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2012年1月26日 (木)

期待とともに『平清盛』

 この記事が「『ちりとてちん』」カテゴリーに属しているのは、大河ドラマ『平清盛』の脚本が藤本有紀氏だからだ。
 これまでのいろいろな朝ドラの記事と同じく、『ちりとてちん』の「面影」を愉しく探しながら、魅力を語ることになろう。同じ脚本家となれば、面影もふんだんにあることが期待される。
 というよりも、藤本氏の脚本だからこそ、ここ暫く観ていなかった大河ドラマを観る気になったのである。『イ・サン』も欠かさず観ているので、日曜の夜はなかなか忙しいことになるのだが、それだけの価値はあり、実際に『平清盛』は今のところ大変面白い。

(以下、ピンクの文字は『平清盛』の、の文字は『ちりとてちん』の、それぞれ登場人物を示す)

 『ちりとてちん』と同様、今のところ『平清盛』の視聴率は振るわないのだが、けっこう玄人の作り手(例えば坂東玉三郎氏)から高評価を得ている。その一方で、どうもこれを受け付けない、という人も、兵庫県知事を筆頭に少なからずいるようだ。
 このような、毀誉褒貶相半ばする、という傾向は、過去の名作・意欲作と全く同様であり、いよいよ今後に期待がつながる。

 『ちりとてちん』とよく似た構成もいたるところに感じられる。

 オープニングテーマはインストルメンタルであるが、最後のほうに「遊びをせむとや生まれけむ…」という『梁塵秘抄』の有名な歌がメロディを付けて歌われている。
 この歌は、劇中にもさまざまな登場人物の口で歌われて、作品主題につながるモチーフとして定着している。『ちりとてちん』における「ふるさと」(五木ひろし)と同様である。
 
 第三回までを観ただけであるが、けっこう「キめ言葉」のようなもの、それも生き方の根本を示すような言葉が現れている。『ちりとてちん』のように、これも全編を貫くモチーフになっていくのかもしれないが、どの言葉がそうなるのか、まだはっきりとはしない。
 「王家の犬にはならん」という言葉が(平太→)平清盛(前田旺志郎→松山ケンイチ)の口から何度か出るが、結局は 鳥羽上皇(三上博史)の警護役を受け入れる。どのように折り合いをつけていくかも見どころだ。「父上のようにはならぬ」は、そのまま 和田喜代美(貫地谷しほり)の「お母ちゃんみたいになりたくないの」だし、「面白う生きる」となると「おかしな人間があ、一生懸命生きとおる姿はあ、ほんーまにおもろぃ。落語とー、おんなじゃー」という『ちりとてちん』の根底を貫く言葉を思い出す。
 「地面に刺した剣をおもむろに抜く」という動作が重要な場面で繰り返されること、清盛 はじめ、登場人物の出自が丁寧に描かれ、ルーツに根ざした生き方が宿命として人間におぶさることが示唆されること、いずれも『ちりとてちん』と共通で、懐かしさを感じる。 自分が養子であることを知った 清盛 が弟・平次→平家盛(藤本哉太→大東駿介)に対して抱く複雑な思いは、喜代美 がしっかり者の弟・和田正平(橋本淳)に、徒然亭草々(青木崇高)が師匠の実子である弟弟子・徒然亭小草若(茂山宗彦)に、それぞれ感じていたコンプレックスと同種のものである。
 清盛 の実母である白拍子・舞子(吹石一恵)が初回で死んでしまうのも、『ちりとてちん』で 和田正太郎(米倉斉加年)が第一週で死んでしまうことに通じる。正太郎 のようなダイナミックな役割を、舞子 も作品構造のなかで果たしていくのだろうか。舞子 の危機を、彼女を匿っていた清盛の(育ての)父・平忠盛 (中井貴一)は、自分が贈った魔よけのお守りが落ちていることで気づく。こういう小道具の印象的な使い方もまた、『ちりとてちん』を偲ばせる。
 そして、実の父ということになっている白河法皇(伊東四朗)も、第二回で他界している。

 清盛 役が松山ケンイチさん、と聞いて、イメージが合うのかな、と首を傾げた向きも多いと思う。清盛にしてはずいぶんスマートで二枚目過ぎるのではないか、と。それは、従来と異なる清盛像を描き出そうということらしいと、推測できる。
 そこでキーになるのが、この 白河法皇 である。邸宅での豪奢な暮らしぶり、権勢を笠に着た態度、人を人とも思わぬ不遜さ、でっぷりとした体格、坊主頭…、実は 白河法皇 こそが、一般の視聴者の脳内にある従来の平清盛像を体現しているのである。
 これはおそらく、死んだとはいえ、今後も 白河法皇 の記憶と遺伝子とが 清盛 を呪縛し苦しめ続けることを予告しているのではないか。白河法皇 もまた 正太郎 たり得るわけである。恨みの対象である実父にだんだん近づいていく自分と、清盛 がいかに向き合うのか。

 『ちりとてちん』と共通する主要キャストとしては、平宗子 役の和久井映見さんがいる。また主人公の母役(今度は育ての母だが)での出演である。和田糸子 とは全く異なるキャラであるが、この人の演技も楽しみである。

 藤本さんは、このようなかたちで人間なり人生なりを切り出してくる手法に長けているのだな、という理解に達する。が、一年間のドラマであり、先は長い。まだまだどういう展開があるかも分からない。楽しく追っていきたい、と考えている。

(半分ほど放送が進んだ時点での記事「その後の『平清盛』」につづく) 

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