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2011年1月 8日 (土)

『ちりとてちん』の面影懐かしい『てっぱん』 上

 『ちりとてちん』は、未だに人気が衰えない。本放送終了から三年近くにもなるのだが、なにかと『ちりとてちん』に関する話は聞こえてくる。

 こういうものをバロメーターにしていいのかどうか分からないが、一つの目安にはなると思うので。
 ミクシィの『ちりとてちん』関連のコミュはいくつかあるが、そのなかで最大規模のものは、現在でも約8700人のメンバーを誇る。わたしはそれには参加していないが。現在放送中の『てっぱん』のコミュニティが約2900人であることに照らし合わせると、破格の人数と言えないだろうか。『ゲゲゲの女房』は放送終了からわずか三ヶ月で、これもかなりの人気であったので、約10100人という人数も頷ける。しかし、『ウェルかめ』は約1400人、『つばさ』約1600人、『だんだん』約1400人、『瞳』『どんど晴れ』ともに約600人…(いずれも先月現在の数字)、と並べると、やはり『ちりとてちん』の特異性が浮かび上がる。

 NHKも『ちりとてちん』には手応えを感じたのであろう、その後の朝ドラ、『ちりとてちん』放映中には既に脚本も完成し撮影を進めていた『瞳』は別として、どこかに『ちりとてちん』的な要素を入れていることがみてとれた。『ゲゲゲの女房』については、以前にも記事にしたところだ。
 そのなかで、今季の『てっぱん』は、どうであるか。

 (以下、この色は『ちりとてちん』の、この色は『てっぱん』の、それぞれ登場人物名を示す。括弧内の俳優さんの名は敬称略)

 初回の、ヒロインの祖母田中初音(富司純子)による、亡き娘にしてヒロインの実母千春(木南晴夏・回想及び遺影のみ)の形見であるトランペットの海洋投棄、それを拾うため岸壁から二度も海に飛び込むヒロイン村上あかり(滝本美織)、どうもそこだけを観ると、『ちりとてちん』とは全く違うテイストなのか、と思える。しかし、それはまさに「つかみ」のためのインパクトだったようで、その後を観ていくうちに、これがこれまでの後発朝ドラのなかで最も『ちりとてちん』のムードをよく受け継いでいるな、と思えるようになった。
 夢半ばにうち捨てられた千春のトランペット、練習中に破れてしまった喜代美の三味線、イメージが重なる。海から拾い上げたトランペットは、一旦音楽を諦めかけたあかりがいま一度手にして大阪のブラスバンドに参加するし、三味線は皮を張り替えられて、落語とともに生きる喜代美の、一つの支えとなる。
 就職活動がうまくいかず長引いた結果、高校時代の集大成と意気込んでいた吹奏楽部最後の演奏会に参加できなかったあかりと、皆の練習についていけず文化祭ではステージで三味線を弾くのを断念し照明係に甘んじた喜代美も、相似形である。 

 こうしたさまざまな面でムードの共通性が言えるのだが、まず分かりやすいのは、なんと言っても出演者の重複である。これだけでも十分ムードは似てくる。

 鞍馬太郎役だった竜雷太さんが、あかりの大阪の住まいである初音の下宿屋「田中荘」の近所に住む大工長谷川伝役。
 草々の少年期を演じた森田直幸さんが、あかりの次兄鉄平役(この人はBK朝ドラの常連ともいうべき俳優さんだが、ヒロインの家族という要役での全編レギュラーは初めてである)。
 また、脇役ながら、土佐家尊徳役だった芝本正さんも、「割烹塩村」の主人塩村役として、ゲスト出演した。

 演じる人が同じというだけでなく、人物造型にもかなり共通点がある。
 登場人物たちの多くが、いずれも「本来の自分でない」ような境遇にあったり、生きる途がもうひとつはっきり見きわめられていない、という点である。ヒロインがそうであるのは珍しくないが、周囲の人物も同様である。
 駅伝君こと滝沢薫(長田成哉)は、箱根駅伝のエースであった栄光の過去をもちながら、今は実業団でくすぶり、くさっている。これは、落語の実力は若手随一でありながらいろいろあって高座に上がれなかった初期の草々に通じる。
 鉄平は、一時は家の鉄工所を継ぐ、と決意したが、長兄とのかねあいもあって悩み、家を飛び出して大阪に出て来、あかりの店を手伝っている。これは、草若の名を継ぐのに紆余曲折あって失踪までした小草若と共通する。あかりと実の兄妹ではない、となったときのあかりへの複雑な思いは、今のところ表面化こそしていないが、潜在的にはあるだろうし、後半のモチーフの一つになっていく可能性もある。「血」に悩む点でここでも小草若と通じ合う。
 初音は、故あってかつてやっていたお好み焼き屋を廃業し、二度とお好み焼きを焼かない、と意地を張っていたが、あかりらの奮闘もあり、村上家一同をもてなすため、ついにコテを握る。頑なに、もう落語は演らない、と言っていたが、やがて和田家一同の見守るなか「寝床」の高座に突然上がった草若のようだ。そして、草若の落語を待ち望む磯吉よろしく、初音のお好み焼きを待ち望むがいた。初音が鉄板の前に立ち、
「いらっしゃいませーっ」
 と十八年ぶりに言うのを観るにつけ、あの時と同じような感慨が心を満たす。
 朝ドラでは「復帰」「復活」が定番のエポックになっていくのかもしれない。

 人物造型がこれだけ共通する、ということは、ストーリー構成が似ている、ということでもある。細部は違うものの、大まかな構成が似通っている。
 BK制作の朝ドラは、常に地方と大阪の二カ所が舞台になり、ヒロインやその家族は二カ所を行ったり来たりすることになる。ただ、『てっぱん』における二カ所の関連づけは、『ちりとてちん』のそれとかなり共通している。
 塗り箸の小浜と落語の大阪とが、口三味線の一つでもあり落語のネタでもある「ちりとてちん」でつながる。伝統若狭塗り箸の家の娘が、三味線を持って大阪に出て、落語家に弟子入りする。
 造船の尾道とお好み焼きの大阪とが、鉄板というアイテムでつながる。鉄工所の娘が、トランペットを持って大阪に出て、お好み焼きの名人に弟子入りする。
 あかり初音に弟子入りを頼んだ時、初音がにっこり笑って「お断りしますー」と言ったら、どうしようかと思った。
 ヒロインが大阪に初めて出てきた時に、あてにしていた落ち着き先には、手違いで行くことができず、いちばん行ってはいけない所(清海のマンション/初音の下宿屋)に転がり込む、というところ。ヒロインの親が迎えに来て、ヒロインを連れて駅へ向かうのを、草々が、そして初音が、追いかけて来て引き止めるところ。そんな場面も、よく通じ合っていた。追いかけた動機や心持ちはそれぞれ違っていたけれど。
 初音がかつお節店「浜勝」で料理教室の講師を(あかりの手違いで急遽塩村のピンチヒッターとして)務める話の週は、尾道であかりの養父(遠藤憲一)がインターンシップでやってくる高校生の指導をする、というように、『ちりとてちん』ほど明確なかたちではないものの、尾道と大阪の「シンクロ」もみられる。片方の土地で行きづまった人物が、もう片方の土地に逃げ出す、というのも、両方のドラマに共通する点である。

 尾道のお好み焼きがなかなか受け入れられず、売り上げが伸びずに悩むあかりの姿は、男の世界である落語界に馴染めずウケが悪い、と悩む喜代美に重なる。
 は孫とのコミュニケーションが思うに任せず、やったこともない手料理に挑戦して心を通じ合わせる。やはり苦手の料理を作ることで小次郎との信頼関係を確かなものにした奈津子。作った料理はいずれも肉じゃがである。
 が、自分が孫を預かって面倒をみる、と豪語した時、息子に、
「できるもんやったら、やってみい」
 と悪態を吐かれるが、この科白は、徒然亭一同が自分たちの力で常打ち小屋設立にとり組む、と申し出てきた時に、鞍馬が言った科白とほぼ同じである。こんなところで因果応報だ(笑)。言ったの息子役の俳優さんは、喜代美の小学校時代の担任教師を演じた人でもある。そしていずれも、周囲の人たちの手助けにより、本来持っている以上の力を出し、やり遂げるのであった。

につづく)

(↑解題本『『ちりとてちん』に救われた命』は、平成26年末をもって、書店・Webでの販売を終了します)  

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