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2009年3月19日 (木)

ア・カペラな謝恩会~きみたち可愛いね

 さて、昨日は卒業式、そしてその夜は謝恩会である。

 専門教員はほぼ毎年謝恩会に出席するが、わたしたちはご指名を受けてご招待されなければ出席できない。普通、低学年で担任した場合は招待される(たまに忘れるクラスもある)。
 それ以外にも、特にそのクラスと親密であった場合なども招待されることがあるが、これは多分にその年の幹事の気まぐれに負うところが大きく、予測は難しい。あるクラスなど、わたしが三年間国語を担当したうえ、同じ学科の下の学年を担任した縁もあり、授業を離れた後も、行事についてなどのアドバイスもして、下手な専門教員よりよほど濃密なつきあいをしたにも関わらず、遺憾ながらわたしを招待してくれなかった。着任して僅か半年で、若干の選択科目しか担当しなかった専門教員は招待されたのにである。
 あの時の落胆は大きかったが、今年卒業する機械科は、低学年時の二年間担任したから、無事招待にあずかった。

 これが、実にわたし好みのすばらしい謝恩会であった。あのクラスとしてはできすぎといってよい。

 まず、会場は慣例に従い、芦原の温泉旅館内にある宴会場である。これが、人数に比して大きすぎず小さすぎず、適度な広さであった。これがまずよかった。
 ほぼ全員が開宴予定時刻には席に着き、これも上々である。幹事の坐る場所も教員を坐らせる場所も間違っていない。幹事の司会進行はややもたもたしたが、これは学生だから大目にみる。

 最初にスピーチのマイクをとったのは、わたしと同い年の学科主任である。同い年の人が学科主任をやるようになったか、と身も引き締まる思いであるが、この人がスピーチのなかで、辛いときには歌を歌うとよい、という主旨を言い、見本として、皆の手拍子を受けて、自らの出身高校の校歌を歌って見せた。校歌は自分のルーツだから、原点に回帰できる、ということだろう。学生たちには、本校の校歌か、機械科の応援歌を歌え、とアドバイスして締めた。
 もちろん大きな拍手が起きたが、結果的に考えれば、この学科主任のスピーチが、この宴会を明確に方向づけた。
 続いて、現担任や、元担任のわたしなど、何人かのスピーチの後、やっと乾杯となる。しばらくは歓談である。料理も悪くない。
 学生たちは、互いに酌をし合いながら、わたしたち教員の席にも酒を注ぎがてら話しに来たりする。この辺の間合いも大変よい。クラスに友人が少なく、独りでグラスを手にしている学生がいると、すっと気を利かせて前に坐ってビールを注いでやる者もいる。大人の宴会ならあたりまえのことながら、そういうこともできるようになったのだなあ、と感心する。
 このクラスには麺類部のメンバーが含まれる。今まで何度もわたしの家などで呑んでいながら、酒を注いだり注がれたり、という発想はなく、てんでに缶チューハイなどあおるだけだった。そいつらもちゃんと酒でコミュニケーションしている。

 宴会場の下座には、カラオケが据えられている。膳の上に越前おろしそばが乗る頃になると、料理もあらかた食いつくされ、酒も途切れがちになる。口が空くので、歌が出ることになる。
 なりゆきだけでカラオケの司会に指名された学生が、まずは一曲露払いをすると、次にわたしが指名された。

 わたしはこの時に備えて、麺類部の学生たちに「きみ可愛いね」のサッココールを仕込んである。それなのに、宴会場のカラオケの哀しさ、歌本にはけしからぬことにサッコさんの歌が一曲も入っていない。
 されば次善の策と考えてあった、「あの鐘を鳴らすのはあなた」を歌うことにする。サイバーダムなどと同じく-4のキーで歌ったが、オリジナルキーではないようで、ちょっと低めに感じた。しかしまずは満足のいく歌となり、学生から拍手ももらえた。この曲ももはやサッコさんの持ち歌と言ってもいいほどだし、学生らもこの曲なら知っている。何より、卒業する学生の前途を祈るのに相応しい曲だ。一応この時はこれで満足した。

 その後も、何人かの教員がマイクを取り、長渕剛・斎藤由貴・コブクロなど、統一感のない選曲が続き、合間を学生がつなぐ。
 誰かが歌い始めれば、みな歓談を中断して、ちゃんと聴いている。盛り上げ方・おだて方も心得ている。そしてそれは、低学年時とは異なり、普段の友人関係を超越して行われている。

 司会が、現担任をマイク前に招き、代表者がお礼の意味を込めてプレゼントを渡す。このプレゼントはサプライズだったようで、現担任は強くない酒を学生からしこたま注がれたうえに感激し、もう何を言っているのかやっているのかさっぱり分からない酩酊状態になっていて、学生たちに腕を支えられている。

 この覚束ない現担任は、席に戻るとさらに、さっきの学科主任に倣って機械科の応援歌を歌え、と酔眼を据えて命令する。
 そしてなんと、学生たちは快く応じたのである。元応援団長が中央に立ち、共に応援にとり組んだ者たちを促す。一人、また一人と席を立ち、最後には全員がわたしたち教員席の正面に並んだ。元副団長が、大声で気合を入れる。もちろんマイクなどは誰も持っていない。
 この元副団長は、何でもほいほい器用にこなしてしまうタイプで、努力によって成果を得る、という事態に常に飢えていた者である。2年の時に初めて機械科が応援賞を獲った。彼は涙した。そして、嬉しくて泣いたなんて初めてだ、これが感動するということだったのか、としみじみ吐露したものだ。
 元団長が、旅館中に響きわたるほどの声で、
「機械科のー、健闘をー、祈ってーーー!」
と前フリをしたのに続き、三十六人のありったけの声で、伝統の機械科応援歌が唱われる。
 といっても、彼らの在学中には、応援歌は振り付けや歌詞に微妙な変化があった。一つ下の学年から一年生が混合学級となり、体育祭の運営方が変わったからである。チームも機械科チームから「あか組」に変わったので、当然それに合わせて歌詞も変えていった。「環境 物質 情報 電気、 向こうに回して一直線」も、「あお しろ きいろ みどり組、…」に変わった。全員が揃って毎年度応援に参加したわけではないから、いろんな年度のバージョンが混ざり合って、微妙に声が濁っている。が、それはもうどうでもよいことだ。
 ラストコーラスの三番も中盤になると、早くも声が震え、目をこすりはじめた学生が何人かいる。最後の歌詞が唄い上げられ、わたしたちは精一杯拍手を贈る。学生の勝鬨が響き、抱き合って団子になっている者たちがいる。やはり疑いなくこの応援歌は彼らのふるさとだった。
 高専祭のクラス催しでは、くじ引きで選ばれたメンバーがいやいや小声で唄うだけだったこのクラスが、最後の日に初めて心を一つにした。

 さて、学生全員の演し物も終わったところで、カラオケの大トリを、現担任が務めるはこびとなり、十八番「瀬戸の花嫁」の選曲もなされたのだが…、もう現担任は歌を歌える状態ではない。そこで、僣越ながら元担任のわたしが、代役としていま一度マイクの前に立つ。
 こうなれば今度こそサッコナンバーを歌ってやろう。もはやカラオケにないことなど問題ではない。伴奏は皆の手拍子で十分である。わたしは「きみ可愛いね」のサッココールのタイミングを簡単に説明した。「ひとこと言って~」の後、振り向きぎみに右手を左肩にもって行った時を合図とする。分からなければ、麺類部の者を見て合わせればよい、と。わたしは快調に歌い始めた。
 サッココールの一度めは、麺類部のお手本を様子見する者が多い。二度めは、自分もやってみようとするが、うまくリズムをとれない者もいて、声がばらける。三度めで、やっと全員の声が揃う。そして最後の四度めは、自信を得て、さきほどの応援歌に負けない声で皆が拳を突き上げる。わたしが経験したなかでも最大規模のサッココールとなった。
 席に戻ったわたしは、隣に坐った学科主任から、ア・カペラにしては歌が長すぎる、とつっこまれた。しかし、サッココールが四回あってこそ、PDCAサイクルが機能したのだから、フルコーラス唄ったわたしは間違っていないだろう。

 教務主事の音頭で万歳三唱して、宴会はおひらきとなった。
 その後も各室に分かれて二次会となる。改めて風呂に入る者もいる。そして、ごく一部の気の利かぬ者を除き、ほとんどの学生がちゃんと教員の部屋に詣でて、諸談義に興じたところも好ましい。
 わたしも、担任を離れてからあまりゆっくり話す機会もなかった者とも、久しぶりに談笑する。何年か前のあの事件の真相が、学生の酔った口から打ち明けられたりもする。わたしも、分かっていて騙されたふりをしていた手の内を明かす。
 かと思えば、唯一の女子学生がどういうわけか持ってきていたメイド服を着せられてやけに似合っている小柄な麺類部員(男子)が、嫌だ嫌だと言いつつも、満更ではないのか、その格好で各室を回って反応を愉しんだりしている。

 あどけなさを残す、可愛い少年たちだった君たちに出会って五年、最後のこの日、この瞬間に、クラスという集団が完成をみたような気がした。そして、いいクラスを担任できたなあ、と心から思える謝恩会であった。もちろん、いくつになろうが教え子は教え子、可愛いことに変わりない。伴奏で飾りたてたりエコーをかけてごまかしたりしない、地声のままの彼らにやっと会えた。
 こちらこそ、学生たちに感謝したいくらいだ。

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