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2010年8月20日 (金)

再録・流行語対照(6)~ 「〈名詞〉+する」 上

 本来の ~する は、動作性・行為性が高かったり、時間経過やそれに伴う変化をあらわしたりする名詞を動詞化するためのサ行変格活用語尾である。
 動作性のものなら、
散歩する練習する攻撃する など。行為性なら、遂行する読書する勉強する など。変化を伴うものなら、永眠する反応する劣化する、時間経過をあらわす 持続する保管する などがある。動作や行為以外でも、心理上の変化や働きかけが伴うような名詞には自然に する が付いて動詞化する(判明する心配する反対する など)。
 特に、外来語の名詞でこれらの性質があるものは、
サ変動詞化しやすい。原語に動詞形があったとしても、それを採り入れず、日本語の動詞化の形を使う。カモフラージュするマネージメントするコメントするインターネットする などである。

 もちろん、これらの性質を明らかに全くもっていない名詞は動詞化しない。あえてさせると、以下のように奇妙になる。

 ×インド象する・×夏至する・×ブリーフする・×セイタカアワダチソウする・×相対性理論する・×大腸する・×引込線する・×へなちょこ野郎する・×高専する・×フィヨルドする など。これは言えないわけである。

 しかし、サ変動詞になるかならないかのボーダーライン付近は微妙であり、同程度に動作性がある名詞でも、片方はサ変動詞になって片方はならなかったりする。例えば、犬掻きする背泳ぎする は言えても、×クロールする とは普通言わない。なぜかと考えてみると、前二者は 掻き泳ぎ という動きをイメージさせる句が含まれるのに対し、後者は語形からイメージが湧きにくく、動作というよりも技術の一つという感じが強いからではないか。
 しかし、
サーブするスマッシュする なら言える。瞬間の動作だからイメージも具体的で、動作性がより高いのだろう。×打撃する と包括的に言うことはできないが、?凡打する と具体的になれば、言えなくもない。
 こういうボーダーライン上の名詞が、実は少なくないのだ。?
門出する・?作為する・?慰霊する・?大病する・?露払いする・?流し目する・?ストレス太りする・?無茶する・?メドレーする などである。
 この辺になると、もう一つやっかいな問題が絡んできて、日常会話語における
格助詞 の省略だったものが、よく使われることによって一語であるかのように思われるようになってきた、と考えられるようなものがある。例えば、ラジオ体操(を)する は、日常会話語ではを省略する方が普通だろう。この場合の する は活用語尾ではなく、独立したサ変動詞であり、体操する のいわゆる代動詞である。ラジオ体操 という名詞に既に 体操 という動作性の名詞が含まれているため、代動詞にならざるを得ない。しかし、この言いまわしが頻繁に使われると、われわれは ラジオ体操する というサ変動詞であるかのように錯覚してしまい、やがて文章語においても定着するのである。
 今後定着が危惧されるこの種の語には、例えば
巻き舌(を)する(巻く)寄せ書き(を)する(書く)玉子焼き(を)する(作る)お誕生会(を)する(開く)書き初め(を)する(書く)高校教師(を)する(務める)シートベルト(を)する(装着する) といった類の語句がある。

 流行語という観点からみると、語形を簡潔にするために する どころか を外来語などの省略形につけて、?タクる(タクシーに乗る)・?テクる(歩いていく)・?レンタる(レンタルショップで借りる)などのラ行五段活用動詞を作る、というのも静かにはやりつづけている。
 昭和54年には、江川卓氏がドラフト制度の「空白の一日」を利用して巨人に入団したことから、
エガワる(ずるい手を使って抜け駆けする)というのが流行した。抜け駆けしたのは江川氏でなく巨人軍の方だと思われるので、不当な動詞ではある。
 こういう造語法は、形容詞の
ナウい などと同様の発想である。さらに古く戦前からある同種の動詞としては、フランス語の サボタージュ ラ行五段動詞化した サボる があり、これなどはもはや外来語であることを知らない日本人も多く、片仮名で表記されることの方が少ない。これほど現代の日本語に融け込んだ外来語としては、ロシア語の イクラ(魚卵)と双璧をなす。
 しかし、この種の
ラ行五段動詞の語例は少なく、ほかにはあまり思いつかない。語形があまりに簡潔になり、既存の語に埋没しやすい上、語源も分かりにくくなるため、流行語としての面白みがないために、あまりこの造語法が普及しないのだと思う。

 
 それに代わって勢力を強めたのが、先に述べた条件に当てはまらない名詞にでも
 する をつけてサ変動詞にしてしまう造語法である。

(この記事の本文は平成16年記述。下につづく

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