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2007年8月19日 (日)

『ナッちゃん』にみるチエの面影

 元々は∀∀さんに紹介してもらったものだが、一部マニアの間で熱狂的人気を誇る漫画『ナッちゃん』を研究室に全巻揃えている。機械工学科の担任をしていたこともあって、学生に読ませたかったからでもある。この漫画を副テキストに使っている工業関係の大学や高校もあると聞く。何よりもわたしが読んで面白い。
 工学のことは分からないけれど、女だてらに鉄工所を経営するナッちゃんが、いい意味で型破りの裏技で、持ち込まれた難問(主に機械修理)をどんどん解決していくところが、痛快だからだ。といっても、常人離れした超絶技を使うような荒唐無稽な話ではない。作者は身内が鉄工所を経営していることもあり、ちゃんと取材して、理論的に裏付けがあってかつ実行可能な方法のみをネタにしているし、持ち込まれる難題も、いかにもあり得そうなものばかりだ(まあ少々強引なもっていき方の時もあるが)。
 それで、機械工学科生必読の書というわけであり、研究室に備える所以だ。何人かの学生はこの漫画にハマってくれている。

 わたしが別の意味でこの漫画に惹かれるのは、『ナッちゃん』に『じゃりン子チエ』に通じるものを多々感じているせいでもある。『じゃりン子チエ』はわたしが高校生の頃から連載終了まで愛読しつづけた漫画だから、懐かしさがある。

※以下、ピンク字は『ナッちゃん』の、水色字は『じゃりン子チエ』の、登場人物名を示す。

 『ナッちゃん』と『じゃりン子チエ』の設定で共通しているのは、関西近郊の下町が舞台であること、男まさりの女の子(と呼べる年齢の女性)が母親の協力を仰ぎつつも実質的に一人で切り盛りしている店を中心に話が展開すること、の二点である。この二点だけで、かなり両作品のムードが似通ってくる。『ナッちゃん』はこの舞台設定にした以上、『じゃりン子チエ』を準拠枠の一つとしておかざるを得なかったのではなかろうか。作者がどの程度意識してそうしたかはともかく。ナッちゃんの母が裕福な家を飛び出して大阪近郊の下町に嫁いだ、という設定は、朝ドラ『ふたりっ子』とも通じ合うが、これはおいておく。

 もちろん、全く別の漫画であるから、何もかも同じではない。が、どこか通じるものを感じる。
 主人公を比較すると、竹本チエは小学五年生だが、阪本ナツコ(ナッちゃん)はおそらく二十歳台の大人の女性である。チエは、父親のテツが放蕩なヤクザ者であるためしかたなく世話女房よろしくその面倒を見つつ店を切り回しているが、ナッちゃんは父親が病気で死んだ後鉄工所を継いでいる。父親像は全く違う。ただ、父親と愛情のやりとりをするなかで店をやることになった点では共通と言える。
 どちらの店も零細かつ極貧であり、さまざまなトラブルにも巻きこまれる。特に、チエマサルに代表されるエリート優等生と、ナッちゃんはクムラに代表される大資本と、異なる価値観・人生観をぶつけ合って鎬を削ることになる。が、チエ花井拳骨というマサルらとは歴然たる格の差がある真のインテリジェンス、ナッちゃんはクムラも及ばない財力を持つ柿沢徳三スーパーカキザワチェーン創始者・実はナッちゃんの祖父、というそれぞれ老爺にそれとなく庇護を受けている。
 『じゃりン子チエ』に流れる風俗や価値観は、昭和四十年台頃がイメージされている。それに対して『ナッちゃん』は平成のそれだ。画風もギャグの質も全く違い、その意味では異なっている。が、それだけに、ナッちゃんチエの成長した姿に見えてこなくもない。

 ウメちゃんの口調は菊(おバァはん)に代表される『じゃりン子チエ』の(活動的な部類の)中高年女性たちの口調と非常によく似ている。ともに関西弁だから自然にそうなるのだ、と言われればそれまでだが、特にウメちゃんの初登場シーン、ナッちゃんを自分のトラックに乗せてかっさらって行き、後にペーパードライバーの柿沢エリカ(エッちゃん。ナッちゃんのいとこが取り残されナッちゃんの軽トラを死ぬ思いで運転して帰ってくる、というところだが、これはジャリ屋の玉ちゃんが初登場するシーン、チエを拉致? して自分の工場に連れて行き、ヒラメチエの代わりにホルモンを焼く羽目になるところと瓜二つである。もちろん、自ら工場を運営しているところもウメちゃん玉ちゃんとに共通している。
 全般に、両作品とも女性がやたら元気で、男性は概して情けなく間が抜けている、という共通点がある。
 間が抜けた男の代表格、柳井(クムラのちっちゃい人)の登場シーンは、いきなりナッちゃんの工場に現れずかずか入ってき、「ベリーリトルな工場」と厭味を言うところだ。柳井は中途半端でピントの外れた英語を混ぜてしゃべる似非インテリであるところ、そして小柄なのに虚勢を張っているところや小ずるく世渡りしようとしてはつまずくところも、レイモンド飛田(地獄組のボス)そのまんまである。この登場シーンにしても、レイモンド飛田の初登場シーン、チエの店にずかずかやってきて、「ノーホルモン、ゲームセンター」などと言って傍若無人にふるまう場面、あるいはテツのボクサーデビューに際して座敷に上がり込み、「(家の面積が)これだけ?」と厭味を言う場面と、やはりそっくりなのである。
 思い込みに満ちて世間の常識からちょっとズレた言動で周囲を騒動に巻き込むインテリ女性としては、高田たか子マサルの母が、つり上がった眼鏡に細面という共通したスタイルでそれぞれ要所に登場する。
 途中から登場するサブキャラで、杉浦冴子(サッちゃん。杉浦木工所をやっている女の子をみても、初めのうち自分で何もかも背負いこんで無理をしている近寄りがたく突っ張ったキャラとして描かれる。ナッちゃんに対抗意識を燃やして頑張りすぎるあまり倒れてしまうが、やがてあやまちに気づいてナッちゃんエッちゃんとうちとけ仲良し三人組になる。これは米谷里子(サッちゃん)チエヒラメとの間に展開した経緯と全く同じである。おまけに、サッちゃんサッちゃんはともに黒い髪を後ろでくくっている。
 これらのシーンや設定は、『じゃりン子チエ』という先輩漫画の本歌取りというかたちをとったリスペクトの意志表示だとわたしはみている。

 『じゃりン子チエ』の連載終了からまもなく十年になり、一部ウェブ連載というかたちで小鉄アントニオJr.ら猫のエピソードだけ復活したりはしているが、新たなエピソードが読めなくなって飢餓状態にあったわたしのチエ熱を、代償的に満たしてくれている、というのが、『ナッちゃん』に惹かれる一つの理由なのであろう。
 もちろん、『ナッちゃん』独自の機械工学的内容も面白いのである。が、これはまた改めて述べる。  

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