肩までER
この前の黄金連休後半は、Super! drama TVでわたしの大好きな米国ドラマ『ER』が正午から21時まで一日九時間の集中放送を行ったので、それをずっと観ていた。九時間もテレビの前にずっといるわけにはいかないので、パーフェクトに観つづけたわけではないが、八割方であろうか。
3日~6日で第III・IVシーズンが全て放送された。一時間番組だが、途中のCMがカットされているので、九時間で十一話の放送で、二日で一シーズン全部観られる。
この種の米国の職場ものドラマは、日本のそれにみられない手法でリアリティの追求をしている。
放送の一回分が劇中のエピソードの完結と全く対応していない。複数のエピソードが並行して展開する。一応ドラマ全体の主人公らしき人物はいるが、エピソードによって主人公となる人物が異なる。しかも、同じ人物が同時に複数のエピソードに関与する。そして、一つ一つのエピソードはきれいな解決をみないまま立ち消えていくもの、主人公が何の努力もしないのに偶然に好ましい解決をみるもの、といわゆる物語性を超越した(これは改めて論じたい)エピソード群が入り乱れる。
あるいは、これを逆手にとり、並行する二つのエピソードが無関係に起きているように初めは思わせておいて、実は因果関係があった、なんていうパターンもある。こういうのは、一話完結型の日本のドラマではとれない手法だ。だから、何話観ても次を観たくなるわけで、こういう集中放送というやり方に相応しいドラマである。NHKのBS2でも、第Iシーズン全話を正一日かけて放送したことがあり、わたしはそれでハマった。
ともあれこうしたエピソードの属性や配置は、現実世界のそれに非常に近いわけであり、しかもテレビの連続ドラマだから可能なリアリティの表現である。そういうところがわたしは好きだ。
第III・IVシーズンあたりは、そのリアリティの真骨頂が現れているところだと思う。暫く前の記事でも紹介したように、第IVシーズンの初回は生放送されたし、この頃の『ER』は何といっても医療シーンにかなりのウェイトが割かれていたのである。
レギュラー出演者も、第IIIシーズンの途中でスーザン(スーザン=ルイス先生 byシェリー=ストリングフィールドさん)が抜ける他は、初期メンバーが揃っているし、その後も『ER』の顔となるケリー(ケリー=ウィーバー先生 byローラ=イネスさん)も既にいる。そして、このあと初期メンバーとの絡みやキャラクターのユニークさで大きな存在感を示すことになる、ロケットロマノ(ロバート=ロマノ先生 byポール=マクレーンさん)とエリザベス(エリザベス=コーデイ先生 byアレックス=キングストンさん)の上司・部下コンビも登場してくるので、なかなか面白い時期だ。
映画『スター・ウォーズ』シリーズで知られるユアン=マクレガーさんがゲスト出演した、コンビニ強盗事件にキャロル(キャロル=ハサウェイ婦長 byジュリアナ=マルグリーズさん)が巻き込まれる回も第IIIシーズンであり、わたしも大好きなエピソードだが、久しぶりに観た。コンビニに軟禁された状態のキャロルが、銃で撃たれた瀕死の怪我人たちを、智恵を絞りに絞って棚のさまざまな商品を医療器具や医薬品の代用に活かし、犯人や人質たちに指示しながら、てきぱきと手当てするさまが痛快である。この回は珍しく一話完結のエピソードだが、本筋の病院でのエピソード群は、もちろんこの前の回からこの次の回へと連続している。
マーク(マーク=グリーン先生 byアンソニー=エドワーズさん)は第IIIシーズンの後半で暴漢に襲われて大怪我をし、心にも傷を負う。この悩み方が、今観ると身につまされて辛いものもある。このエピソードも、明確な犯人像と動機が明らかにされぬままにうやむやになり、単なる通り魔的犯行らしいということしか分からず、怒りの持って行き場がないマークの深い葛藤も、次シーズンに持ち越しとなる。印象深く、考えさせられるエピソードではあるが、医療現場の事情から社会問題へとドラマの視点がシフトしていくきっかけにもなった話なので、少々複雑な思いで観た。マークはオールロケの回でダグ(ダグラス=ロス先生 byジョージ=クルーニーさん)とともに帰郷し、葛藤を一応克服するわけであり、それはまあ新鮮ではあるのだが、あまりたびたびオールロケをやってほしくない。
現在、『ER』は本国では第XIIIシーズンまで制作されているが、話は病院を離れて過去や国外に飛んだりすることが多くなり、元々のこのドラマの醍醐味が薄れている。レギュラーの医師陣も初期とはすっかり入れ替わっている。それで、最近はあんまり観なくなったぶん、昔の『ER』を嬉しく懐かしく観た次第。
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