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2006年12月17日 (日)

気まぐれ列車て何ですねん。

 気まぐれ列車 というのは、レールウェイライター種村直樹氏の紀行文章に付けられるタイトルに含まれることの多い語句、つまりキャッチフレーズである。
 時刻表や地図を片手に旅をし、大まかな予定は立てるものの、現地で面白そうな場所や人との出会いがあればどんどん寄り道して行程を変更する。こういう、人当たりよく行動力がある種村氏の旅行スタイルに、ぴったりの語句である。
 わたしなど、事前に極力美しくまとまったスケジュールを立て、それを尊重したい質であり、旅先で急に予定を変更するのは、突発事態への対応の他、それを使えば自分の立てたスケジュールよりも美的価値の増すスケジュールになるような交通手段を現地で発見した場合だけだ。だから、種村氏の旅には憧れるけれど、真似はできない。

 この 気まぐれ列車 は、商標登録しているかどうかは知らないが、種村氏の紀行文章を集めた単行本のうち、かなりのもののタイトルにも含まれている。このタイトルの付け方には一つの特徴がある。三冊めあたりから確立した原則だと思われるが、気まぐれ列車 の後に一文字の平仮名を挟んで何らかの語につなげる、そしてその平仮名は毎回違ったものにする、というものだ。

 当然、単行本が増えていくほど使える仮名の残りが少なくなる。その苦しさは、種村氏自身「あとがき」で吐露していたりする。実際ちょっと強引かなというタイトルも出てきて、とうとう最新刊では「毎回違った」が崩れた。こうなると、わたしは専門柄、他に案はないのか、どれだけの可能性があるのだろう、と探ってみたくなるわけである。

 まず、これまでに出ている「気まぐれ列車」を含むタイトルを刊行順に並べてみる。発行元はいずれも実業之日本社、もちろん太字で強調したのはわたしである。

『気まぐれ列車出発進行』(昭56)
『気まぐれ列車時刻表』(昭59)
『気まぐれ列車各駅停車』(昭61)
『気まぐれ列車ご招待』(平元)
『気まぐれ列車途中下車』(平3)
『気まぐれ列車大増発』(平4)
『気まぐれ列車汽車旅ゲーム』(平6)
『気まぐれ列車大活躍』(平8)
『気まぐれ列車僕の旅 九州・南西諸島渡り鳥』(平12)
気まぐれ列車行こう瀬戸内・四国スローにお遍路』(平17)

 と、最新刊でが二回目の登場になった。これは、種切れというよりは、病気からの復帰を機に、初心に戻る、という意味が込められているのかもしれない。
 まだ出ていなくて使える文字は他にないものか。既に使われている字をみると、格助詞が多い。格助詞 は体言に下接するのだから当然だ。格助詞 は「鬼が部屋からノヨリと出」と覚えた十語だが、一文字のもののうちまだ使っていないのが二つもある。 である。ただ、これは仮名があればいいというものではなく、その下にうまく語句が続いて本のタイトルにならねばならない。ちょっと作ってみる。

気まぐれ列車(いらっしゃ~い)

 桂三枝さんになってしまった。にご招待 とちょっと感じが似てしまう。気まぐれ列車向かって なんていうと前向きになるが、これも の方がいいかな。

気まぐれ列車(知ってるかい)

 ちょっと軽いかな。ご存じですか でもいいが、今度は押しつけがましい。
  係助詞(諸説あるが一応)だが、現代語で一文字の 係助詞 はこの二つだけだ(よね?)から、これで打ち止め。
 あれ? 断定の助動詞 だぞ。種村氏は確か一文字の「助詞」と表現していたと思うが、助詞に限る必要はないらしい。他の種類の助詞はもちろんOKなのだろう。
 となれば、終助詞 シリーズでいってみよう。

気まぐれ列車(あの影は)

 歌詞のようでつかみどころがない。

気まぐれ列車(人生は)

 今度はは歌のタイトルっぽいが、種村氏としては気取りすぎかもしれない。

気まぐれ列車(相変わらず)

 種村氏の奥さんなら言うかもしれないが、本のタイトルにはならない。

気まぐれ列車(永遠に・さようなら)

 これは種村氏自身も挙げている例なのだが、どう考えてもこれが最後のタイトルになるので、おいそれとは使えないわけである。

 なかなかいいのが見つからないが、こうなったら、直音だけでなく拗音にも触手を伸ばす。

気まぐれ列車じゃ(文句あるんかい)

 いやこれは柄が悪いから、後ろを換える。

気まぐれ列車じゃ(ないけれど)

 だったら何なんだ?

 すっかり行き詰まった。もう共通語の規範的な文章語で考えるとここらが限界である。もう五十音順に洗い出していくと、

気まぐれ列車(発車しまあす) 本来長音だろう。
気まぐれ列車・気まぐれ列車 方言なら  と同じ機能の助詞だが。
気まぐれ列車・気まぐれ列車しょ 最近の若者なら。
気まぐれ列車(旅鴉) 演歌だな。でも 問題な日本語 だ。
気まぐれ列車(人間は) 分かったか、鉄矢。
気まぐれ列車(乗りますけん) 九州編に採用すればよかった。
気まぐれ列車にゃ(かなわない) キングコング?
気まぐれ列車じょ ハタ坊?

 こうみてくると、これはなかなか難しい課題であることが分かる。専門の立場から種村氏に進言できればよかったが、それには至らないようだ。

※ このカテゴリーの記事のように、まるよしの楽しい日本語の話を満載した本、ぜひお手に取ってお読みくださいね。

 『まるごと とれたて 日本語談義 -ラジオ番組『高専ライブ』で語ることばの話-』
 桐島周 2016 勝木書店 定価1500円(税込)
 
ISBN: 978-4-906485-09-3 
 (桐島周は、まるよしのペンネームです)

 勝木書店のホームページでご注文いただくのがご便利かと思います。
  http://www.katsuki-books.jp/ (書籍検索から)
 Amazon・楽天などでは購入できません。

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コメント

興味ある鉄道の話題かと思えば、まるよしさんの面白言葉遊びでしたね。楽しく読ませてもらいました。私は国語は苦手で詳しいことはわかりませんが、助詞より女子の方が好きなのは確かです。

投稿: プリンゼ幸夫 | 2006年12月19日 (火) 16時15分

> 助詞より女子の方が好きなのは確かです。

 無理矢理ですねえ(笑)。
 ことばと見れば遊んでやりたい質なので、今後も面白いことばをとり上げていきます。

投稿: まるよし | 2006年12月19日 (火) 18時44分

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