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2013年7月30日 (火)

「港町十三番地」歌碑

 東京に出かけたついでに、京急大師(だいし)線の港町(みなとちょう)駅に寄った。ここに美空ひばりさんの歌碑ができた、と聞いたからである。

 わたしは、美空ひばりさんを愛好するような世代では全くないのだが、なぜか惹かれるものがあった。一時、具体的にはひばりさんが亡くなって暫くした後だが、貪るようにひばりナンバーを聴いていた時期がある。

 幼稚園に上がる頃には美空ひばりさんはもう円熟期にさしかかっていたのだが、その時期には特に興味を惹かれなかった。それどころか、怖がっていたのである。ひばりさんと都はるみさんがテレビで歌うと、わたしは泣いていた。
 はるみさんの方は、あの独特のうなり節がいやだったのだと思うが、ひばりさんはどうなのだろう。あの全霊の力を声に込めて投げられてくるパワーを子供のわたしはまだ受け止めきれなかったのではないだろうか。その当時のわたしが愛好した女性歌手は、何といっても水前寺清子さんであった。

 しかし、長じるにつれて、その類稀な歌唱力と表現力に魅せられていく。わたしは以前の記事にも書いたとおり、歌手の年齢とか全盛期がいつだったかとか歌のジャンルとか、そういうことは好悪の決め手にはしなかった。いい歌は誰のいつのどんな歌でもいい。そう思っているから、ひばりさんの歌は文句なく心に響いてきたのである。
 なかでも、時代に妥協したような中後期の歌ではなく、まさにひばりメロディというべき、初期のヒット曲にこそ大きな魅力がある、と感じた。「東京キッド」「花笠道中」「リンゴ追分」といった一連の曲である。そういう流れのなかにあるのが、「港町(みなとまち)十三番地」である。今回の歌碑に採られた曲なのだ。

 なぜここに歌碑が設けられるのか。それは、ひばりさんが所属した日本コロムビアの工場がこの地、港町にあったからである。そして、「港町十三番地」の曲名は、この港町界隈をイメージして付けられたものなのだそうだ。

 京急川崎駅から大師線の電車に乗って一駅である。ずいぶん急カーブの多い線路を徐行運転して、二分ほどで着く。
 歌碑は、駅の改修工事に伴って設置されたものである。大師線は地下化することが予定されているのに、駅に手を入れるのは無駄なようにも思えるが、地下駅の入口にも転用できるように考えてあるのかもしれない。

 支線の小さい駅なのに、対向式ホームのそれぞれに面して改札口がある。下り電車が発着する北口側は、裏口の扱いのようである。
 ここのごく狭いコンコースらしき空間に、「レコード発祥の地」という説明パネルが貼られている。
 

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 一応きちんとした構えになっている北口だが、周辺は閑散としていて、マンションが数棟建つのみである。再開発の最中らしい。
 

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 踏切を渡って反対側に回る。南口がメインの改札で、ここには駅員も配置されている。
 こちらの壁にあるのが歌碑である。日本コロムビアがあった頃のセピア写真を背景に、ひばりさんの等身大像とレコードジャケットなどがあしらわれている。
 

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 改めて改札を入って上りホームに立つ。向かい側、下りホームの壁が見えるが、ここには「港町十三番地」の楽譜が描かれている。

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 やがて、上り電車が近づいてきた。電車接近を知らせるメロディはやはり「港町十三番地」だ。ここまで徹底されると、毎日乗降する地元の人は食傷ぎみになるかもしれない。だが、ひばりさんやこの曲の愛好者には嬉しいことである。

 実は、歌碑部分を含め、この駅の改修にあたって内外装を総合的にデザインしたのは、プロの建築士ではなく、京急に勤める二十歳台の女子社員なのだそうだ。
 この社員は高専を卒業して大学の建築学科に編入、さらに駅のデザインをしたいがために鉄道会社への就職を目指した、という変わり種で、ついに念願かなったというわけである。

 こんなことでもないと乗りに来ない大師線に、乗りつぶし以来の乗車を果たしたことも、愉快であった。前に乗ったときのことはほとんど覚えていない。
 
 折しも花祭りを盛大に行っている川崎大師に向かう人で、車内は混雑していたが、意外に多かったのが外国からの観光客であった。わたしの目の前には白人青年の派手なタトゥーを入れた背中があったが、電車が揺れて肩がわたしに触れると、青年が振り向いて「Sorry, sir」と小声で言った。

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