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2010年3月21日 (日)

ディショ挙行 下

 最初にホテルに戻ってきたのはわたしだった。18時30分頃である。隣の三人部屋をノックしても応答がないのは意外だった。不慣れな者ほど用心深く早めにひきあげてくる、と踏んでいたからだ。しかし、たまにしか来ない東京なので、時間ぎりぎり愉しんでくるつもりらしい。   
 部屋でとりあえず休んでいると、ノックがあった。誰だろうか。

 出てみると、荷物を両手にめいっぱい提げた非文化少年だった。帰ってくる時間を厳守するところも鉄郎に似ている。遅れたらその時は死ぬことになる、と思っているのかもしれない。
 乙男からは、少し遅れるかもしれない、とメールが入ったが、結局間に合った。三人で自由行動の報告をし合うも、インパクトは全て非文化少年にもってかれている。
 フィギュアだけで2体(単位は「体」で合っているのか?)、その他にも絵に描いたようなアキバ系のグッズが紙袋に溢れかえっている。わたしと乙男は少々後ずさりしながらも、珍しくそれらを観賞した。怪しいキャラクターの描かれた布は何に使うのか、と訊くと、シーツだと言う。これで一緒に寝ている気分になるらしい。不健全だ。
 乙男は、副都心やお台場を巡り、昼は目黒でラーメン、と友達と一緒に割合オーソドックスな東京巡りを愉しんだらしい。途中クレーンゲームで獲ったグッズでやはり荷物が増えているが、それほどマニアックな品物ではない。

 ところで、浪人はいったい何をしているのであるか。いちばん落ち着いてしっかりしていそうな人がぽかをする、というのも、まるよしくらぶの伝統かもしれない。腹も空いてきたし、何をしているのか、と待ちくたびれた頃、ようやくメールが入る。曰く、
「山手線で居眠りして一周半しました」
 と。しかも、ショートカットしようと焦り、蟻地獄にはまった。待っていられないので、先に三人でホテルのダイニングへ。ブッフェの夕食をとる。
 マイペースな二人だが、まあこのホテルもリゾート系で子供も多いので、少々のことは目立たない。寝巻のような姿でダイニングへ出向いても、帽子を被ったまま食事しても、ケーキを箸で食べても、子供と思えば気にならないのだが、一度ちゃんとしたシティホテルにも連れて行かねばならない。
 浪人も戻ってきて、こもごも自由行動を報告しながら食事する。店には、ラテン系とみえる洋風流しのバンドがいて、席を巡回しては演奏と歌を披露している。これがわたしたちのテーブルにも回って来た。片言の日本語と英語とで、リクエストしてくれ、と言う。
 こういう所で何をリクエストするべきかは難しく、センスも問われる。彼らが知らないようなマニアックな曲を言うのも野暮だから、非文化少年は何も言えない。ポップスのスタンダードナンバーでこの店のムードに合うものは…、と考えるうち、乙男が、
「バックストリートボーイズ」
と言うと、それらしい曲を早速にもやってくれた。悩んだ末の選曲は、間違っていなかったようだ。マイクはない生声なのに、ハーモニーが響きわたり、美しい音だ。
 拍手をして別れ、バンドは隣の家族連れが坐ったテーブルに移った。ほどなく「崖の上のポニョ」が聴こえてきた。

 
 三日めも同じダイニングでブッフェをとったが、最終日のけだるさからか、何となくだらだらと時間をかけてしまう。雑談も弾んだ。部屋に帰る途中、ホテルの名残にということか、乙男は館内をくまなく探険してきたようだ。こういう好奇心は、よいことである。

 当初の予定では、靖國神社に直接向かうことにしていたが、皆荷物が増えているし、フィギュア入りの袋を抱えて参拝したのでは、英霊が嘆息しそうでもある。水道橋に荷物を預けて身軽になってから改めて神社を目指す。
 境内は整然としており、行き交う人々も、正装している。軽装が場にそぐわない、と恐縮するくらぶ生らだが、こういう経験をしてだんだんと社会性を身につけるのだから、無駄な体験ではない。
 非文化少年は、遊就館の中を見学したい、と言う。わたしは観たことがあるので、止めておく。浪人は持参のカメラで零戦などを撮っている。館内は撮影禁止なので、外から撮るしかないが、幸い壁はガラス張りだ。
 ところが非文化少年は、待てど暮らせど出てこない。中で思想的な大喧嘩でもしているのか、素行不良で警備員に連行されたか、と気をもんでいると、やっと出てきた。やや目が潤んでいる。展示に感じるところ大であり、何よりも特攻の世界は彼の価値観にフィットするあまり、砂を得た蠍のようになっていたらしい。

 このように予定はどんどん繰り下がっていくが、帰りの飛行機の時刻は決まっている。時間をかけて見学する予定だった東京ドームシティでは、結局遅い昼食の時間しかなかった。責任を感じたのか、非文化少年が全員の食事代を負担してくれた。かなりの意気込みで多額の小遣いを持ってきたが、秋葉原でも使い切れなかった、という事情もあるようだ。

 
 羽田に移動すると、旅も大詰めである。飛行機に乗り慣れていない面々が荷物カウンターに何度も並びなおしたりしているが、ここまで来ればもう気を遣うことはないだろう。
 空弁をほんとうに飛行機の中で食べる人をわたしは初めて見たが、幸せな旅なら言うことはない。

(了)

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9.1  まるよしくらぶ」カテゴリの記事

コメント

>帽子を被ったまま食事しても
ついうっかりしてたんですsweat01
朝はちゃんと気づいて脱いだんですが、夜は食事のオーラに圧倒されちゃいましたrain

投稿: ちゃいこ | 2010年4月 6日 (火) 02時02分

●ちゃいこふすきー の短縮形の ちゃいこさん
 いろいろ経験するのが大事だから。図らずもああいうホテルでよかったと思う。次回はもうちょっと違うムードの所で。

投稿: まるよし | 2010年4月 6日 (火) 06時54分

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