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2009年4月11日 (土)

単体では訓み方が分からない熟語

 送り仮名で訓みを区別することの限界を、前のシリーズで話題にしたが、熟語の場合でも悩ましい語が時々出てくる。漢字二字以上の語となると、もう送り仮名の問題を離れてしまうので、続きものの記事にはしなかったのだが。
 文章に出てきたとき、わたしがよく訓み方に迷う熟語、いわば「同字異音語」は、例えばこういうもの。

 最たるものは 相対する である。あいたいする なのか そうたいする なのか。どっちも訓めるので、慎重に文章全体から判断せねばならない。相反する は、そうはんする ではなく あいはんする である。相反(そうはん)という名詞があるので、そうはんする と訓む人もいるが、相反サ変動詞には普通ならないと思う。

 以上はどっちの訓み方でも大して意味が変わらない。
  次の例は訓み方で意味が変わるもの。これならやはり文脈などで訓みわけはできそうだ。

(1) あの映画館は人気がいま一つで今日も人気がない。
(2) ERの待合室では何人の患者が何人待っていますか。
(3) この曲はここの小節でまわす小節がポイントですね。
(4) 大勢の党員が小沢氏支持を表明して大勢が決した。
(5) 彼は目下の人に親切なので目下人気上昇中だ。
(6) 店に入ってきた二人連れは一見常連に思われたが、実際は一見さんだった。
(7) 工夫たちは相談し、作業効率を上げる工夫をした。
(8) 分別ある社会人なら、ゴミはきちんと分別しなさい。
(9) 友人一家が心中したと聞き、心中穏やかでない。
(10) このアパートの大家さんは茶道の大家でもある。
(11) 当ブログは明朝からフォントを明朝体に変更します。
(12) 見物人がどれだけ集まるか見物だ。
(13) 強力な助っ人として同行してもらった強力強力粉を運んでもらった。

 けっこうあり得る文(強引か?)だが、まあ訓み間違うことはなかろう(念のため、(1)にんき/ひとけ (2)なにじん/なんにん (3)しょうせつ/こぶし (4)おおぜい/たいせい (5)めした/もっか (6)いっけん/いちげん (7)こうふ/くふう (8)ふんべつ/ぶんべつ (9)しんじゅう/しんちゅう (10)おおや/たいか (11)みょうちょう/みんちょう (12)けんぶつ/みもの (13)きょうりょく/ごうりき/きょうりき)。
 何人なんびと(なんぴと) とも訓めるが、いくらなんでもその訓み方をする文章はそれなりのオーラがあるだろう。
 ここからの例は、訓み分けが非常に微妙になってくる。

(14) a 私的には靖國に参拝しても構わないと思う。
          私的にはぁ、靖國参拝ってやばいって思う。

 おそらく(14)はaは してき でbは わたしてきに と訓むのだろう。文章全体の雰囲気で比較的簡単に分かることになる。
 だが、その雰囲気が非常に微妙になる 微笑(びしょう/ほほえみ) 永遠(えいえん/とわ) といった類となると、厄介である。とわ は 永久 とも書くが、永久えいきゅう の他 とこしえ とも訓むので、いよいよ厄介である。ここまでくれば詩的な文章になってきて、ルビが振ってあるだろうが。

(15) もうAA氏を十分待ったから、先に出発していいだろう。

 これは文脈に関わらずどっちにも訓める例である((15)じっぷん/じゅうぶん)。これは間違えないように 充分 と代用字を使ったり仮名書きしたりする場合が多いだろう。

 固有名詞などが絡んでくるとまた何とも笑える例も出てくる。秋田の焼肉屋に入った旅行者が、メニューを見て「もがみうしロース一人前」と注文した、という話などがある。最上牛ロースと書いてあったのを地元の和牛ブランドと思ったらしい(さだまさしステージトークによる)。殺虫剤の注意書を見て、何であの有名喜劇俳優にだけかけてはいけないのか、と首を捻った人もいる。「植木等にはかけないでください」と書かれていたのだ(『VOW』ネタによる)。

(16) 篤志さんは篤志家だね。
(17) 大分での生活にも大分馴れた。
(18) 真理さんの発言は真理を衝いていた。
(19) 三重でSLの三重連が走った。

も、十分あり得る文である。
 わたしも、姉妹趣味ブログ『まるよし電車区』の「わたしの一筆書き」シリーズの中で、

(20) 13時32分発の平行は六輌連結だが仙台からの買い物帰りの客で込んでいた。 

という文を書いた(第7日)が、平行 をちゃんと たいらゆき と訓んでいただけたかどうか、不安である。
 固有名詞ほどでなくても、特定の領域で使われる語が入ってくる場合もある。

(21) この機器は、単一の電池で動かすシンプルな構造である。

 やはり たんいつ と訓むことになろうが、電池の話だと たんいち とも訓みたくなる。  
 追従(ついじゅう/ついしょう) は、前者は物理的なもの、後者は心理的なものの場合であるし、礼拝(らいはい/れいはい) は、前者は神道仏教、後者は外来の宗教の場合と使い分けられているが、これらも、ボーダーライン付近の用例がありそうで、油断ならぬ。こういうのは、同字異音語集として受験用ワークなどにまとめられていそうなので、詳述はしまい。
 一切(いっさい)ひときれ と訓んだりするのは笑い話になる。これもお経に出てくるときは いっせい と発音する。黒柳徹子氏が職を求めて新聞の求人欄を見た時、どの募集にも 細面 と書いてあるので、何でどこの会社も細面(ほそおもて)の人しか採用しないのか、と首を捻った、という逸話も有名だ。
 学生が作文に 誕生日に新巻を貰って嬉しかった などと書いていたので、高校生の年齢の学生の誕生祝に 新巻鮭(あらまきざけ) なんか贈る奴はどんなセンスだ、と思いながら読んでいくと、漫画の 新巻(しんかん) のことであった。なるほど、単行本なら 新刊 だろうが、続きものだと、前巻・次巻・全巻 ときて 新巻 となるわけか。
 そういえば、中学の時、技術の教科書の、金工の行程を説明する箇所の音読を先生に指示され、そこに出てきた 四行程 という熟語を よんぎょうほど と訓んだ級友がいて、教室が爆笑になったなあ。訓めるわ確かに。

※ このカテゴリーの記事のように、まるよしの楽しい日本語の話を満載した本、ぜひお手に取ってお読みくださいね。

 『まるごと とれたて 日本語談義 -ラジオ番組『高専ライブ』で語ることばの話-』
 桐島周 2016 勝木書店 定価1500円(税込)
 
ISBN: 978-4-906485-09-3 
 (桐島周は、まるよしのペンネームです)

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  http://www.katsuki-books.jp/ (書籍検索から)
 Amazon・楽天などでは購入できません。

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5.6  言葉の動向」カテゴリの記事

コメント

気をつけていてもやらかしますね。日本語の「そのへんはぼやっとさせときますかね!」のひとつですね。その一味が作ったカレーは一味違う!食べてみたい(笑)

投稿: ViVi | 2009年4月13日 (月) 18時53分

> その一味が作ったカレーは一味違う!食べてみたい

 いいですね。例文いただきます。
 って、カレー作ってる一味ってどんな団体なんでしょう。一瞬、唐辛子のことかと思いました。

投稿: まるよし | 2009年4月13日 (月) 19時06分

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