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2012年9月17日 (月)

外来語と誤解された言葉

 学生の作文を読んでいると、妙なところがカタカナで書いてあったりする。単なる修辞であればいいのだが、どうも和語・漢語である単語を、外来語と思い込んでいるらしい例が散見する。漢字表記を教えてやると、異様に驚く。
 特に憂いているわけではなく、面白いのでメモしてあった。いくつかご紹介しよう。大抵は英語からきた言葉と思い込まれているようで、架空の単語には推定スペルを添えておこう。

1.エンジン (engine)
 体育祭の応援のことを作文に書いたりするものだから、一番よく見うけるのがこれである。みんなでエンジンを組んだ。という文になる。団長の「おーし、円陣!」という号令のもと、輪になって気合を入れたりするものだから、気持ちに エンジン をかける、という意味だと誤解するのであろう。いちいち朱ペンで修正する。
 応援というと、あの フレー フレー という掛け声も、微妙なところだ。一般にも昔からこういう片仮名表記が普通になっている。あれは 奮え 奮え でなければならぬと思うのだが。実際各地の学校の応援歌の歌詞を検索すると、今でもそうなっているところが少なからず。もっとも、これは英語の hurrah が語源だという説もあるそうだ。しかし、発音にせよ状況にせよ、どうもそれは無理があるとわたしには思える。実際がどうなのかは分からない。明治の旧制高校か専門学校あたりが発祥なのだろう。どこかに記録がないものか。

2.スケット (推 sket)
 バイト先の店やチェーンによって符丁が異なるらしいが、応援要員のことを、こう呼ぶ店があるようで、ときどき学生の作文に出てくる。ヘルプ と呼ぶなら外来語なのだが、助っ人 という古風な語を使っているのだ。しかし、これを字で書くことはまずない(もしかすると店のメモなど字で書くときも片仮名なのかもしれない)ので、語の響きから外来語だと思い込むようである。
 『SKET DANCE』(スケットダンス)という漫画があるようで、このなかで高校生が結成している部活が「スケット団」というものだが、これも人助けをするのが活動内容であり、助っ人 からきた名前だ。そしてわたしがこの用例を作文で初見したのは、この漫画の連載が始まる前だから、これの影響ではない。

3.ハーク (推 hark)
 ○○先生は、学生のことをよくハークしている。という文で出てきた。一瞬何を言っているのか分からなかった。
 授業アンケートには、教員は学生の理解度を把握していた という質問項目もあるのだが、あまり浸透していなかったようだ。

4.ソーダ (soda)
 これは ソーダ室 という複合語で出現した。船の中に炭酸水を貯蔵しておく部屋があると思ったのだろうか。あるいは、操舵 を意味する外来語と信じていたのだろうか。
 まあ、わたしもえらそうなことは言えない。宗田鰹 sodaカツオ だと思っていた時期があるのだ。
 他にも、コード成長 と書いていた学生がいる。code が成長すると、かなり 高度 なものができあがりそうだ。あるいは、ギターが上達したのだろうか。

5.バータリ (推 vertaly) 
 これも、場当たり(的)のことだと気づくのに時間がかかった。こういう語を聞きかじると、自分でも使ってみたくなるのは分かる。

6.シップ (ship)
 保健室へ行ってシップしてもらった。
 これは単に 湿布 という漢字が書けない、あるいは書くのが面倒だから片仮名にしたのか、と思ったので、本人に確認してみると、
「肌に貼るから スキンシップ だと思ってました」
 と斜め下25度くらいからの答が返ってきた。-ship という英語の接尾語の意味自体を分かっていなかったようだ(もっともこれがまた意味が広範にわたるので、捉えにくい)。
 そういえば、わたしは 言い出しっぺ の語源が leadership だ、となぜか確信していた時期がある。思考や概念操作は、言語に裏付けされるものだから、今だにわたしは、発案者こそが皆を引っ張っていくべきだ、という価値観をかすかながらにもち続けている。

7.ボート (boat)
 もう少し小さな船にも誤解がある。これは 暴徒 という言葉である。暴徒と化した群衆 などという音声とともに、海の津波のような人の流れが映るために、なんとなく縁語で船が浮かんでしまうのかもしれない。
 作文では、僕はボートと化した と書いた後に、威勢よく口喧嘩・口答えするような様子が描写されている。これは多分、モーターボートのような勢いで他人に突っかかるイメージなのであろう。

 
 こういうふうに並べてくると、どういう単語が外来語と誤解されやすいか、という傾向がみえてくる。
 意味的には、日常会話に出てくるような語ではなく、文章語である。学生に普段馴染みのない、ちょっと難しそうな言葉で、そういう言葉には実際外来語が少なくないから、類推してしまうらしい。
 そして音韻的には、長母音なり、無声子音が絡んだ促音なり、そういう日本語(殊に和語)にとってはやや破格気味の音が含まれる語である。
 キッキン(喫緊)とか トッカン(突貫)とか ジャック(惹句)とか シー(恣意) もそういう意味では危ないが、そんな言葉を使いこなせる学生は少数であり、そこまでの語彙を有する学生なら、言語感覚もしっかりしているはずで、まあ誤解が生じずに済んでいるらしい。

 あるいは、外来語ではないのに片仮名表記されることが社会一般で多くなっている語が、外来語と誤解されることもあるようだ。
 わたしが試験問題に 括弧 という語を用いたところ、カッコ に漢字があることを知らなかった、と言った学生がたくさんいた。その多くは、囲う からきた語だと誤解していたのであるが、なかには、いつも片仮名だから英語だと思っていた、と言った者もいた(推 kackau)。あるいは、この カッコカッコいい カッコつける などと同源だと思っていた者もいる。なるほど 恰好カッコ の方が、長母音が省略されている分、応用的である。
 セリフ が外来語だと思っていた者もいる(推 serlief)。これも 台詞 にしても 科白 にしても熟字訓のようなものだから、漢字が浮かびにくく、片仮名表記が多いためだろう。

 専門用語や学術用語などになると、類例が多いかもしれない。
 わたしも学生時代、よく調べもせずに、耳で聞きかじっただけの国語教育用語をレジュメに使い、タイナー詩 などと書いて大恥をかいたことがある。どこかの国のタイナーさんという教育学者か詩人が提唱した詩作法なのだろう、と漠然と思ったのである。
 しかし実際は、作文入門期である小学校低学年の子どもに、その願望を素直に表出させることで詩にする、というものである。文末が「~したいなあ」となる文を重ねて詩にするわけで、従って たいなあ詩 と通称されている。「せんせい、あのね。」で始まる あのね作文 のような素朴な用語だったのである。

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 『まるごと とれたて 日本語談義 -ラジオ番組『高専ライブ』で語ることばの話-』
 桐島周 2016 勝木書店 定価1500円(税込)
 
ISBN: 978-4-906485-09-3 
 (桐島周は、まるよしのペンネームです)

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