香が私を自宅に訪ねてきた…・鈴香が私を訪ねて自宅に来た… もしくは 鈴香が自宅の私に尋ねてきた… なら文句はないのだが、(8)は若干許容度が落ちる。
 次の(9)もまた、本来 ヲ格 であったはずが、ニ格 に替わっている他の動詞の例だ。

(9) 地面叩きつける大粒の雨。
 (NHKニュースの映像ナレーションから聴取)

 転落事故などで 地面に叩きつけられた なんていう文言を読み慣れているがゆえの誤用だろうか。何かを地面に叩きつけるのならいいが、(9)の場合は、地面そのものが動作の対象だ。

(10) 近所の人のプライドを傷つけるような言動慎んでください。

 ああ、これはどこで採取したか失念した。これは、厳に慎んでください という慣用的な言い回しがあることから誤用が誘発されたのだろうか。

 さて、ニ格 ヲ格 の守備範囲を侵蝕しているのか、と思ったら、逆に ニ格 であるべきものが ヲ格 に替わっている例も多い。一方向に向かっている現象ではないようだ。
 学生の作文に見うけた表現に、 

(11) (高専入試の)筆記試験合格した 

 というのがある。筆記試験に合格した 筆記試験で高専に合格した なら分かるのだが、これも揺れはじめているのか。倍率も下がってきたし、高専の学力入試なんて、がっぷり取り組むものではなく、単なる通過点と化しているのか。この 合格する という動詞、賓格 ヲ格 化はしずしず進んでいるようで、

(12) みんな頑張って、志望校合格するぞー

 というドラマの台詞も聞いた(『ダンドリ』第5回 脚本:横内謙介 演出:小林義則 平成18年8月8日放送)。

(13) 小学生が問題解答
 (『週刊新潮』2006年7月13日号 P117 連載「見ずにすませるワイドショー」連載207 「見てよと言われても」より。TBSのクイズ番組『クイズ! 日本語王』で表示されたテロップのおかしな日本語として紹介)
(14) 自宅放火して母親と妹を死なせ、逃亡した少年…
 (TVニュースから聴取)

 も、意味としては通じる。

 こうした例を見ていると、だんだん何が標準か分からなくなってくる。こだわらずに揺れは揺れとして鷹揚に認めればいいのかもしれない。この問題は、動詞の自他とも絡んでくるので、文法的にはけっこう奥深かったりもするのだが。

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