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2007年6月29日 (金)

学会のことば 下

 本題に入る前に、寄り道。
 以前の「学会のマナー」の記事を読んだ方から、意見をいただいた。だいたい以下のように要約・整理できよう。

(1)学会に全部参加するのは、本来の業務を休まねばならず、無理である。
(2)共同発表者が会場にいないことの何が問題なのか。代表して登壇する者が全てに対応すればそれでいい。
(3)研究とは多くの人が関わらねばできないものだし、一人の研究者が多くの研究に同時に関わっている。関わった研究の発表にいちいち全部つきあっていられない。
(4)後でメールなどの方法で意見をもらうことはできるのだから、現場で情報交換しなくてもいい。

 全てにお応えしよう。

(1) 学会出席は、研究者として「本来の業務」ではないのでしょうか。むしろ、職場での日常の業務は学会出席や論文執筆という、自分の研究を世に問うハレの舞台に備えて行っているものでしょう。高専のように、研究と教育とが相半ばする職場であれば、担任の学生に一大事あった時にそちらを優先する、ということには一定の理解はします。しかし、大学の教員に、自分の職場での仕事を優先する必要はないはずです。

(2) 「共同発表」という文字をよくよく見つめて、この言葉の意味を噛みしめてみてください。「それでいい」と考えること自体、日本語及び一般世間の常識から遠く外れてしまっていることを自覚するべきです。発表の場に行けないとはじめから分かっているのなら、発表者として名を連ねるべきではないと思います。日本語ではそういうのを「発表者」と言いません。

(3) わたしの領域でも、一つの研究発表をなすには多くの方の智恵と手を借りることは言うまでもありません。わたしだってたくさんの研究発表のお手伝いをしてきました。しかし、自分でアイデアを創出し自分が主となって進めている研究以外に自分の名を出すなどということは、決してありません。

(4) それならそもそも学会を開く必要がありません。各研究者が自分の彩図で論文を公開しておけばそれでいいではありませんか(まあ、これから学会もそういうかたちになるのかもしれません。インパクみたいな感じ)。研究者が一堂に会することの意味はいずこにあるのでしょうか。

 やっと本題である。今回は学会に関する用語法。
 理工系の学会の用語法にも、わたしからみると驚くべきものがある。

 以前、高専生から、学会で「講演」したとか「座長」を務めたとかいう報告を聞いて、仰天したことがある。わたしでも学会講演などしたことがないし、学会の座長なんて何か分からず、学会全体を仕切るような役割をイメージしたからである。
 しかし、よくよく聞いてみると、「講演」というのは単なる学会発表のことであり、「座長」というのは単なる分科会の司会進行のことだという。ならそう言えばいいのに、なんで言葉で背伸びするんだろうか。何か大したことを成し遂げたように聞こえるではないか。わたしの感覚では、学会「講演」とは功成り名を遂げた学者が三~四桁の人数の学会参加者ほぼ全員を前に少なくとも一時間一人で話すことを言うし、「座長」などと聞いたら大衆演劇か新喜劇が浮かぶ。語意のデノミネーションが起きている。

 こういうのも、やはり理工系において、目に見える分かりやすい業績を求める傾向が近年強まっていることによるのだろうか。とにかく何でもいいから発表したとか論文を書いたとかいうアリバイが欲しい人が増えてきているのではないか(論文についてはまた別に論じよう)。だから何かにつけ大仰に表現しようとするのだろうか。
 それが徐々に文系にも影響してきているようだが、文系なんて分かりやすいことも分かりにくくこね回すのが商売なのだから(笑)、理工系に追随しなくてもよろしかろう。わたしは、学会発表に関するこの前から語ってきたような態度や傾向には、「はい、これで業績一件あがり」という意識が透けてみえ、そんなものを聴かされるのは不快だ、と言っているわけである。

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 『まるごと とれたて 日本語談義 -ラジオ番組『高専ライブ』で語ることばの話-』
 桐島周 2016 勝木書店 定価1500円(税込)
 
ISBN: 978-4-906485-09-3 
 (桐島周は、まるよしのペンネームです)

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