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2012年3月12日 (月)

新流行語対照(11)~ いただけますよう 上

 「いただきますよう」と「いただけますよう」はどちらが正しいのか、ということだけてっとり早く知りたい方は、こちらの記事 へどうぞ!

 「いただきますよう」と「いただけますよう」と、どちらが正しいのか、あるいは、もっと適切な言い方はないのか、という問題について考えていますが、当記事は、いろいろな文法的な検討を施しているものです。
 てっとり早くその結論をお知りになりたい、という方は、結論編の記事をお読みください。そちらに、日本語学者としての一応の見解を示しています。

 このごろよく訊かれたりして、わたしも気になっているのが、他人に何かを依頼するときの いただけますよう という主に文章で使われる言いまわしである。あんまり意識はしてこなかったのだが、保存してある数年分の職場内での事務連絡メールや通信販売の店からのメールなどを見返してみると、確かに増えてきているようである。
 さすがに年輩の事務職員は使わないが、若手だと当たり前に使っているようだ。店からも同じである。担当者の個性によるのか。

(1)…をご希望の方は、○月○日までに申込書を□□係に提出していただけますよう、お願いいたします。

(2) 今後とも当店をご利用いただけますよう、お願い申し上げます。

 といった使い方である。
 こういう連絡は内容を理解すればそれでいいから、あんまり熱心に読む部分ではなく、気にとめていなかったのだが、改めて見ると、やはり違和感がある。その違和感には、いろいろな問題が絡んでいるようなので、自分のためにも整理してメモしておきたい。

 わたしが注意をはらわなかっただけで、もう十年以上も前から蔓延していた言いまわしのようで、平成12年には国立国語研究所が、「言葉に関するFAQ」の回答として、既に見解を出している。

 http://www6.ninjal.ac.jp/kotoba_faq/260.html

 まあ、この回答に尽きる、と言ってしまえばおしまいである。さしたる異議はないが、この回答は配慮のあまり判断を曖昧にしているかに思える。
 いただけますよう は使っていいのかどうか。もう少し詳しく文法的な検討を加え、最後にもう少し踏み込んだ判断を示してみたい。結論だけ知りたい方は、結論編をお読みくださいますよう。

 言葉には、元来誤用であったものが、広く普及してもはや是正のしようもなくなってしまったために、制度側が根負け(?)して規範に含めてしまう、というケースも少なくない。
 昔で言えば、(あらた という形容詞が発音のしやすさから (あたらしい に変化して(あたらを駆逐してしまった、という例もあるし、最近だと 込む という動詞がある一定の用法において 混む と誤記されることがあまりに多くなり、とうとう常用漢字音訓表でも の字にもともと無かった こ(む) という訓読みを付け加えるに至った。用言活用の音便形なども、古典語ではバリエーションだったものが現代語では規範になった。
 ことばはそのようにして変わっていくものなのであろう。

 いただけますよう も、おそらくその途上にある、ということのようだ。ただ、この言いまわしは、他に言い換えができるわけで、わざわざこんなあやふやな綱渡りをしている言いまわしを使わなくても、と思うし、わたしは使う気になれない。

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(写真は、「いただけますよう」が実際に使われている例。さらに、この「混み合う」は、本来「込み合う」の誤記だったはずがいつの間にか正しいとされるようになった用法の例である) 

 いただけますよう がおかしい、と考える人が、より規範的であると見做す言いまわしに、いただきますよう がある。

(3)…をご希望の方は、○月○日までに申込書を□□係に提出していただきますよう、お願いいたします。
(4) 今後とも当店をご利用いただきますよう、お願い申し上げます。

 なるほど、これならわたしもそれほど違和感がない。

 ところが、いただきますよう の方により大きな違和感を覚える人もいるらしいのである。それだけ いただけますよう が普及してしまった証でもあろうが、こういう人は、いただきますよう に押しつけがましさや冷淡さのようなものを感じるかららしい。わたしは全く逆で、いただけますよう の方にこそ押しつけがましさというか、不躾さを感じる。いろいろな言語感覚があるものである。

 いただきますよう に押しつけがましさがあるとすれば、それは次のような いただきます の用法から類推される語感ではないだろうか。

(5) 健康診断を欠席された方には、保健所にて自費で検査を受けていただきます
(6) 無断で駐車した場合、罰金一万円いただきます

 一応敬語(丁寧語または謙譲語)が使われてはいるのだが、有無を言わせず行動を要求するニュアンスのときに いただきます がしばしば使われるのである。(6)の いただきます は、申し受けます にも言い換えられる。
 たしかにわたしも、メールでそういうのを使ったりすることがある。

(7) 一年間ご連絡がない、ということは、会費ご請求のご意志がない、ということかと存じますので、甘えさせていただきます。ただ、小生の退会処理だけはしていただきますよう、伏してお願い申し上げます。

 とこれはある学会の事務局にわたしが実際に送ったメールの文面だが、(3)と(5)の両方の用法を使っている。もちろん意図して慇懃無礼に書いたのであるが、このようにやや皮肉・厭味を込めて宣言するようなときに、いただきます がしっくりハマるようである。

 いただきますよう に押しつけがましさを読み取る人は、いただけますよう可能の形にすることでそれが緩和されると感じるらしい。
 が、これがわたしにはよく分からないのだ。わたしはむしろ、そうすることでぞんざいさが増す、と感じるからである。可能の形で行動要求をするのは、例えばこんな感じのケースである。

(8) ○月○日にはレポートを出せるよう、準備しておきなさい。
(9) クラス全員進級できるように頑張れ。

 これは、教員であるわたしなど日常的に使う言いまわしであり、要するに目下に向かってこそ言えるものなのである。能力を下にみてさし支えない相手に対して、その行為ができるかできないか覚束ない、という暗意のもと使う。だから、学生に対しては使える。
 だが、保護者に対しては決してこんな失礼な言い方はしない。

(10) 保護者懇談会の日時希望票をご記入のうえ、学生さん経由でご提出(× 提出できるようにして)ください。
(11) 今年度も、学級運営へのご協力を賜り(× 賜れ)ますよう、お願いいたします。

 などとなる。

 (1)の場合は、対等だが一応相手をもちあげた(目上扱いした)言い方であり、(2)の場合は明らかに客である相手を敬わねばならない。だから、可能の形を用いた行動要求は不自然である。
 いただけますよう は敬語になっているのだから、目下でなくても使えるのではないか、と思うかもしれないが、いただく という動詞が(擬似)尊敬補助動詞として使われているだけであって、可能の形であることには変わりがない(擬似尊敬については後述)。
 だから、(1)のように言われると、「おまえ(たち)にはどうせ期限どおり提出する能力はないだろうが、努力して早くできるようになれ」というような暗意が読み取れてしまうことになる。(2)に至っては、「あんたはんにそれだけの財力がおすやどうや知らしまへんけど、早うウチの店の常連になれるだけのステイタスが身につかはったらよろしなあ」とまあ、これはちょっとデフォルメしすぎなのだが、大げさに言えばそんな感じを受けてしまう。
 可能の意味は、事態に関して言っていれば、「その事態が起きる(神のみぞ知る)可能性の高さ」を指すが、人に対して使うと、「その人の能力」を指すことになってしまい、立ち入りすぎる結果になるのである。
 (8)(9)の可能動詞を尊敬語にしてそれぞれ お出しになれる 進級なされる などとしたら奇妙な文になることでも、そのぞんざいさが分かる。同様に(1)(2)は、可能の形による目下扱いと尊敬語とが矛盾している点で、いよいよ不自然な文だ、ということである。

 では、この いただけますよう という妙な言いまわしは、どうやって生まれたのか。

につづく)

※ このカテゴリーの記事のように、まるよしの楽しい日本語の話を満載した本、ぜひお手に取ってお読みくださいね。

 『まるごと とれたて 日本語談義 -ラジオ番組『高専ライブ』で語ることばの話-』
 桐島周 2016 勝木書店 定価1500円(税込)
 
ISBN: 978-4-906485-09-3 
 (桐島周は、まるよしのペンネームです)

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