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2007年6月20日 (水)

学会のことば 上

この記事は一応「学会のマナー」から続いているが、あんまり話題は一致していないかもしれない。 

 前回の記事では、畑違いの学会に参加した時に文化の違いに戸惑った話をしたが、今回は、わたしのホームグラウンドである国語国文関係の学会に参加した時の話である。

 これまで、国語国文の学会では、言葉に首を傾げたという経験があまりなかった。さすがにことばを専門に扱う研究者の集まりなので、言葉のすみずみまで神経が行き届いている。おかしな発音や言葉遣いをすると途端につっこまれるし、慎重になる。印刷物なども校正が完璧で、間違った用語法や文のねじれなど、絶えて見ることがなかった。当然といえばそうだが。

 わたしの最も主な所属となる比較的小規模な学会では、人数が少ないからということもあるが、全国大会の懇親会では、何と参加者全員がスピーチするのが通例になっている。そんなことをしては、だれてしまうとお思いであろうが。

 心配は要らない。ことばの表現の専門家ばっかりなので、皆スピーチが上手いのである。若い大学院生からリタイアした顧問まで、立場と個性を弁えて自分の役回りを悟り、二~三分に要領よくまとまったかたちで話す。一人だらだらと喋りつづける会員などいない。何十人ものスピーチを聴いていても少しも飽きないし、みんなちゃんと聴いている。聴き手の興味を惹きそうな話題を皆が用意して、いくつかの候補のなかから、その年のムードやメンバー構成、前のスピーチからの流れなどを考えて話題を選ぶわけである。そろそろ笑いがほしいな、と思ったらてきめんにジョークが出る。もちろん、おかしな日本語などは一切ないので耳にスムーズである。心地よい。

 ところが、こういう傾向も、微妙な変化を見せはじめているのが最近である。

 先日参加した国語国文の学会では、三十周年 という語が一つのキーワードとしていろいろな人の口から盛んに出たのだが、さんじっしゅうねん と正しく発音している人が半分に満たなかった。日本語の専門家であるはずが、さんじゅっしゅうねん と誤った発音をしている人が多いのは困ったことだ。もっとも、これはまさに変化の途上にあると思われる発音なので、中には専門家としてのポリシーで、割り切ってイマ風の さんじゅっしゅうねん という発音を敢えてしている、という人も確かにおり、そういう意識をもって発音しているかどうかは、聴いていれば分かるものである。漫然と俗な発音に従っている人も少なくなかったのが嘆かわしい。

 もっと驚いたのは、受付である。
 わたしが予稿集を求めると、1500円だというので、わたしは一万円札を出した。すると相手は何と、
一万円からよろしかったでしょうか
と言う。
 吹き出しそうになるのを堪えながら頷くと、
では、一万円からお預かりいたします
とおしいただく。会場校の学生らしい若い女の子である。黒のスーツにひっつめ髪でしゃきっとキメている。
まず大きい方、八千円お返しいたします
と札を渡し、
残り細かい方、五百円でございます
と五百円玉をわたしの手を両手で包み込むようにしながら渡すと、
ありがとうございました
深々とお辞儀。
 あの、君ね。コンビニでバイトする時と学会の受付する時と、おんなじ言語表現では国文の学生の名が廃りますよ。
 かと思えば、案内係の腕章つけた学生は、
間もなくシンポジウムの方に入らせていただきますので、どうぞ会場の方にお入りください
などと呼びかけている。
 ここまでくると、もしかするとこれは会場校の演出なのだろうか、と勘繰ってしまう。これほど世間でうるさく取り沙汰されている今どきの 問題な日本語 ばかりを敢えて学生に言わせて、懇親会の酒の肴を提供しているのかもしれない。実際、懇親会の恰好の話題になったに決まっている。わたしは懇親会には出席しなかったが。もしかしたら、会場での間違った言葉遣いを全て指摘した人には何らかの賞品が出る、という趣向が懇親会にあったりしたのであろうか。出席してみればよかった。

※ このカテゴリーの記事のように、まるよしの楽しい日本語の話を満載した本、ぜひお手に取ってお読みくださいね。

 『まるごと とれたて 日本語談義 -ラジオ番組『高専ライブ』で語ることばの話-』
 桐島周 2016 勝木書店 定価1500円(税込)
 
ISBN: 978-4-906485-09-3 
 (桐島周は、まるよしのペンネームです)

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