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2013年12月27日 (金)

的外れな批判的ホテルレビュー 下

「的外れな批判的ホテルレビュー 上」からつづく)

 シティホテルとビジネスホテルの混同の例は、枚挙に暇ない。次もそんな例である。都内の外資系ラグジュアリーホテルのレビュー。

 部屋で喉が渇いたとき、飲み物をルームサービスにいちいち頼まないといけないのは面倒なので、自動販売機を設置してほしい。

 馬鹿も休み休み言ってほしいものである。
 一流のフランス料理店に対して、「ワインをいちいちソムリエに注がれたりテイスティングしたりするのが煩わしいので、ドリンクバーを設けてほしい」と言っているようなものである。そういうサービスが好みなら、そういう店に行けばよい。ホテルも同様で、ホテルマンが部屋まで届けてくれるよりも自分で買いに行く方がサービスとして好ましい、というのなら、シティホテル利用には向かない。
 もっとも、この人は二十歳台の女性で、上京してきた母親のために一世一代の奮発をしてこのホテルに泊まった、ということのようである。微笑ましくはあるが、ちょっと考えて投稿すればどうかと思う。
 ホテルは、ご意見ありがとうございます、サービス改善のため検討させていただきます、などと返事していたが、もちろん検討などしないだろうし、してほしくない。

 わたしが今までいちばん困ったなあ、と思い、またいちばん笑いもしたのは、以下のような投稿である。

 先日泊まった時、部屋のクローゼットにコートを忘れたままチェックアウトしてしまった。後から気づいたが、どう考えても忘れたのはホテルしかあり得ないので、ホテルから連絡があるだろうと思って待っていたが、全くなかった。痺れを切らしてホテルに問い合わせると、預かっている、という返事だった。あると分かっているなら、なぜ連絡をくれないのか。もし私が問い合わせなかったら、コートはネコババするつもりだったのか。

 客が忘れ物をしていても、絶対にホテルの側から連絡はしない。その代わり、どんな小さな紙切れ一枚であっても、飲みかけのペットボトルであっても、明らかなゴミ以外は全て一定期間保管している。
 こんなことはホテルサービスの基本だろう。テレビなどでもよく紹介されている。たとえビジネスホテルであっても、客がそこに宿泊したという事実をホテルの側から明かすようなことはしないのが鉄則である。
 しかるに、この客、五十歳台の女性なのだが、このようにお怒りになっている。

 ホテルに質すと、「お忍びで泊まっている方もいらっしゃいますから」という答えだった。開いた口が塞がらない。

 開いた口が塞がらないのは当方である。ホテルの側から連絡しない理由は、まさにこれだからである。そういう想像が働かないのだろうか。
 わたしだって同様のケースでやたらに連絡されては困る。常連になっているホテルでは、ありがたいことに、前回の忘れ物を次回の宿泊時に部屋に置いておいてくれたりもした。もちろんこれは前回次回ともに一人での宿泊だったからできることである。
 続く記述には思わず噴き出してしまった。

 私がお忍びで泊まっていると思ったのか。私の服装や立居振舞いを見てお忍びなんかでなく堂々と泊まっていることが分からないのか。こんな失礼なホテルには二度と泊まらない。

 
 お忍びの泊まり客は、「目立たないように」黒っぽいコートの襟を立てサングラスをかけて、あたりをそわそわ見回しながら歩いている、とでも思っているのだろうか。ドラマ『HOTEL』の見過ぎである。五十有余年の人生、平和に平凡に生きてこられた主婦なのだろうが、それにしても世間知らずに過ぎる。
 「お忍び」の事情は不倫や犯罪ばかりではない。わたしは、遠方の親戚の法事に出席するときなど、現地のホテルに前泊することがある。足腰の弱った老夫婦しかいない家に泊まっては負担をかけるからだが、そういう水臭いことをしたと先方に知れたら、傷つけてしまうことになるので、ホテルに泊まったのは内緒である。
 それ以前にこの女性の書き込みからは、自分のした忘れ物について、恥ずかしいとか、取り置いてくれてありがたいとか、そういう気持ちがまるで伝わってこない。そんなに大事な物なら、自分から探す行動を起こすのが普通だろう。普段、欲する物は黙っていても手許にやってくる、そんな生活をしているのだろうか。家庭では邪智暴虐の女帝としてご主人やお子様方の上に君臨しているのかもしれない。しかし、それは家庭を一歩出れば通用しない地位である。
 これに対しても、ホテルは丁重に謝っている。ホテルに少しも落ち度はないのだが。二度と泊まらないのはご勝手で、これを「失礼なホテル」として退けるなら、世界中どこのホテルにもお泊まりになれないことになる。

 わたしも、ホテルのサービスに不満をもったり不快になったりすることはある。その場合、わたしはその場で申し出て解決するか、部屋に備え付けのブルーレターを使って指摘する。それで十分だからである。
 なんでそんなことをわざわざWeb上に書く必要があるのか、分からない。 

 こういうホテルであることをこれから泊まろうとする人に知ってほしくて書きました。

 などと、もっともらしい動機が記してあることもあるが、詭弁である。たまたま行き違った個別の不幸なケースについて、大いに感情的バイアスがかかった文章を読まされても、参考にはならない。

 このブログにもホテルに関する記事を書いているけれど、褒め言葉ならいくらでも書くし、マイナス面もできるだけ事実のみを伝えるようなかたちで、感情に走ったり中傷になったりせぬように気をつけている。責任をもちきれないからである。
 わたしはホテルのサービスが洗煉されていってほしいし、自分もホテルユーザーとして成長したい。そのためには冷静なやりとりが必要なのだ。

(了)

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 (桐島周は、まるよしのペンネームです)

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