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2010年12月 6日 (月)

再録・流行語対照(8)~ 「~っす」

 若年層と言うより、上は三十歳台半ばくらいからみられる表現である。目上、といってもそれほど気を遣う必要がない程度の目上、先輩とか直接の上司といったランクの人に対して使われる。もちろん、学生が教師に向かって使う敬語にも出てくる。男子学生が多いが、女子学生からもたまに聞かれる。また、使う人は使うし、使わない人は全く使わない、というのもこの表現の特徴であり、使う人は、いわゆる体育会的なノリの人に多い(あくまでノリの問題であり、実際に運動部に所属している(いた)かどうかとは関係ない)。

 この ~っす は、語源としては ~です の省略であろう。しかし、敬語の省略というのは自己矛盾した現象だ。敬語というのは、言葉数を費やすことによって相手への厚い待遇を表現するものである。その敬語を省略したのでは、敬語として機能しなくなるではないか。ここが、若年層の複雑な心境の現れなのである。敬語を使わないと申し訳ない、あるいはおっかない相手だが、虚勢を張って突っ張りたい心理も働く。反骨精神は持ちながらも既成の秩序を崩すほどの度胸はない。世のスタンダードな敬語の規範に従いたくはない天邪鬼な心理。その結果が「敬語の省略」というおかしな形式を生むのだ。
 「~する」の項にも出てきた、日本語の三種類の構文それぞれについて見てみよう。全て学生の実際の発話から例文を採っている。

(1) (電話で)どうも~、僕は金髪くんっす。

 というような学生の発話は、まさに ~です に代わるものとして っす が使われた結果である。こういう名詞文(何ハ 何ダ)を敬体にするには、です をつければ問題ない。
 では、

(2) (教室のエアコンの効き具合を先生に訊かれて)涼しいっす。

 はどうであるか。涼しいです という「形容詞終止形+です」表現は、年配の日本人なら、舌足らずな幼い表現だと感じるだろう。
 
形容詞文(何ガ ドンナダ)を敬体にするのは難しい。特別敬体なら、涼しゅうございます と言いかたがあるが、敬体はないのだ。涼しゅう 涼しく ウ音便だから、文法的には 涼しくあります と言ってさし支えなさそうに思える。しかし、実際にはそんな表現は使われない。これでは不便なので、戦後になって口語での文章の書き方を確立するため、涼しいです という表現を使ってよい、と文部省が定めた。この表現も、戦前まではほとんど(少なくとも文章語には)使われなかったのだが、敬体で書くならこれ、と強引に決めたのだ。
 強引なだけあり、文法的な整合性には大いに疑問が残る。
涼しいです 完了の助動詞を付加すると、涼しいでした となってもよさそうであり、実際に学生の作文に使われていたこともあるが、これは認められていない。涼しかったです が正解であるが、なぜか、と問われても、御国がそう決めたから、としか言いようがない。むしろ 涼しくあります を採用しておいた方がよかったのだが、今となってはどうしようもない。ぼくはこなれない言い方がいやで、涼しく過ごしました などに逃げることが多い。
 さて、残るは
動詞文~っす だが、これは単純に ~です の省略では片づかない。また、同様に説明に困るような用例が多々ある。

(3) あ、先生、俺が行くっす。

 行く という動詞述語を敬体にすれば、行きます であって、です は出てこない。なのに、行くっす となるのは ~っす 形式が過度に汎用されているのであり、~っす 形式がもはや単純に ~です の省略形とは言えず、独立した半敬語表現となっていることを示しているかにみえる。
 しかし、これには
です ます を駆逐してきた歴史が微妙に絡む。先述の形容詞文涼しいです の形が採用されたのもその現れである。
 ぼくが子供の頃には、天気予報のアナウンスは、

(4) 明日の午前中は、所によりにわか雨が降りましょう。午後になれば、青空が広がりましょう。

 という調子だった。~ましょう は敬体における推量の形式として普通に使われていたのである。現在ではこの用法はかなり影をひそめ、~降るでしょう広がるでしょう が主流となっている。~ましょう 意志及び勧誘の意味でしか使われなくなった。この四半世紀ほどの間に推量から ます が駆逐されたのである。
 この勢いが
行きます という単純な言い切りにも及んできているのだ。行くです は、もとは山梨県などの一部で方言として使われていた。それが起源かどうかは定かでないが、若年層でじわじわと勢力を伸ばしていった。これをぼくは「タラちゃん化現象」と呼んでいる。

 しかし、考えてみればタラちゃんも二十年ほど前には、サザエさんが出かけようとすると、
ボクも行きます~
 とぐずっていたものだ。最近はすっかり、
ボクも行くです~
 になっている。
 タラちゃんというのは、どういうことば育てをするとああいう言葉遣いをする三歳児ができるのか、言語発達論的に興味深い事例であるが、ともかく過剰に
です をつける。
はいです
 と返事するのを見たこともあるし、果ては、褒められて、
え、へ、へですー
と照れていたこともあった。祖父母・両親・伯父伯母が家に揃っていながら、どこでことば育てを間違えたのだろうか。

 しかしタラちゃんを笑っていられない。~っす を使う人と廊下などで出会った時の挨拶は、

(5) こんにちはーっす。

 だからである。逆立ちしても です が付かないところに使っている。これではもはや敬語というより相手を馬鹿にしているようにも聞こえるから、あまり品がよろしくない。
 もっとも、これは日本人の口元がだらしなくなったため、
の音が終わってからきっぱり口を閉じず、声を伸ばしながらなんとなく口をゆっくり閉じるから、両顎の隙間から息が漏れて に聞こえているだけ、という可能性もある。
 敦賀地区で多人数を二つのグループに分けるとき、

(6) グッパで分かれりゃええもんじゃ。

 と言うのだが、最後に が付く形が近年現れている。これは明らかに じゃ を言い終わらないうちに口をだらしなく閉じるから に聞こえているのであり、に意味はない。
 遊びの時は適当な発音でよいが、目上の人に対しては、しまりのある発音を心がけるほうがよいだろう。

(以上、平成十六年記述)

 数年続いた傾向なので、このまま定着するかと思ったのだが、意外にも、現在ではほとんど聞かれることはない。一時の流行に終わったようだ。
こんにちはーっす
 と挨拶していた若手教員も、ほとんど
こんにちは
 に移行した。学生からもまず聞くことがない。

 平成十六年版の「流行語対照」シリーズの再録は、今回にて終了です。再録だけで終わってもなんなので、続いて現代の状況をふまえた新作を何回か書こうと思っています。

 

※ このカテゴリーの記事のように、まるよしの楽しい日本語の話を満載した本、ぜひお手に取ってお読みくださいね。

 『まるごと とれたて 日本語談義 -ラジオ番組『高専ライブ』で語ることばの話-』
 桐島周 2016 勝木書店 定価1500円(税込)
 
ISBN: 978-4-906485-09-3 
 (桐島周は、まるよしのペンネームです)

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