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2012年3月18日 (日)

新流行語対照(11)~ いただけますよう 下

 「いただきますよう」と「いただけますよう」はどちらが正しいのか、ということだけてっとり早く知りたい方は、こちらの記事 へどうぞ!

からつづく)

 「いただきますよう」と「いただけますよう」と、どちらが正しいのか、あるいは、もっと適切な言い方はないのか、という問題について考えていますが、当記事は、いろいろな文法的な検討を施しているものです。
 てっとり早くその結論をお知りになりたい、という方は、結論編の記事をお読みください。そちらに、日本語学者としての一応の見解を示しています。

 この言いまわしの出自は恐らく、既に出た いただきますようお願いします の類と いただければ幸いです の類との混淆によるものであろう。
 前者の例である先の(4)と、後者の例である(12)を並べてみよう。

(4) 今後とも当店をご利用いただきますよう、お願い申し上げます。
(12) 今後とも当店をご利用いただけましたら、幸甚に存じます。

 (4)と(12)どちらもそこそこ通用する文である。この二つの文型が太字のごとくごっちゃになってできたのが先の(2)である。

(2) 今後とも当店をご利用いただけますよう、お願い申し上げます。

 (12)は可能動詞を用いていても、不自然さは少ない。これは、主たる述語が、幸甚に存じます という自分側の心情にとどまっているからである。これが(2)になると、述語が お願い申し上げます と相手への行動要求になるから、先に書いたような矛盾が起きてしまう。
 ご利用いただく は相手の行為が自分に直接利益をもたらす場合であり、この場合に起きる矛盾だ。

(13) 携帯用波動砲がもらえるよう、サンタさんにお願いしよう。
(14) 市民にコミュニティバス「はげたか」を利用してもらえるよう、努力していく。

 はいずれも言える。話が自分側だけだから(お願いするのも努力するのも話し手である)だ。しかし、

(15) ?サンタさん、携帯用波動砲がもらえるよう、お願いします。
(16) 市民の皆さん、コミュニティバス「はげたか」を利用してもらえるよう、ご協力ください。

 と、相手に直接働きかける要求表現にすると、たちまち不自然になる(もちろん、あくまで、携帯用波動砲をくれるのがサンタさん自身であり、コミュニティバスを利用するのが市民の皆さん自身である場合に、不自然なのである。他の文脈なら使える場合もあろう)。

(17) ねえサンタさん、携帯用波動砲がもらえたら、嬉しいんだけどな。
(18) 市民の皆さま、もっとコミュニティバス「はげたか」を利用してもらえたら、市の財政は助かるんです。

 なら大丈夫である。これも自分側の心情・事情として述べているからだ。が、そんなまだるっこしい言い方をしなくても、

(19) サンタさん、お願いします。私に携帯用波動砲をください
(20) 市民の皆さん、奮ってコミュニティバス「はげたか」をご利用ください

 でいいのである。可能の形を使わなければ、要求表現でも自然さは保たれる。 

 
 さて、わたしは「上」の記事で(3)(4)を、それほど違和感がない、と評したが、あくまで「それほど」である。少しはある。(1)(2)に比べればましだが、提出していただく ご利用いただく のような言いまわしには、厳密に言うと問題がないわけではない。いただく という本来は謙譲本動詞であったものを、相手の行為にくっつけて尊敬補助動詞のように使っている、という問題だ。

(21) 私は先輩刺身包丁をもらいました。

 (21)の もらう という動詞を謙譲語にすると いただく となり、文は(22)のようになる。

(22) 私は先輩刺身包丁をいただきました。

 ここで、もらう という行為の為手(して)は話し手自身であろう。だから為手がへり下る謙譲いただく になるわけである。ところが、この刺身包丁は、あくまで「先輩話し手進呈した」ものである。
 つまり、実際に行われた行為の為手は先輩であるはずだが、それを敢えて話し手側の視座から逆さまに表現することになるのが もらう(いただく) という動詞である。ここに為手受け手の混乱が生じる素地がある。

(23) 先輩刺身包丁をくれました。
(24) 先輩刺身包丁をくださいました。

 と言っても、起きている事態は同じであり、(23)(24)の方が客観的にみればより事態に忠実な表現である。しかし日本語は、話し手自身の視座で表現するのが定位の言語である。それで、(21)(22)の言い方も非常によく聞かれることになる。
 ここまでは、本動詞としての いただく の例である。補助動詞にしてみる。

(25) 私は()山田社長借金を肩代わりしていただきました。
(26) 私は()師匠芸名を付けていただきました。

 こうなっても、表現上の為手は話し手自身であるので謙譲語として成立するが、実際の行為の為手山田社長師匠となり、やはり逆転する。

(27) 当部署は()職員各位申込書を提出していただきました。
(28) 当店は()お客様ご利用いただきました。

 も、同様の構文である。(23)(24)のように為手受け手とを入れ換えると、

(29) 職員各位当部署申込書を提出してくださいました。
(30) お客様当店ご利用くださいました。

 となる。

(31) ?職員各位が当部署に申込書を提出していただきました。
(32) ?お客様が当店をご利用いただきました。

 となると、本来尊敬補助動詞を用いるべき所に謙譲補助動詞を使ってしまっていて、明らかにおかしい。(27)(28)と(29)(30)が混淆したのであろう。(31)(32)のような単純な形にすると、おかしさが露になるのだが、ちょっと変形したような文になると目立たなくなるので、つい使ってしまう。実は、(3)(4)もそういう文である。

(3)…をご希望の方は()、○月○日までに申込書を□□係提出していただきますよう、お願いいたします。
(4) 今後とも当店ご利用いただきますよう、お願い申し上げます。

 この種の いただく擬似尊敬用法は、もはや日本人の大半が自然に使うまでに普及しきっているから、今更言っても詮ないことであるし、わたしも時々は使う。
 この普及も、だいたい事情は推察できる。 次のような表現なら、問題はなくなるのである。 

(33)…(当部署、)皆様、ご提出を、いただきました。
(34)…(当店、)皆様、ご利用を、いただきました。

 これらは、提出 利用 を一つの行為概念としてモノ(名詞)化してしまったのである。提出利用 という相手の心がこもった贈り物をもらった、と見做し、これを謙譲表現で言っている。いただくもらう謙譲語として元来の用法で使っていることになり、(22)と同じ構文である。これで格助詞 が省略されると、擬似尊敬と区別がつかなくなる。
 (33)や(34)の言いまわしがあったから、(3)(4)のような本来は誤用であったはずの言いまわしが、生起し許容され普及しやすかったのであろう。
 

 もうお分かりであろうが、(1)(2)を(3)(4)よりもさらに規範的な言いまわしにするには、ここまでの例文にもちょくちょく出たように、くださる補助動詞として使えばいいのである。行為の方向と表現とが合っていて、すっきりする。   

(35)…をご希望の方は、○月○日までに申込書を□□係に提出してくださいますよう、お願いいたします。
(36) 今後とも当店をご利用くださいますよう、お願い申し上げます。

 まあこれでいいのだが、(1)のような内部連絡であれば、

(37)…をご希望の方は、○月○日までに申込書を□□係まで提出してください。

 で十分かと思う。

 では、問題の初めに戻って、これらの言いまわしが是か非か、というところである。以上の考察を総合し、結論を示す。

結論編につづく)

※ このカテゴリーの記事のように、まるよしの楽しい日本語の話を満載した本、ぜひお手に取ってお読みくださいね。

 『まるごと とれたて 日本語談義 -ラジオ番組『高専ライブ』で語ることばの話-』
 桐島周 2016 勝木書店 定価1500円(税込)
 
ISBN: 978-4-906485-09-3 
 (桐島周は、まるよしのペンネームです)

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  http://www.katsuki-books.jp/ (書籍検索から)
 Amazon・楽天などでは購入できません。

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