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2008年5月 2日 (金)

どこから送る仮名 下

 前回引っ張ってみた、非常に微妙な訓みわけが必要になり、迷わされる例は、以下の(20)~(22)のようなものである。

(20)北海道、その銀世界があなたを誘う
(21)上司のやりくちについて怒りつづけていた社員がついに倒れた。
(22)いつかは全ての世界遺産の地を回(廻)る旅に出たい。

(20)は さそう いざなう か。(21)は いかり おこり か。(22)は まわるめぐる か。この辺になると、全くニュアンスの違いのみになってくるので、アナウンサー泣かせであろうと想像する。

 日本語史の視点からみて、ちょっと変わった例を、(23)に挙げてみよう。

(23)高専に入れる生徒を選別するのは大変だ。

いれる なのか、はいれる なのか迷う。これはいわゆる可能動詞と一般の動詞とが干渉する例である。もともと はいる這入る と表記していたのが、いつの間にか 入るはいる と訓むようになったために起きる混淆である。

 以上は動詞をみてきたが、形容詞にも同様の例はある。

 形容詞にはク活用シク活用とがあり、同じ字に両方の訓みがあっても活用語尾が異なるので、これは送り仮名での区別ができる。苦い(にがい)/苦しい(くるしい) がその代表格だろう。ク活用は感覚的、シク活用は心情的、という傾向を非常に分かりやすく対照している。 難い(かたい)/難しい(むずかしい) は、前者は複合動詞として使うことが多いから、あまり問題にならない。賢い(かしこい)/賢しい(さかしい) だと、何か前者はプラスイメージ、後者はマイナスイメージになるような感じだな。
 同じク活用で二種類訓める、という場合も送り仮名で区別するようだ。細い(ほそい)/細かい(こまかい)・温い(ぬくい)/温かい(あたたかい) くらいか。シク活用で二つ、となると、わたしは 羨しい(ともしい)・羨ましい(うらやましい) くらいしか思いつかないが、ともかくちゃんと区別されている。

 と思いきや、やっぱり形容詞にも訓みに迷うのがあった。
 忙しい(いそがしい/せわしい)・親しい(したしい/ちかしい) あたりがそれである。

(24)昼に食べた50倍カレーはさすがに辛くて驚いたが、食べるのは辛くなかった。

これなんかは一番有名な例だろうが、文脈で分かるので訓み間違いはなかろう。

 品詞を超えて干渉する例さえある。
 正しく(ただしく/まさしく)・臭い(くさい/におい) がそれで、これも訓む時に注意が必要だ。

 さて、もうこれだけ書いてきたらお分かりだと思うが、漢字の訓み分けを明らかにするのに、送り仮名の送り方によろうとしても、限度があって大して寄与しないのである。結局は文脈と文章の構想を的確に把握し、意味をつかめるよう、言語感覚を磨いていくことしかないわけである。
 きわめて当たり前の結論となったが、この一連の記事はひとまずここで。

(了)

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