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2007年2月17日 (土)

敬語の新分類

 文化審議会の敬語の新分類がちょっと話題になっているようだ。
 以前にも記事でとり上げたとおり、謙譲語 の説明が現代語にそぐわず、狭すぎるため、それをさらに二分する。丁寧語 のうち、上品さをあらわすような用法を分離する。それで五分類になるわけである。この五分類は妥当であると思う。
 ただ、ネーミングがちょっとどうかと思うのである。学校で教育しないといけないのだから、小中学生にも理解しやすい言葉で名づける必要がある。

 謙譲語 を二分したものを、謙譲語I 謙譲語II にする、というのは、いかにも研究者らしい発想のネーミングだが、この名前では二つの違いがどこにあるのか、分からない。謙譲語II 丁重語 とも呼ばれる。これは宮地裕氏が提唱してきた分類と用語であり、妥当なものである。しかし、謙譲語 の一種が 丁重語 というのでは、分かりにくい。「丁」の字が入っているからには、丁寧語 の同類だと思ってしまう。
 丁寧語 から分離した 美化語 も、同じ問題があるが、どうも 美化語 にまでなると、もはや敬語の一種ではないのではないか、と思う(そういう考え方も従来からある)。これは敬語と別立てにした方がいいだろう。

 わたしなりにネーミングを施した分類を示してみよう。日本文化への回帰の風潮を採り入れ、和語で名づけてみることにする。

1 待遇語(人間関係をかたちづくり反映する表現)
1.1 上げ下げ敬語(目上と目下の人間関係をかたちづくり反映する敬語)
1.1.1 もち上げ敬語(目上の人をもち上げることで敬う敬語)
1.1.1.1 見上げ敬語
 目上の人の行為や属性をじっと下から見上げつつ表現する敬語である。

専務がチョコレートを私に分けてくださいました。
先生は笑顔が素敵ないらっしゃいますね。
先輩が山田君に過去問を渡しておられます。
お客様が買い上げになったのは亀の子束子ですね。
この切符で特急自由席に乗車になれます。

1.1.1.2 さし上げ敬語
 目上の人に向かって目下の者から何か働きかけることを表現する敬語である。

君は来週社長の家に引っ越しの手伝いにうかがうように。
明日教授をトランポリンに誘いようと思います。
いつか先輩を介護してさし上げるのが私の夢です。
お客様のお荷物は後ほどベルボーイが部屋まで運びます。
田中先生のことはあいにく存じ上げません。

1.1.2 へり下り敬語
 自分の側の人や行為を低めることで、謙遜の気持ちをあらわす敬語である。

では、アンコールに応えまして最後にもう八曲歌わせていただきます。
先生が料理してくださったフグの活け造りを頂戴しました。
一日も早く進級が決まるよう、私どもめも陰ながら祈っております。
円周率がおよそ3であったことは、不勉強にして存じませんでした。
社のが一丸となって、補償に努めてまいります。

1.2 なめらか敬語
 現に話している、文章を読んでいる相手に丁寧に語りかけることで、コミュニケーションをスムーズにする敬語である。

では授業を始めます。教科書を開けなさい
こちらが35カラットのダイヤモンドのレプリカでございます
今日はずいぶん暑いですね。

2 品格語(話したり書いたりする言葉自体に品格を与える語)
2.1 上品語

が見えたわ。
飯を食べましょう。
そちらのお手洗いお小水を取ってきてください。

 こんなとこでどうかと思っているのだが。
 なお、これらはプラスの感情を表す方向だけを例に挙げたものであり、それぞれの裏返しのマイナス側の表現分類も当然あるが、やはりプラスの方がメジャーな表現になろう。マイナスの方も一応例文を並べておく。

1.1.1.-1. おのれ、裏切りやがったな。
1.1.1.-2. 百万円くらいあいつにくれてやるよ。
1.1.-2. 国松さまお通りだい。
(こんなのしか思いつかない…笑)
1.-2.何しとんのじゃ

※ このカテゴリーの記事のように、まるよしの楽しい日本語の話を満載した本、ぜひお手に取ってお読みくださいね。

 『まるごと とれたて 日本語談義 -ラジオ番組『高専ライブ』で語ることばの話-』
 桐島周 2016 勝木書店 定価1500円(税込)
 
ISBN: 978-4-906485-09-3 
 (桐島周は、まるよしのペンネームです)

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5.6  言葉の動向」カテゴリの記事

コメント

お久しぶり、まるよしさん。本業が忙しくてなかなかお邪魔できませんでした。無給労働時間が長いのが教育業の難点ね(笑

 日本語業界では敬語は「待遇表現」と呼び、対者敬語と素材敬語に二分し、前者を丁寧語と丁重語、後者を尊敬語と謙譲語、それに美化語を加えて大きく五つに分類しています。

 外国の方への日本語指導では、たいてい初級テキストの最後の課に「敬語」があって、まずは尊敬語つづいて謙譲語の勉強をします。「あいうえお」ゼロスタートの方でも、9ヶ月あたりでこの表現を学ぶんですよ。
 最初は相手が誰であっても失礼のないように「丁寧語(デス・マス体)」で勉強します。しばらくすると活用のために「普通体」を学びます。研修生テキストでは指示に従えるように「命令形・禁止形」にも力が注がれています。でも言っちゃだめよとも教えるんですね(笑 「こっちへいらっしゃい」「これをご覧」「召し上がれ」まではやりませんが。

 尊敬語の動詞ですが、「くださる」は受給表現の別の課で学びます。「おっしゃる」等の特別な形、「お~になる(+ご<動作名詞>になる)」、される等の尊敬形の大きく三つにわけられています。
 「おられる」は中級で取り扱います。丁重語の「おります」の尊敬形?となるので、またこの表現はどうも方言色が強いようなので、初級では省かれています。テキストによっては「いらっしゃる」のほか「お見え」「お出で」「お越し」の表現も出てきます。そんな時は「いらっしゃる」を使用表現、その他は理解表現として負担を減らします。

  日本に来られて嬉しいです。
  テスト勉強をしている時に友達に来られて困りました。
  山田さんならもう来られていますよ。

 まとめではこういった判別練習もしなければなりませんし、 「ご乗車になれる」は「ご乗車になる」の可能表現ですよね。「昨夜はよくお休みになれました」か、なんて、「寝ます→お休みになります」と必死に覚えているそばで「寝られます→お休みになれます」とは追い討ちをかける表現… もう大変です。
 これらをなんとか覚えたら、謙譲表現へうつるわけですが、「お~する/いたす」は先の「お~になる」とミックスされ「お~にする」や「お~なる」とごちゃごちゃになってしまう学習者も出てきます。

 日本語がややこしければややこしいぶん、わが国の文化の高尚さを再認識します。 大事なのは、場面や対人関係に即した言語使用ができるようになることで、モチベーションを高めて、教室活動でも現実に近い場面設定をして発話しながら覚えていくことでしょうかねぇ…。
 そうそう、もう何年も前のことになりますが中級クラスの学習者に、
「「ぶっ殺してやる」の「ぶっ殺す」と「やる」は何ですか」
と漫画に出てきた表現を聞かれたことがありますよ。まさにテキストには出てこない不利益の授受表現ですよね。
 彼らは色々気づかせてくれますよ。

 長くなってごめんなさいね。

投稿: KAZUKO | 2007年3月 4日 (日) 12時54分

 文法に関しては、日本語教育の方が、分かりやすい用語法をとっていることが多いので、お越しをお待ちしていました(笑)。闇残業の多さはお互いさまです。
 やっぱり、素直に分類していくとそうなりますよね。国語教育で扱うときは、古典文法との整合性も考えないといけないので、ちょっと厄介です。
 母語話者としては、いちいち文法を意識して発話するわけではないので、かえって外国人の発想に気づかされますよね。

※上のコメントが、ちょっと分かりにくい表記になっていたので、改行位置と句読法を多少変えさせていただきました。もし、意図と違う文章になっているようなら、言ってくださいね。 

投稿: まるよし | 2007年3月 4日 (日) 18時05分

こんにちは。
少しでも行数を短縮しようと思って詰めたのですが…。読みやすさを第一にしていただいて感謝です。
コメントなのに、まるよし本文に並ぶほどのスペースを取ってしまい恥ずかしいですわ。
ついでに、漫画に出てきた、と「く」を「き」に修正しておいてくださいませ。

投稿: KAZUKO | 2007年3月 5日 (月) 12時11分

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