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2011年3月 7日 (月)

新流行語対照(10)~ 「欲しい」

 欲しい という形容詞の用法が最近おかしいと感じる。

(1) どうしてもあのポルシェが欲しい。
(2) わたしの気持ちを解って欲しい。

 (1)や(2)はこれまであった規範的な用法である。(1)はモノが対象格にきていて、(2)は動詞述語補助形容詞として付いている。いずれも話者の心情を表している。

 このように、日本語の形容詞は基本的に話者の心情を表すのが基本なので、相手の心情に用いると不自然な文になる。

(3) じゅんちゃん、ジュース欲しい?

 (3)は子供(それも幼児)相手に言うのなら許容されよう。幼児の心情に寄り添って代弁するような表現法(ぼくわたし という二人称で呼びかけるのと同様)である。が、大人に対して、

(4) お茶、欲しいですか?

 と訊くのは不自然かつ失礼である。相手の生の心情に踏み込むことになるからである。

(5) お茶、飲みます?

 と行動勧誘の動詞文にならなければならないだろう。あるいは、「お茶、淹れましょうか?」という行動提案でもよい。
 しかし、昨今は相手の心情を表すのに 欲しい を使う(4)のような文が、さすがに店の人は使わないが、日常会話では増えてきた気がする。

 もう一つの変化は、対象格にくるモノが、有形物にとどまらず、無形物にもかなり汎用されるようになってきたことである。

(6) あなたの愛が欲しい。

 ならまだしも、各プロバイダの質問掲示板などで目にする、

(7) すぐに回答が欲しいです。

 という類の文には、わたしは違和感をおぼえる。(7)が引っかかるのは、欲しい という生の心情の表出をもって、読者への要求表現にしているところを、子供っぽく感じてしまうからかもしれない。「至急ご回答いただければ幸いです」くらいが妥当な表現だろう。やっぱり 動詞文 で描写的になるのだ。
 芸能界のギョーカイ用語的な用法として、

(8) そこにさっきのつっこみが欲しいのよ。(お笑い芸人の楽屋オチ的なネタの言葉)

 などという使い方もある。これも近年新たにでてきたものだろう。
 なお、(4)(7)(8)の各変化タイプが複合した例が、さる人気女優がパーティーのスピーチで言ったという、(9)の文である。

(9) 別に。…これが欲しかったんでしょ?

 「別に」の部分は、それ以前にこの女優が舞台挨拶で言って話題になり、この女優のキャラクターを象徴するようなフレーズとして知られていたものである。従って、この これが欲しかったんでしょ は、「私がこのフレーズを言うことを、みんな期待してたんでしょう」という意味である。なるほどずいぶん簡潔でスマートな言い方にはなっている。

 さて、これらと同じ流れなのかどうか、わたしの身近にいる学生たちの口からさまざまな 欲しい を聞くことも多くなった。

(10) 黒板にも答がほしい。

 (10)は、授業アンケートのコメント欄に書かれていたのだが、簡潔すぎて意味が分からなかった。「黒板にも問題の解答を書いてほしい」という意味だろうか、と首を捻ったが、分からないまま答えてもしかたないので、結局回答はしなかった。目上の人に要望するなら、規範的な日本語を使うべきであろう。
 類例なのかどうかも分からないが、(11)にも驚いた。年度最初の授業で、当然ながら授業の進め方などの説明をするわけだが、その授業が終わってすぐ、教卓に近づいてきた学生がこう言ったのだ。

(11) この授業、ノート欲しいですか?

 何回も訊き返して、どうやら「この授業にはノートを持ってくる必要がありますか」という意味らしいと分かった。が、学生の意識としては、「先生は僕らにノートを持ってきて欲しいですか」ということだと思われ、ずいぶん失礼な表現である。が、これを失礼と感じないところが今の学生なのかもしれない。

 こんなところが 欲しい の新たな使われ方だが、これと類義の、希望の助動詞 たい にも少しずつおかしな用法がでてきている気がする。

(12) 先生、大学院って行きたいですか?(くらぶ生のわたしに対する質問)

 とっくに大学院を修了したわたしに訊く文としては著しく不自然だが、話の流れからいって、どうも「大学院に進学することは望ましいですか」もしくは、「先生は僕に大学院に進学してほしいですか」という意味らしいのである。
 どうもよく分からないが、欲しい の場合と似た現象に思える。

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 『まるごと とれたて 日本語談義 -ラジオ番組『高専ライブ』で語ることばの話-』
 桐島周 2016 勝木書店 定価1500円(税込)
 
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