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2013年8月27日 (火)

お元気な松之助師匠

 落語を生で聴く機会を重ねるなかで、笑福亭松之助師匠の高座を一度聴きたい、と熱望してきた。
 松之助師匠は、自分でも自虐的に言うとおり、「明石家さんまさんの師匠」として知られる方である。そして、今年米寿を迎えた、上方落語界の最長老でもある。

 そういうお歳なので、失礼ながら、今のうちに聴いておかなければ、高座を引退される日がくるのではないか、という懸念もあった。
 吉本興業の彩図でスケジュールを確認し、昨年のなんばグランド花月の出番に合わせてチケットを取って出かけたのだが、残念ながら当日体調不良で出演キャンセル、となっていた。お歳のこともあるし、しばらくブログの更新(ブログを書いておられるのだ!)がなかったこともあって、大いに心配したが、その後回復されたようである。
 それで、この夏、やっと念願かなってなんばグランド花月の舞台を二回にわたって観ることができた。

 なんばグランド花月では、一人(組)の出番は十~十五分程度しかない。落語家が出ても、落語のネタをじっくり聴かせる時間はなく、せいぜいサワリか導入部分をちょっとやる、あるいはネタは演らずに漫談だけ、という場合も多い。
 ネタをきちんと聴きたければ、天満天神繁昌亭に出かけなければいけない。

 松之助師匠も、ご多聞に洩れず、漫談であった。膝を悪くされて正座ができない、とのことで、高座に座布団ではなく、小さなテーブルと椅子が用意された舞台に、ゆっくりと歩いて出てこられた。
 「えー」「うー」等と言っている時間が長く、それが歳のせいなのか芸としてなのかよく分からないところも面白い。「こない言うてるうちに時間が過ぎます」などとセルフツッコミして笑わせる。
 こういう笑いは、若い世代や子供には分かりにくいので、大爆笑にはならない。ぶつぶつぼやきながら語っていくリズムには年輪を感じる。
 ぼそぼそと小さな声でのつぶやくような語りながら、吉本興業やテレビ番組や世相や、いろんなことに対する批評は毒舌で、またシュールである。落語家でしかもご老体となれば、柔和な顔で愛嬌ふりまいて喋るさまを期待してしまうが、そんなことはなく、しかめっ面でどぎついことを言う。それがまた面白いのである。

 ギャグのシニカルさや毒は、まさに明石家さんまさんが受け継いでいる路線でもある。師匠とはいいながら、松之助師匠はさんまさんにかなり自由にさせたようである。だから、従来の型にはまらぬさんまさんの芸風が醸成されたのだろう。師匠自身も、落語家でありながら、吉本新喜劇に出演して座長まで務めるなど、自在な活動をしてこられた。笑福亭一門は基本的に松竹芸能に属するのだが、そのなかで独り吉本で活動したのである。
 そういうこともあって、落語家としての評価は、同世代のいわゆる四天王に比べて高いとは言えないのだが、重鎮の座に安住しないところがまた師匠の芸風なのだろう。
 わたしが、数多い上方落語家のなかでも、特にこの松之助師匠の高座を見たい、というのも、その芸風に共鳴するからなのだ。

 さて、師匠の漫談は、一応まとまったネタらしきものに入っていった。このなかでは、それまでのぼそぼそした語りから一転、ギョロリと眼を剥いたり張りのある声でメリハリつけたり、と見応え・聞き応えの十分あるものに変わった。思わず引き込まれる。
 しかし、サゲの部分はまさに、ぼそ、と言うだけであった。聴き取れなかった客もいたのではなかろうか。このときの笑いも、微妙なものに終わった。
「やっぱりあかんやないか」
 と自虐的な調子に戻って、これの方が大きくウけた。
「ほんなら、次はとっておきの話をさしてもらいます」
 と期待させておき、袖の方に視線をやって、
「え、…、もう時間やそうでございます」
 ゆっくり椅子から立って去って行った。大きな拍手が師匠を送った。

 やっぱり観てよかったな、と思う。このおもろさが分からん人もいるのだろうとは思うが、わたしは満足であった。
 歳を感じさせず新しいことへの挑戦を続ける松之助師匠の芸を、これからも見つづけたいものだ。 

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