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2009年4月19日 (日)

創作落語「実録まるよしの同窓会」

凡例
 黒字…正面切り
 赤字…上手
 青字…下手

〈出囃子〉

〈小拍子〉

 ようこそのお運び、厚く御礼申し上げます。まるよし亭の席亭兼噺家をやっております、まるよしこと、徒然亭草枕でございます。相も変わりませず、まるよしの実体験を元にしたフィクションを創作落語に調えましたもので、おつきあいを願います。

〈小拍子〉

 学校の同窓会と申しますと、皆様も結構楽しみにされるのではないかとお察しいたします。まあ中には、昔いじめられっ子やった方が、いじめっ子にリベンジで一発どついたろかいなぁてな動機で同窓会に出席してみると、いじめっ子がまあ女房の尻にでも敷かれたんでしょうかなぁ、丸ーい気弱な人間に変貌しておりまして、逆に慰めたりなんかせなあかんてなこともございますな。また昔、恩師に言われた一言で人生が変わった、一生の恩人やぁいうんでお礼言いにいきますと、先生に、
 君、誰やったかな。
てなこと言われて先方はとうにお忘れになっておって拍子抜けしたりと、ゆう話もよう聞くところでございます。まあこれはしゃあない面もあるんでございまして、生徒から見たらかけがえのないたった一人の恩師であっても、先生は何百人何千人の生徒を相手にしておりますさかいな。
 まわたしなんぞ、教師をやって十年以上もなってまいりましたんで、教え子の名前を忘れる、ちゅな失態には気ぃつけんとあきません。教師が教え子の名前忘れたときの方便といたしまして、

 君、名前なんやった?
とこう訊きまして、相手が、何や忘れられとったんかいな、とムッとした顔で、
 田中ですけど、センセ覚えてはらへんのですか?
とか答えましたら、
 いや田中ちゅう名字は分かってるわいな、下の名前を訊いとるんや。
とすました顔でごまかすとええんやそうでございますな。
 まあこの、何にいたしましても、同窓会というのは、悲喜こもごもでございますが、えー、今日のお噺は、先日わたしが中学校の同窓会に出席してまいりました折のことでございます。

〈小拍子〉

 勇んで出かけました同窓会、会場はと申しますと、区民会館のイベントホールを借りて、三年生の時のクラス別にテーブルが用意されてオードブルやら飲みもんやらいろいろ並べられております。ホールへ出てまいりますと、久しぶりのことで、幹事の開会宣言も待ちかねまして、もうピーチクパーチクピーチクパーチクひばりのように話がそこらじゅうでさえずっていようか、ここぞとばかりお召し物に気合の入った参加者たちはまさにあやめひまわりの花盛り。料理の湯気もこう燃えたちまして、やかましゅう言うてやっております。その部屋中の陽気なこと!

〈お囃子〉

 わたしは三組でございましたので、三と書かれたテーブルに坐ろとしたんでございますが、このテーブルが具合のええことに男子四名女子四名、程よい人数でございます。最初にわたしに声をかけてきたんが、その女子のお一人でございました。
 いやぁ、久しぶりやねえ。えっとま…、る…、まるー、よ…、し君。まるよし君? まるよし君やんねえ。
 そうです。まるよしですけど。
 やっぱりまるよし君やあ。なあなあ、みんな、まるよし君や。まるよし君。覚えてるやろ、あのすごい無口でおとなしかったまるよし君や。
 何笑てますねん。ほんまなんですわ。今でこそこんな商売やってますけどな、中学の頃はおとなしかったんでっせ、ほんま。
 わぁ、ほんま立派になったなあ。そやけど若いわぁ。まるよし君全然変わってないなあ。一目で分かったわぁ。
 いや嘘つけって。最初だいぶん確認しとったがな。まああんたのそうゆう調子のええとこも変わらんなあ。はいはい呑みましょ。どうもどうも。乾杯。
 ほやけど、まるよし君て、歌うまかったなあ。
 えー? そんなふうにおぼえてるかぁ? 中学の頃はシャイでひと前でなんかよう歌わんかったけどなあ。
 そうお? でもそんなイメージあんで。なぁ、まるよし君、歌うまかったなあ。うんうん、うまかった。ほらみんなこう言うてるやん。
 そうかなあ。
 ちょっとこれ、自分でも意外でございました。子供の頃から学校の先生になりたいなりたいとは思うとったんでございますが。内気な少年やったんで、果たしてひと前で一人でしゃべらんとあかん教師ちゅな職業に就けるもんかいな、と中学の頃はものすごい不安に思っておりました。それで、一念発起して大学の頃にちょうど流行りはじめたカラオケに通っては喉と舞台度胸を鍛えて人格改造をいたしました結果、こういう商売ができるようになった、とそういう自分史のストーリーをわたしはつくっておりまして、教え子にも語ってきたところでございます。ほやさかい、中学の頃から歌がうまいと皆に思われとったとなりますと、自分という人間形成が根底から崩れてしまいまして、困ったことになるんでございます。しかしまあ、他人からみた印象と自分の思てる自分とは、ちょっと違うんか分かりませんなぁ。
 いやほんま歌うまかったでぇ。あほらほら、合唱コンクールの指揮者やったやん、まるよし君。
 いや指揮者は歌わへんがな。
 ほんでも、歌のことちゃんと分かってないと指揮者なんかできひんで。まるよし君が指揮してくれたから優勝できたんやからー。
 どうも納得いきませんので、隣に坐った山下君ゆう男子にも訊いてみることにいたします。
 なあ、山下君、僕どうゆうイメージある?
 ああまるよし君、何とゆうても、歌がうまかった。
 ええ? やっぱりそうなんや。おっかしいなあぁ。まあそやけど山下君は、中学の時から勉強もできたよなあ。今何の仕事しとってん。
 SEや。
 SE。
 そう、SE。
 SE…、S、E、ゆうたら、深海魚の、えら集め、か何かですか?
 何ゆうてんねんな。そんな仕事あるかいな。システムエンジニア。これを略して、S・Eと、こない言いますねん。
 はああ、何や難しそうな仕事やなあ。さすが山下君や。山下君は勉強できるし、スポーツ万能やし、女の子にももてたし、三拍子そろってたもんなあ。
 いや、そんーなことないよ。
 そうやんなあ。
と申しますと、女子どもも、
 そうやわそうやわ。山下君三拍子そろっとったわ。
なんて言うております。山下君、謙遜いたしまして。
 そんなんそんなんやないて。まるよし君かて歌うまかったやん。
 いやそれさっき聞いたから。
 何やわたしの取り柄はそれしかないんでしょうかねぇ。わたしのことも三拍子揃てたと言うて欲しいんやけどなぁ、そんなこと思ておりますと、他のテーブルから友達が来まして、
 おー、まるよし君。
 やあ、松永君、ひさしぶり。元気にしとったん。
 ああ、元気元気。おかげさんで。
 
今、何の仕事してんの。
 仕事なぁ、神戸のあの、造船所の方で働いてるねん。

 うちの学校ね、神戸の造船所には見学旅行でよう行かしてもらうんやけどね。
 
おお、またいつでも見学にきてもろたらええがな。
 
おおきに。ほんで、造船所で何してんの。
 は? 何ておまえ、造船所で鰻の蒲焼焼くわけあれへんがな。船造っとるんや船。
 はぁー? さすがやなあ。松永君、体丈夫やったしなあ、そういう仕事に向いてる思うわ。
 いやいや、まるよし君かって歌すごかったやん。
 え…。またそれですか。
 そうなんかなあ。どんどん自分史が崩れていくなあ。と困っております。わたしも他のテーブルに出向きまして、また別の友達に酌をしにまいります。
 どうも斉藤君、まるよしです。お久しぶり。
 ああーっ、まるよし君。歌がめっちゃめちゃ上手なまるよし君。
 ええーっ!?
 
何も訊かんうちから言われてしまいまして、何や、わたしの中学生活は歌しかなかったんでございますかね。誰ぞ他のことを言うてくれるもんはおらんのんか、そない思ておりますと、今日の幹事さんがグラスもってわたしの所に来てくれました。
 こんにちは。まるよし君今日はよう来てくれました。
 いえいえ、こちらこそ今日はお世話になっておりますぅ。もうほんま楽しい会でありがたいですわ。なんもお手伝いできませんで。
 いや、われわれ幹事としてはね、一人でも仰山来てくれるだけで嬉しいんですわ。でも懐かしいなあ。まるよし君は何ちゅうても三拍子そろってはったもんねえ。
 おっ、きたできたで。やっと違うこと言うてくれる人がおりましたわ。嬉しいですなあ。
 あ、そない思う? 何と何と何で三拍子?
 そらもう、音程はしっかりしてる、リズム感はええ、ハモっても天下一品。
 いやそれ全部歌ですがな。他におまへんのかいな。
 そうですなぁ、えー、旨い、速い、安い!
 ひと牛丼屋みたいに言いなはんな。そやなくて。
 打つ、守る、走る!
 イチローやないちゅうねん。わたし野球部入ってなかったから。なあ頼むから歌以外に何かなかったか思い出してくれまへんか。
 いやそない言われても、やっぱりまるよし君と言えば、歌、とこうきますで。何しろ、何歌わしてもお上手でしたもん。
 そうですか?
 そらもう、ジャンル選ばんかったもんねまるよし君の歌は。覚えてますで、教室でいつも上手に歌っとったん。それもいろんなジャンルの歌をねえ。アイドルポップやったら伊藤咲子の「乙女のワルツ」、演歌やったら千昌夫の「星影のワルツ」、フォークやったらふきのとうの「流星ワルツ」。
 いやちょっと待ってください。何でワルツばっかりですねんな。他にもいろんな歌ありましたがな。そない何とかワルツばっかり出してこんでもよろしやないですか。
 いやそらワルツが出てくるんはしゃあないですて、まるよし君。
 何でですの。
 ワルツやからこそ、三拍子、揃っております。

〈お囃子〉

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