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2010年10月29日 (金)

麺類部豊橋エディション… なのか?

 日本語学会で豊橋に出張となった。

 豊橋といえば、当然卒業生がたくさんいるわけである。最後に担任したクラスの卒業生は、大学四年生になっている。他にも、たまたま就職先が豊橋の近辺である者もいたりするのだが、旧麺類部メンバーが占める割合が偶然にも高い。そこで、とりあえず旧麺類部員の大学生二人に豊橋訪問を予告しておいた。
 たちどころに反応があり、歓迎の意向であったが、学生のことゆえ、どういうことになるかは分からない。

 学会の一日めは午後のシンポジウムだけなので、わたしは豊橋の市電に乗り、「名所」を訪ねることにした。市電の路線は豊橋の駅前から赤岩口という電停までの短い距離だが、途中の井原という電停から運動公園に向かう枝線が分岐する。この分岐のカーブが、実は日本の鉄道で最も曲線半径の小さい、つまり急なカーブなのである。
 鉄道趣味界では極めてメジャーな「名所」なのだが、趣味人以外は、たとえ豊橋在住の人であっても、豊橋にそんな日本一があることを知らない場合が多い。地味な日本一なのでしかたない。
 わたしは日本の鉄道全線に乗ったわけだから、当然井原に来たことがあるし、その時この最急カーブも通った。が、写真などを撮ったことはない。話の種に映像に収めておこうと思ったのである。
 井原で電車を降りてみると、わたしと同じように、カーブをデジカメで狙っている、明らかに日本語学会の出席者とみえる先客が一人いた。片側一車線の道同士の交叉点を曲がるのだから、急になるのも自然で、曲線半径は僅か12メートルだ。法規上認められる最小曲線半径は11メートルだから、まさに苦肉の策としてのカーブである。
 ケータイで動画や写真を撮った後、実際に乗ってみた。前回と同じく、カーブしているというよりターンテーブルに乗っているような、不思議な感覚である。交叉点でそんなにスピードが出ないせいか、ここで脱線事故が起きたという話は聞いたことがない。

 その後、彼の地の大学で開かれた日本語学会のシンポジウムに出席したが、これが方言地理学の基本である周圈論を問いなおす、なかなか熱のこもった議論になったので、非常に面白かった。
 その余韻を愉しみながら、卒業生と待ち合わせている北門に歩いていく。学会の出席者は、皆正門から私鉄の駅に向かうので、部室などが建ち並び体育会の学生らが跋扈する一角を横切って歩く。ブレザーなど着ているのはあたりにわたしだけで、ちょっと恥ずかしかったが、学生会活動の盛んな大学のようだ。学園祭を控えていることもあろう。バンドの演奏も聴こえてくる。大音量のボーカルは思い切り感情を込めていて熱いが、上手くはなかった。

 
 薄暮ながら、麺類部の二人の卒業生とはすぐにお互いを認め合った。夏に同窓会で会ったし、一年半くらいで人の姿形はそう変わらない。わざわざクルマで迎えに来てくれたというので、ありがたく乗り込む。密閉した空間に入ってしまえば、現役当時と変わらない感じで、すぐに時間は短絡した。彼らの家に向かう。
 と言うのも、彼ら二人、それに麺類部ではなかったがやはり高専で同じクラスだったあと一人、都合三人の旧クラスメート同士が、3Kのマンションで共同生活しているのだ。そういう発想には驚くが、確かに生活費の節約にはなるだろう。それに、大学での研究室や人間関係は別々になるのだし、エンジニアとしての彼らのふるさとたる高専の同窓生と一緒に住むのは、日々のストレスを殲滅するうえでも、賢明なことだ。
 そのもう一人の卒業生は、卒研の都合でまだ大学にいる、という。

 マンションに招じ入れられてみると、思ったより狭い部屋だ。よく片づいているが、これは今日朝から大掃除をした結果だそうだ。各人の個室に一応扉はあるが、開放的であり、あまりプライバシーはない。しかし、ゼミやら何やらのスケジュールはまちまちなので、一人になれる時間はそれなりにあるようである。そういうこともあって、破綻もせずに一年半続いている。ボードに夕食と洗い物の当番表が掲げられている。
 パブリックスペースたるダイニングキッチンに腰を下ろし、研究や生活の様子を訊いたりする。高専の卒業生の例に洩れず、英語には苦労しているようだ。ホンヤクコンニャクが遠からず実用化されるそうだから、と科学番組で聞きかじったことを言って、慰めておいた。
 二人が、せっかくだから誰それも呼びましょうか、と近在の同窓生何人かに手分けして電話を架けはじめる。半月も前から約束していたのだから、そういう手配はとっくにしてあるのかと思っていたが、部屋を片づける方に気をとられていたようだ。しかし、多忙な土曜日のこととて、はかばかしい返事がなかったり、留守だったりするようで、結局誰も来なかった。もっとも、仕事の手が離せない、と言った卒業生は後に丁寧なメッセージを寄越し、会えなかったことを惜しんでくれたし、バイト中だった卒業生とは日を改めて会い、じっくり話すことができた。

 さて、卒研に行っている卒業生は、趣味で漫画を描いている。あわよくば、趣味でなくそれで口に糊しようと思っているらしい。それで、部屋に置いてあった、懸賞応募作である短編作品を読ませてもらう。素人のわたしにも、絵が上手いことは十二分に分かる。ただ、ストーリー構成や文脈のはこびには、いろいろまずい点がある。描写の分かりにくさも目につくので、そういうことを指摘しまくっておく。指摘をメモするのはわたしの指では面倒なので、口述して書き取ってもらう。A4の用紙にいっぱいになった。
 お返しというわけではないが、わたしも著書を二人にプレゼントした。

 そうしていると、漫画の作者が帰って来た。帰って来るのなら、本人の前で批評すればいいようなものだが、いないからこそ率直な分析ができたのだし、本人のショックも緩和されて、結局はよかったと思う。
 顔が揃ったところで、皆で夕飯に出ることにする。麺類部員、ことにつっこみキャラの方は、現役時代の拙宅での合宿ではいつも実験的な麺料理を披露してくれていたので、今日も手料理かと期待していたのだが、やはり掃除で手一杯だったようだ。どれだけ散らかっていたのだ。男子学生が集まったのだから、無難なところで焼肉と決まる。

 焼肉屋は込んでいて、当初お目当ての店に入れなかったりしたが、ようやくテーブルが広くてくつろげる店に落ち着いた。が、レジには「クレジットカードは使えません」と貼紙があり、慌てて財布を確かめる。すっかりカードと電子マネーの生活になったので、現金をあまり持ち歩いていないのだ。幸い、このレベルの焼肉屋の四人分くらいの支払いなら、なんとかなりそうだ。
 ここでも楽しく談笑しながら肉や野菜を味わう。三人は同じ大学なのだから、共通の話題には事欠かず、わたしには分からない話も多いし、知らない固有名詞も出てくる。それでも聞いていて面白いものである。
 そういうなか、漫画作者はわたしに、今日の学会の内容であるとか高専の現状であるとか、そういう質問をしてくれる。彼なりにわたしに気を遣ってくれているのだが、元来の好奇心もあるのだろう。漫画家には必要な資質だし、会話のなかでもジョークのセンスを発揮している。麺類部の二人は、片や天然ボケ、片や的確なつっこみ役といったところで、役割分担も絶妙だ。これなら共同生活も円滑だろう。
 わたしも、気を遣ってもらうばかりでは申し訳ないので、ネタ提供とばかりに、今朝撮った市電の動画を見せる。思いの外ウケがよく、ドリフトしてるじゃないですか、などと笑いこけている。せっかくなので、読者にもご覧いただこう。

 まずは、カーブの外側から。これは急さがあまりよく分からないかもしれないが、電車の走る道路としては幅が狭い分岐だということは分かるだろう。 
 

 
 続いて、カーブの内側から。これが卒業生たちにウケた動画だ。 
 

 
 腹がくちくなった頃、天然ボケの方が突如ナチュラルに、
「そろそろどっか行きます?」
と言う。夜も更けた焼肉明けに、「どっか」とは例えばどこをイメージしているのか、と問うと、
「メイド喫茶とか」
と言う。彼だけは一度行ったらしいが、行くにはなかなか決心のいる先だ。
 まるよしくらぶといい、どうもこの頃メイド喫茶に誘われることが多い。他の二人も呆れている。この種の店は、行ってみた後は誰かを連れて行きたくなるものらしい。

 辞退して、またクルマに乗り込み、ホテルまで送ってもらう。
 夜中の間に漫画志望からこれまた丁重かつ笑えるメールが入っていた。わたしの批評は、周囲の学生とは着眼点が全く異なり、大いに参考になった、とのお礼が記してあった。わたしがそういう漫画を読み慣れていないせいかもしれないが、参考になったのなら、幸せである。
 彼らの終わらない合宿は、これからもつつがなく続くことだろう。 

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