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2010年8月26日 (木)

再録・流行語対照(6)~ 「〈名詞〉+する」 下

 流行語としての ~する の火付け役は、恐らく昭和59年にヒットした「ニュアンスしましょ」(詞・大貫妙子/曲・EPO/唄・香坂みゆき)という曲であったと思われる。ニュアンスしましょ という言いまわし自体は、編曲家の信田かずお氏の発案であるとも伝えられる。とにかくこの曲は資生堂のCMソングに使われたため、影響力が大きく、香坂みゆきにとっても最大のヒットとなった。

 この造語法で一番定着しているのは何だろうか。

 多分、?お茶する ではなかろうか。ラジオCMで おしゃれしましょ、お茶しましょ というリズムのいいフレーズを聞いたことがあるが、日常会話でもよく聞かれる。これは、単に「お茶を飲む」のではなく、お茶(コーヒーでもよい)をすすりながらおしゃべりをして楽しい時間を過ごすことが主眼であろう。飲む という動詞ではカバーしきれない概念に、~する の形はスムーズに入り込んだのである。
 意表を衝く表現を使うのはやはりCMであり、
朝マック、しよう というのも お茶する の変形である。しかし、×ケンタッキーする は聞いたことがない。なぜか人はマクドナルドではハンバーガーを食べる以外のことをいろいろするが、ケンタッキーでは長時間滞在や待ち合わせやデートをしない(ぼくは天の邪鬼なので例外だ。他人がいないからこそ落ち着くではないか。二階席のあるケンタに限るが)。従って ケンタッキーでチキンを食べる または 鶏しばきに行く(関西限定) で事が足りる。

 この造語法では、人の属性などの名詞に する をつける場合が目立つ。
 ぼくが大学の附属高校で教えていたころ、ぼくの授業を見学に来ていた教育実習生(大学3年生)の態度に問題があったので、授業終了後に彼らを呼び出して注意した。注意し終わった後、「
うーん、附属教官してるな(笑)」とつぶやいたものだ。教育実習生を指導する、というのは附属校の教官の大きな使命の一つであり、それをしたのはその時が初めてだったからだ。

 この種の ~する は、現代人の病理を反映しているとも言える。
 附属教官してる のように、いかにもその立場らしい、という意味で ~する が使われる。例えば「あいつ、高専生してるな」という言い方ができる。これはおそらく、クラブを途中でやめ、バイトに励み、テストを過去問とカンニングで切り抜け、ぎりぎり進級している奴なのだろう(もちろんもっといい意味の使い方もできようが)。
 この用法については、高校現代文の教科書に載っている渡辺潤氏の『ライフスタイルと浮遊感覚』という評論で(1)のように述べられている。

(1)
 浮遊感覚と同じような意味で使われる言葉に「~する」というのがある。(中略)
 これに対応するのは、もちろん「~ある」という言い方だ。「すること」と「あること」の違い、それは、ちょっと難しい言葉で言えば、行為と存在、外見と中身の違いだということになる。「ある」という意識が、自分にとって本質的なもの、捨て去ることができないものという意味を持つのに比べ、「する」という意識の基盤には、仮のもの、遊びという感覚が入り込む。「主婦している」という言葉には、常識や習慣にとらわれない新しい主婦というイメージのほかに、いつまでたっても、主婦という役割を自分にとって本質的なものと自覚できない頼りなさがある。

 渡辺氏は社会学者だが、表現論の観点からこれを言い換えてみよう。日本語の基本的な構文は三パターンある。

 (2)
 a(何ガ)  ドウシタ  〈
動詞(述語)文
 b(何ハ・ガ)ドンナダ  〈
形容詞(述語)文
 c(何ハ)  何ダ    〈
名詞(述語)文〉。

 後ろの〈 〉内の名前は、ぼくらの世代は中学校で習ったが、現在は教えないので、学生にはなじみが薄いことだろう。
 aの文型は主に一回きりの事態を描写するのに使われる。それに対し、cの文型は主に不変の事理を説明するのに使われる。
私は主婦である。はcだが、私は主婦している。ならaだ。つまり、主婦している教師している学生している は今の状態を言っているのであり、自分の変わらぬ属性は定めていないことになる。ほんとの自分はどこか別にあるが、今はとりあえずこの役を演じている、と思っている、あるいは思いたい心理に、~する の語形がはまったのだ。
 これは、価値観の多様化によって自分の立場にプライドがもてない心理、不況の深化によっていつ今の立場を追われるか分からない不安などが潜在的にあるところから、自己防衛的に今の立場を一時的なものと見なしておきたいところから流行しているのではなかろうか。そうすれば、リストラされても離婚しても退学しても、一時的な役割が終わっただけと考えることで、精神的ダメージがいささかなりとも軽くできる。

 結局のところ、流行語は流行語、日常会話では採り入れてもいいが、講演や論文などの公の度合いが高い文章では、~する はその意味に何らかの変化を内包する名詞を使うのに限定した方が無難だろう。

(以上、平成16年記述)

 
 これについても、サ変動詞化は六年の間に進展していると思う。本文中の例のなかでも、許容度が上がっているものが多いようだ。
 クロールする などは、本文で×としたが、現在では?くらいにしてもいいような気がする。 ストレス太りする寄せ書きする も、?から○に上げてよさそうである。
 また、普及しない、とした ~る の系統で、告る(告白する) や 赤る(赤外線でケータイの連絡先を交換する) なども、若い世代を中心に新たに定着したと言えよう。これは予想外であった。

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 桐島周 2016 勝木書店 定価1500円(税込)
 
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