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2014年5月 6日 (火)

ミュージカル『ホンク!』(サッコ出演)上

 サッコさんも、昨年の『フットルース』を終えた後、また機会があれば、オーディションから受けてでもミュージカルをやってみたい、と話しておられたのだが、それがこんなに早く実現するとは思わなかった。しかも今度は、請われて準主役級での出演である。やはり『フットルース』での好演が評価されたのだろう。

 しかし、その作品が『ホンク!』という、「みにくいアヒルの子」をベースにしたものだ、と聞いて、ちょっと複雑な気持ちになった。
 なぜなら、わたしは「みにくいアヒルの子」の話が大嫌いなのである。生まれついての見た目でひとを判断し蔑んではいけない、というのはそのとおりだと思うが、結局白鳥という高貴な出自だったと分かり美しい外見を手にしたからOKなのか、と思うと、純粋な庶民には救いがないし、格差社会でのアヒル差別に帰結しているではないか。なんとも空虚な話である。

 そうはいっても、サッコさんが出演するとあれば、観ないわけにはいかないだろう。そのような原作の嫌な点が、どのように処理されているかも、興味をそそられる。
 わたしは、自分のスケジュールを勘案し、4月19日(土)と20日(日)の公演を鑑賞することにした、というか、それしか選択肢がなかった。が、この二回を選択したことは結果的には大正解だったと後で分かることになる。

 19日夜の公演で、初めて博品館劇場に入った。

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 ここの受付でチケットを受け取ることになっていたが、マネージャーさんが不在だったので、とりあえず仮のチケットをもらって入場した。知っている顔は見あたらない。遠隔の隊員は、次の週に来る人が多いようだ。
 ロビーには、ひまわり隊からのお花も飾られている。物販コーナーにはサッコさんのCDがあり、『ホンク!』特別版のサイン色紙もおまけにつくのだが、係員がいないので、これは後で求めた。色紙には舞台衣裳を着てポーズをとるサッコの写真が入っていた。

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 会場内に入ってみると、こぢんまりした劇場である。この方が出演者との距離が近くていいかもしれない。それに、そんなにぎっしりとは埋まらなかった。

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 後からマネージャーさんが席までチケットを届けに来てくれ、他の隊員と並びの席に移らせてもらった。

 さて、せっかく二回観るのだから、一回めは何の先入観もなく臨むことにしよう。プログラムも買わない。ベルが鳴って、ロビーで話していた人も席に着く。
 ケータイやストロボに関する注意が、既に作品世界に入ったおどけた口調でなされる。だんだんと引き込まれていくしくみである。

 以下、文章の冗長を避け、出演者名その他敬称略とします。ご諒承ください。

 幕が開いて、最初はお父さんアヒルの ドレイク(池田紳一)の独唱でプロローグの曲「とりとめのない鳥の話」が始まり、次々とキャストが加わってくる。ドレイクの妻 アイダ(伊藤咲子)も紹介される。
 この曲のタイトルが象徴するように、劇中の科白や歌詞には、親爺ギャグのような駄洒落が多用されるのである。つまり、全体がコメディ仕立てになっている。これも大事な要素である。
 衣裳は、それぞれの鳥を連想させるような形と色合いではあるが、鳥そのものの扮装はしていない。それでも、劇が進むにつれて、どんどん鳥に見えていくことになる。アイダ がいでたちは一番鳥らしくないと言えるかもしれない。赤地に白の水玉模様の服と白いエプロンは可愛いが、若いお母さんの張り切る姿というところである。アイダ にはかなり感情移入を促さないといけないので、これでいいのだろう。

 雛たちが卵から孵って、アグリィ(キム スンラ)が仲間はずれにされはじめる。特にきょうだいの雛鳥たちが アグリィ を苛めるところは、腹立たしさもおぼえる。周囲の鳥たちも、あからさまに アグリィ を敬遠し、ひどい言葉を投げる。この過程は、かなり不愉快にさせられる。いろいろ笑いを織り込んではあるが、深刻ないじめ事件などが続いてきたわが国において、これは洒落にならないのである。そして、多くの観客は、自分を アグリィ に重ね見ることだろう。誰でもどこかにコンプレックスを持つものだからである。そういうわけで、この過程のなかでは、ギャグがあっても一切笑いが起きない。
 救いは、ほぼ一貫して アイダ アグリィ を庇うところだ。アイダ も、アグリィ を一目見た時には、他の雛たちとの違いに一瞬たじろぐのだが、「ママ」と呼ばれた途端、我が子として慈しむ気持ちが揺るがなくなるのである。原作では、母アヒルさえもがみにくい子を疎んじるようになっていくので救いがないが、ここでは母性の強さと優しさが描かれているのが僅かに嬉しい。もちろんそれを演じるのが 伊藤咲子 であることも、わたしには安堵して観進めることのできる要素である。
 アヒル広場における アグリィ への偏見を収束させたのは、残念ながら アイダ の愛ではなく、女王的存在である グレース(夕貴まお)のアヒルの一声によるもの、つまり権威によって表面的に収束したに過ぎず、本質的には全く解決していないから、不穏さは残ったままだ。その グレース だって、アグリィ と直に接したときは悲鳴をあげたりしたのである。このあたりは、自分も「建前」として差別感情を退けているに過ぎないのではないか、と身につまされる。
 アグリィ 自身も、きょうだい達と同じ声で鳴こうと試みたりして、「皆と同じ」になりたいと願ったり、はたまた「違う」自分を認めてほしい、と「かわってる」という曲で訴えたり、と気持ちが揺れている。

 アイダアグリィ につきっきりで泳ぎを教える微笑ましい場面もあるのだが、独り置いてきぼりにされ、その隙に キャット(三波豊和)に唆されて随いていっしまう アグリィ であった。
 キャット は、アグリィ を食べようとつけ狙い、この後も アグリィ につきまとう悪役で、ミュージカル独自のキャラクターだ。独唱シーンも多く、三波 の豊富なキャリアに裏打ちされお父さん譲りでもある歌唱力が堪能できる。三波 は、劇団四季出身で『キャッツ』の出演経験もある キム に、猫役の演技について助言をもらったという。
 なお、一つの役に固定されている役者は、アグリィアイダキャット 役くらいで、他の脇役たちは、少数の役者たちが兼任で演じている。最も多い役者で一人六役をこなすのだという。そういうところは手作り感が伝わってきもする。衣裳替えが大変だろう。
 キャット に騙されたまま「ランチ」に誘われ、たまたま キャット がボールにぶつかって気を失ったために場を逃れた アグリィ だが、帰り道が分からなくなり、客席に彷徨い出る。
 原作では、周囲の仕打ちに堪えかねた子アヒルが、自分から出奔することになるのだが、アグリィ は、あくまでママや家族たちへの愛着は失わず、心ならずも放浪の旅に出る。

につづく)

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