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2009年6月 5日 (金)

鉄道落語会(繁昌亭)

 ちょっと古い話になるが、投稿のタイミングを逸していた。

 昨年12月中旬、大阪天満天神繁昌亭で、「『鉄』の世界」と銘打った落語会が催された。繁昌亭は、上方落語界唯一の常打ち小屋であり、あの『ちりとてちん』の「ひぐらし亭」のモデルでもあるため、たまに足を運ぶようになった。そこで鉄道に関する落語会があるとなれば、行かないわけにはいかない。

 この落語会は、桂梅團治・桂しん吉両人による二人会として開催されたもので、お二人は上方落語界でも有名な鉄道マニアなのだそうだ。梅團治さんは撮り鉄、しん吉さんは乗り鉄と、鉄としての流派は異なるが、それだけに話がふくらみそうである。
 チラシをみると、バックの写真は、雪中を往く「SL北びわこ号」だ。これは梅團治さんが撮影したものだそうだ(写真はチラシの一部)Tetsuraku2008
 そのチラシには、鉄道の地図記号「旗竿」を模した飾り罫に囲まれてこの日のメニューが書いてある。前半は「趣味の『演芸』」、後半は「本気の『鉄』」と題されており、洒落が利いている。
 この鉄落語会は、前年も催されたそうなのだが、残念ながらわたしはそれを知らなかった。今回が初めての鑑賞である。

 開演が近づくと、八割方の座席が埋まった。客層はと見ると、元々のお二人の贔屓筋や落語の熱心なファンと、鉄道マニアで落語にも興味のあるわたしのような者と、ちょうど半々くらいの感じである。
 夜席にはあまり見かけない、子供連れの親子の姿も何組か見える。鉄道で子供を釣って、何とか古典芸能たる落語に触れさせよう、という親の魂胆と察せられる。

 幕が開き、開口一番(前座)の笑福亭松五さんが登場した。松五さんは鉄でも何でもないようで、噺も古典だが、今日のテーマに気を遣ってか、枕ではスルッとKANSAIカードにまつわるエピソードを語り、笑いをとった。

 いよいよ、「趣味の『演芸』」に入り、まず梅團治さんが高座に上がる。
 梅團治さんの出囃子は、普段は「龍神」だそうだが、今日は童謡の「汽車」が三味線で奏でられている。この後の出囃子も、「汽車ポッポ」や「はしれ! ちょうとっきゅう」などと全て鉄道絡みのメロディをアレンジしたものであった。
 枕では、本当は鉄落語だけ演りたかったが、古典も演らないとここで落語会をさせてやらない、と言われてしぶしぶ演るのだ、と笑わせる。
 ネタは、「千早振る」である。八五郎がご隠居に百人一首の歌の解釈を訊き、知ったかぶりのご隠居は、分からないくせに強引で頓珍漢な解釈を聞かせる、という噺だ。百人一首はわたしにとっても縁浅からぬものなので、よく知っている噺である。が、生で聴くのは初めてで、なかなか可笑しい。

 続いてしん吉さんの「くっしゃみ講釈」である。忘れっぽい間抜けな男が、もめごとのあった講釈師の講釈を、最前列で唐辛子を燻して邪魔する、という噺だ。唐辛子を買いに行く場面のすったもんだや、唐辛子に悶絶してくしゃみを連発しながら講釈を語る場面など、全編笑いが連続する賑やかなドタバタである。

 こうして、両人ともまともな落語家である(笑)ことが証明されたところで仲入りとなった。梅團治さんは田舎っぽいずんぐりした愛嬌ある親爺、しん吉さんはすっきりスマートな好青年という感じで、風貌の対照も妙である。

 いよいよ後半、「本気の『鉄』」が開幕する。鉄道に因む創作落語を両人が披露するのである。チラシには「鉄道落語創作中」となっていて、工事中のヘルメットお辞儀ピクトグラムが記されている。
 今度はしん吉さんが先に出る。しん吉さんの噺は、ある男が上司らとの飲み会で嫌な思いをし、ゲン直しのつもりで初めてそれと知らず飛び込んだスナックが、「鉄道スナック」だった、という内容である。ママが元祖「鉄子」なのである。
「何飲みます?」
「ほな、カシスオレンジ
「はい、カシス今里筋線ね」(ここで客席爆笑)
「何ですねんそれ」
この店は、その方が言いやすいと当然に思われるような世界だったのである。
 また男が、グチを聞いてほしい、とママに持ちかけると、
「グチって、西宮北口? 宝塚南口? 塚口?」
とくる。いろいろやりとりがあって、
「正雀をなめちゃだめよ。阪急の本当の要は梅田でも十三でもなくて正雀だから」
という講釈を聞かされるはめになる。
 ようやく、実は悩みがあって、ときりだすと、
「わかるわ~。環状線の103系が減ってきたのが悲しいんでしょう」(爆笑)
とまぜ返される。男は何のことかさっぱり。
 男の悩みは、このところ仕事が忙しい彼女との擦れ違いが続いていることなのである。それをママに告げると、やはり、地下鉄に譬えた奇想天外なアドバイスを返され、大爆笑となる。
 いろんな客層に配慮しているのであろう、さほど濃い鉄でなくても、大阪の鉄道をひととおり利用している人なら、一応分かりそうなギャグに留めている。
 そうしているところに常連客が入ってきて、ママと駅名尽くしのディープな会話を始め、男を翻弄する。さらになぜか男の当の彼女が店に入ってきて、意外なサゲに突入する。
 創作落語のサゲをばらすのはご法度であろうからここまでにしよう。以上は、折り込まれた鉄系ギャグのごく一部である。生で聴けば、数十倍は愉しめるはずである。

 続いて、梅團治さんの噺は、鉄道マニアだけれど落語に馴染みがない客のために作られたものである。
「ご隠居、この前は百人一首のことでえらい恥かかされましたで」
といきなりきて、笑いが起きる。さっきの「千早振る」の続きとして演じられるのである。
 今度は、八五郎が落語についてご隠居の教示を受ける、という場面にかこつけ、間接的に客に落語の基本を解説する。
 小道具やしぐさの基本の説明のため、見台が噺の途中でお茶子さんによって持ち去られたりする斬新な噺である。
 そのあと、二人の会話はやっぱり鉄道の話になっていく。圧巻は、ご隠居が、大阪から下関までの在来線(東海道・山陽線)の全ての駅名を順に言っていく場面だった。最後まで間違えずにいくかと思いきや、梅團治さんは「長府」に続いて「新山口」と言ってしまった。
 すかさず客席の方々から「違う!」という声がとぶ(もちろんわたしも言った…笑)。
「あ? わし何て言うた? 新山口言うたか? あ、すまんすまん新下関な」
とアドリブでたてなおし、どうにか下関まで辿り着くと同時に大拍手。そのあとはすぐサゲとなる。

 先のしん吉さんの枕によれば、前年の会では、梅團治さんは大阪から東京までの全駅を言ったそうだが、あの駅が抜けていた、と後でメールが来たそうだ。それで今年こそ完璧を期して臨んだ梅團治さんだったが、実に惜しかった。

 その後、梅團治さんが前回以降に撮りだめた写真をスライドで映写しながらお二人がトークするショーが催される。
 さらに、梅團治さんの鉄道写真を卓上カレンダーにしたものが景品となる抽籤会が開かれた。わたしはこの種のものに当たった試しがないので、期待しなかったが、やっぱり当たらなかった。

 今年もこの落語会があるかどうかは未定だそうだが、もしあるならぜひ見に行きたいと思っている。

(記事中、落語ネタの記述については、まるよしの記憶で書いていますので、実際に演じられた表現とは異なります)

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