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2012年1月11日 (水)

今さら「違くない」考

 違くない違かった の類の、動詞の 形容詞(ク活用)化 と言うべき言い回しについては、以前の記事「乱れ初めにし似てるっく」でも話題にした。当記事はそれに補足していくことになるが、もうこの誤用に関しては、世間でも散々あげつらわれているので、今さらあまり目新しいことを言えそうにない。
 にもかかわらず、また記事でとり上げるのは、この言い回しをネタに論文を書いた学界外の人と出会ったからである。その人と喋ったことも、ちょっとメモ的に記しておく。「乱れ初めにし似てるっく」を先にお読みいただけると、ありがたい。

 品詞論的なアプローチから言うと、なぜ動詞のなかでも 違う に限って形容詞型の活用に移行するのか、ということを考えねばならないが、これは、「乱れ初めにし似てるっく」に記したとおりである。

 違くない 違っていない という規範的な言い回しよりも音(拍)数が少ない。また、違かった も同様に、規範的な 違っていた よりも音(拍)数が少ない。発音の省エネ化という方向にむかっているのではないか、という仮説が、当然立つことになる。件の論文は、ツイッターなどWeb上のいわゆるつぶやきのような短文章から用例を拾っている。それらはケータイから入力される場合も多いから、少しでも字数を節約しよう、という意識は当然あろう。
 しかし、この省エネ化説は、あまりあてはまらない、とわたしは考えている。

 記事「どこまで可能なのか」で指摘した、可能 の意味を表す言い回しの諸変化をみてみると、省エネ化に向かっているのはいわゆる ラ抜き だけであって、レ入れ二重可能 など他の現象は、むしろ字数が増えているのである( 使役 サ入れ も同様である)。
 省エネ化があてはまるのは、似ている 似てる と略すような、純粋に音声・音韻上の変化と言えるものだけではないか、と思う。可能 の言い回しや ク活用化 については、文法上の変化なのであり、そういう変化には、省エネ化よりも、体系の単純化という法則が、動機として強く働いているのである。すなわち、文法規則を単純にし、意味と語形とを一対一対応にさせるような方向、そっちに向かうためなら、字や音の数が増えることも、われわれは厭わないのである。
 可能 関連の諸現象で言えば、さまざまにバリエーションのある語形を、れることができる の二種類だけに統合してしまおう、という動きになっている。同様に、ク活用化 についても、状態性を意味にもつ活用語は、極力 ク活用 に統一していこう、という流れにあるのである。

 従って、同じく状態性を色濃く持つ品詞である形容動詞にも、ク活用化 はもう実際に波及しつつある。不思議っくない(へん)くない などといった用例は、わたしも複数回耳にしている。これは今後も拡がっていくと予想される。

 というのも、方言ではそういう傾向が何十年も前から既にみられるからである。
 いわゆる関西弁では、違う という動詞は音韻変化を起こして ちゃう と発音されるが、これを完了にするときの言い回しは、わたしの子供の頃には ちゃうかった になっていた(ちゃうくない とは言っていなかった。それは ちゃわへん だったと思う)。あるいは、綺麗(きれい)という共通語では形容動詞である語も、関西弁では きれい という ク活用 の形容詞として運用される。きれくないきれかった という言い回しが普通にずっと前からある。

 なお、 「乱れ初めにし似てるっく」のコメント欄で展開されている「くない話法」説には、わたしはあまり賛同していない。違くて違かった という形もみられる以上、くない を連語とみなすことには無理があるし、ク活用化 ということで説明はつくからである。
 言語について何か言おうとすると、その事例だけではなく、他の事例との関連や整合性、もっと大きな次元での体系なども視野に入れて多角的に考察する必要がある。
 わたしも、件の研究には今後も協力していくし、折に触れ 違かった 問題を考えていきたいと思っている。今のところ、変換システムでも 違くない 違かった は変換できない。ちょっとほっとする思いもあるが、この記事を書くにあたっては面倒であった。

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